表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/70

30 誕生会 その2

夏帆目線。



扉を開くと、彼は私を見て、


「夏帆、大切な話がある……」


と真剣そうな表情で私に言ってきた。

何故彼がここにいるのだろう……


まさかの展開に私は固まってしまった。


しかし、それは一瞬。すぐに態勢を立て直し落ち着いた。


「なんの話なの?」


内心不安でいっぱいだったので、強い口調になってしまった。本当は目を背けてしまいたいけど、ここでそれをしたら私の負けだ。


だから、絶対に背けてに彼の瞳を真っ直ぐ見詰めた。

少しの沈黙の後に、彼は口を開く。


「あ、なんというか……その……昨日は、なんか悪かった……俺、多分なんかしたよな……」


「した……」


私は正直に答えた。ここで濁しても仕方ないし、洸夜おばあちゃんに正直であれと言われた気がしていたから。


「だよな……」


「うん……」


彼の声のトーンが変わっていくのがわかる。


「そ、その悪かった……」


「私は謝罪よりも訳を聞きたい、なんで洸夜は、私に隠したの?日曜日本当は、何があったの?」


これは、私が本当に聞きたかったことだった。

謝罪なんてはっきり言うとどうでもいい。私が知りたいのは、隠していた訳と日曜日の現状だ。


「実は、先輩と別れた」


洸夜が言った言葉を私はスルーすることが出来なかった。


「別れたって………やっぱり付き合ってたの?」


本来なら、突っ込まなくてもわかっていたんだ。けれど、私はどうしてもスルー出来なかった。本人の口から改めて聞きたくなった。


「そういう意味じゃない………先輩が遠くな行く前日だったんだ。」


「………え?」


思わず、勝手に声が出てしまった。予想外だった、先輩が遠くに?


「先輩は、自分の夢を叶えるために関西に行った。その前日が昨日だった。」


彼がそう言う。

でも、それが本当なら、今日は………


「……………」


私はどう言えばいいか、わからずに沈黙した。


「それで午前は、約束通りに手伝いをするつもりだと思ってたけど、そこで突然別れを告げられた。」


「……………」


つまり、洸夜は手伝いと知らさせていたのに、そこで突然別れを告げられたってこと?

なんにも知らなかったんだ。だから………


「多分、写真もそのとき撮られた写真だ。」


私が考えていると、彼はそう言った。


「そっか………じゃあ、洸夜が涙を流していたのも変だったのも、全部あの先輩と別れたからなの?」


今、考えているのを無理矢理纏めて声に出した。

本当は、わかっている。彼は、当日に急に別れを告げられ切り替えるには、時間が足りな過ぎたのも全部わかっている。普通なら、涙の一つや二つ当たり前だ。だけど、私はこう言ってしまった。

嫌な聞き方だったと、言った後に思った。訂正しようとすると、彼は、


「否定はしない………けど、俺は割り切って、午後は、夏帆とのショッピングをするつもりだった………」


ここで彼の言葉が一瞬止まった。しかし、すぐに、


「俺が午後のショッピングで涙を流したのは、夏帆とのショッピングルートが先輩とのショッピングルートと全く同じ同じだったからだ。」


「!!………っ…」


私が驚愕していると、


「そして、最後のアクセサリー屋。あそこは、俺と先輩が別れた場所だ。その時、プレゼントしたのが、お前が一番最初につけて俺に見せたネックレスだ」


「!!……………」


私は更に驚く。こんなことがあるのだろうか。ある意味ミラクル過ぎる。

しかし、それと同時に、洸夜の心情も分かった気がした。

同じルートだということは、店に行くごとに洸夜は先輩のことを思い出さなければいけない。

数時間前の出来事で傷は完治なんてしていない。消毒もしていない切り傷をもう一回抉られる思いだっただろう。

そう思うと、私は、彼に同情した。知らなかったとは言え辛いことをしてしまったと………


しかし、彼が次に放った言葉で、私の心は一気に揺さぶられ同情とは無縁の心情になった。


「その時、お前と先輩が重なって……先輩が遠くに行ってしまう悲しみと、お前も同じようになるんじゃないかって………心中不安になっただから、俺は涙を流したんだ。」


それを聞いて私は、嬉しい半分、怒りを覚えた。

悲しいなら、私がいるのに、不安なら私がいるのに、なんでなんで!隠したのかって!!

それをそのままぶちまけた。


「じゃ、じゃあ!!なんで隠したの?電話でそう言えばいいじゃん!!」


「お前が先輩の話をすると、あまり嬉しそうな顔をしないから、言わなかったんだよ!!」


「っ………そんなことで………」


それを聴くと、私の涙腺が緩んでいることに気付いた。


「お前に俺の弱みを見せたくないから誤魔化したんだよ!!!信用していないわけあるかっ!!?

信用してるに決まってんだろ!!!!!!!」


普段の彼とは無縁な大きな声が聞こえた。それだけで私の瞳からは大粒の涙が溢れ出した。

声の大きさから彼の本気度が伝わってくる。それで信用してるに決まってるなんて言われたら泣かない方が無理だよ……。


「じゃ、じゃあ………そのまま信用してよぉ………なんで、私、信用されてないかと思って……」


大粒の涙と一緒に本音がポロポロと零れた。


「悪い………」


彼が一言ポツリと言葉を発したかと、思うと覚悟を決めた表情をして、彼は私にこう言った。


「夏帆………俺、実はお前に嫌われたくない」


この時、私は一瞬思考が停止した。


は?なに言ってんの?こいつ。私がアンタのことなんて嫌いになるわけないじゃん。


本音でぶつかっている私は、自分の心情をそのままそっくり言った。


「は………私、嫌いなんて言ってないんだけど……」


「いや、お前……俺のこと避けてみたいだし………」


彼がそんなことを言う。それを言われたらこちらにだって言い分はある。帰りも一緒に帰ってくれないし、会話すらしてないでただの文通だったもん。


「それは、昔だけだし………今は違うし……」


私はそのまま本音を言った。


「そうなのか?」


彼は不思議そうな表情でこちらを見詰めたから、

「………うん」と言って答えた。

すると、彼は予想外な表情をしながらも改まって、


「とにかく、今回の件は全て俺が悪い。本当に悪かった」


と言って頭を下げてきた。


「はんせいしてる?」


と声を掛けると、「………はい」という返事が帰ってきた。


「じゃあもういいよ。私も一方的に電話切って悪いと思ってるし……」


「じゃあ……もう、この件は水に流して……」


なにも彼が全部悪い訳じゃない。だから、そんな何回も謝罪はいらない。だから、私は許す。

だけど………


「おしまいでいいよ………だけど……これだけは約束して!!」


約束がなければ彼はまたやってしまう気がする。

だから私は約束をすることにした。


「なんだ……?」


「これからは、もっと私を信用して、困ったら私を頼って、わかった?」


少し威圧をかけて念押しすると、彼は「ああ、そうする……」と約束してくれた。


「じゃあ、これで仲直りね」


「ああ………」


彼がそう言うと表情が急に和らいだ。

仲直りしようとしてくれて、改めて私は嬉しくなった。


「じゃあ、ばあちゃんたち呼んでくるけど……」


彼がそう言って部屋を出ようとするところを、


「待って………」


私は呼び止めた。


「………なんだ?」


私も何故、止めてしまったのか、わかっていないけど本能では、今しかチャンスがないと言っていた。こんな絶好のチャンスそうそうないと……

だから、私は………


「さっき、洸夜のこと嫌いじゃないって言ったけど……ホントは大好きだから」


「は?………」


自分でもビックリするくらい言えた。これが本音パワーだろうか?

洸夜の方をみると、硬直しているかのように固まっていた。数秒後、


「大好きって、どういうことだ?」


彼は凄く混乱していた。


「そのままの意味、異性として、私は洸夜が好き」


「俺は、そんないい人間じゃない」


「そんなこと………ない。」


洸夜はきっぱりとそう答えた。きっと洸夜のことだ。また自分には高嶺の花だとか、似合わないとか迷惑かけるとか色々考えているんだろう。

だけど、今日の私は正直だ。このまま自分を貫く。


「洸夜は間違ってるよ!なんでそうやって自分を卑下するの?いいところなんていっぱいある!私が保証する。私は幼馴染じゃないし、昔から一緒にいるわけじゃないけど、これだけは言える……洸夜は優しくて、カッコいい人だよ!!」


「買いかぶりすぎだ……」


「買いかぶりじゃない!洸夜のおばあちゃんもきっと洸夜をいい人だと思ってる。自分ではあんまり感じてないかもしれないけど、ホントに洸夜は優しいよ………そんな洸夜が大好きで………これからも………だから……つ、付き合――」


「待ってくれ……もう、わかった。わかったから。」


もう少しで最後まで言えそうだったのに、それを洸夜が遮った。

わたしには、それが理解できなかった。断られるのかな?と不安になる。


「こ、洸夜?どうしたの?もしかして………」


「そうじゃない……違うんだ。予想外で、驚いて、混乱して、わからなくて……


だから、今、この場で返事をすることはできない。しっかり考えたい。夏帆は俺にとって大切な人だから………慎重になりたい。返事は必ず、俺からするから、少し時間をくれ………」


洸夜の言葉を聞き終え、私は、


「そっか………」と答えた。


「夏帆………悪い……」


再度、彼が謝罪する。

だからもう、謝んないで。それじゃあ、立派な社畜だよー。

私は嬉しかった。

だから、返事なんて少しくらいなら、待てる。

だって……


「いいよ………別に………慎重に考えて答えを出してくれた方が嬉しい……だって、私は、洸夜の大切な人だから……」


私は洸夜の大切な人になれている。それだけわかれば今は十分。私もせっかちじゃないから返事も急がない。それでいいんだ。


私はそう答えると、ドアノブを引いた、そして、去り際に


「今日は、最高の誕生日会にしようね!」


と言って後にした。


老人ホームの廊下を歩いている途中、私は余韻に浸っていた。


今日は波乱の月曜日かと思ったのに、終わってみれば最高の日になった。


洸夜とも仲直りできたし………


それに、一番は…………あんなに苦戦していた気持ちをスッと言えたこと。


洸夜のおばあちゃんは、やっぱすごい。


それと、おばあちゃん。

私と洸夜を出会わせてくれてありがとう!!


――お誕生日おめでとう!!




これにて、この章は終了です。29、30は急いで執筆したため多少修正すると、思います。


振り返ると、この章はシリアス多めでしたね。

ですが、次は砂糖が入ってくると、思います。


次の章は最終章だ!と以前言いましたが、その最終章を二つに分けさせてください。

このままだと最終章が長くなりそうなので………


これまで、見てくださった皆様には、心からの感謝を!


次の章はプロットが完成次第始める予定でいますのでよろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ