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YES/NO『青春デビューに失敗した人間が、異世界デビューを成し遂げられるか?』  作者: 志島踏破
第参章 君のハートをスチールっ★ 〜鍛冶職人系女子メルの依頼〜
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第五十六話 『レイラの抱える悩み』


 レイラは俺の力について深くは追及してこなかった。

 代わりに話しの話題は、テトの救出と残る賊たちの捕縛へと移り始める。


「討伐隊は過去に何度かウチから送ってたんだけどね」


 レイラは倒れた賊の持ち物を物色しながら、話した。

 暫くもぞもぞやって賊二人のポケットから護符のようなものを見つけたらしい。


「けど、成功しなかった。何故かって? そりゃ、あんな重武装の兵隊の群れに突っ込むバカが居る訳ないもんねぇ」


 レイラは苦い顔をしながら、俺たちのもとへ戻って来る。

 使用用途の不明な二枚の護符が、俺とキルナさんに手渡された。

 キルナさんは一本目の『魔具』を吸い切り、吸い殻と護符を腰のサブバッグにしまっていた。彼女に教えて貰ったのだが、先ほど俺が煙草だと思っていたのは、れっきとした魔法道具らしい。現実世界からこっちに来て既に一か月ほど経っているが、まだまだ知らないことは多い。

 

「犯罪行為に手を染める輩に、真っ向から戦いを挑む度胸なんてありませんよ」


 吐き捨てるようにキルナさんは言った。

 すると、レイラがぷっと噴き出す。


「……キルナちゃん。それをかつて『アレ』だった君が言う?」


 可笑しそうに指摘され、キルナさんは「う……」とうめく。

 『アレ』に何かしら含む過去があったようで、俺は蚊帳かやの外へ。

 何だかその状況に納得がいかなくて、こっちから口を出す。


「あの、警戒されてるのが分かってたんなら、他の方法を試してみたりしたんですか?」


 俺の言葉にレイラとキルナさんは口を閉ざす。

 盗賊たちが彼女らロイヤルギルドの目から姿をくらましていたのなら、正攻法は通用しない。

 例えば、ギルド員が普通の商用車列にふんして、賊に襲撃されるのを待つとか。

 だまし討ちみたいなやり方だが、馬鹿真面目にイストナロードを練り歩くよりよっぽど効果はあるだろう。


 レイラは、俺の示唆に悲しげな顔をつくった。


「当然ながら――」


 キルナさんが見かねた様子で口を開いた。


「……当然ながら、そういった方法も視野に入れていた。しかし、やる側に問題があってね……」


 そこまで言うと、彼女の言葉がぶつ切れる。

 言うか言うまいか迷っている様子だ。

 その碧眼が見つめる先には、眉根が落ち顔の下がり気味なレイラが。


「隠し立てしても意味ないかな。教えてあげるよ、古谷君」


 

 僅かに陰のある調子でレイラが語る。

 小さな口が小さく動いた。


「私は、ギルド員たちから信用されてないんだ」


 その一言を聞いたキルナさんの顔が少々ゆがんだように見えた。

 

「え……」


 思わぬ告白にたじろいでしまう。


「いいかい、古谷君。ウチの人たちはメンツというのを第一に重んじるんだ。つまりね、融通が利かないんだよ」


「奇襲も罠も、ウチの人間は誰もやりたがらない。効率的なやり方には首が回らないのさ」


 レイラの話にキルナさんが補足する。

 彼女の口添えにレイラは小さく頷く。


「私もこの有り様では仕事が進まない、と思ったさ。だから、今回の賊の一件でも、トラップ的やり方を討伐隊に指示したよ。けど……」


「けど?」


「彼らは従ってくれなかった。結局、盗賊共の壊滅は達されず。この周辺は警戒区域だと認知させてはいたが、いつまでも彼らを野放しにしていたこちらにも問題があった」


 全て私の責任だ、すまない。

 レイラはそう言うと、俺に頭を下げた。

 赤茶のツインテールが揺れた。


「いや、あの……」


 危険を承知で突っ込んでいったのは、俺の責任だ。

 レイラがどうして、団員に指示を通せないのかの原因は不明だが、それが分かった以上、彼女に頭を下げさせる必要もない。

 深々下げられた彼女の頭が痛々しい。


 こんなとき気の利いた言葉でもかけられたらよいのだが、


「レイラは、悪くないんじゃない……かな?」


 出てきたのは、小学生でも思いつきそうな励ましだった。

 しかし、効力はあったようで彼女は顔を上げてくれた。


 「ありがと」


 にっと白歯を見せ、レイラはそう言った。

 しんみりしていた空気の温度が僅かに上がった。

 その代わり、


「レイラだと……? 呼び捨てとは何様のつもりかね……? フルタニ君……」


 キルナさんが目を剥いていた。

 背中に装備された大剣の柄に手が。

 

「のわぁーっ!」


 身体をのけ反らした所にとんでもない物理量が振り下ろされた。

 小クレーターが足元に出来上がる。

 狂犬のような目が、ギロリと俺を追った。

 追撃を加えようと、大剣が地面から持ち上げられ、


「いいよ、キルナちゃん。その辺にしときなって」


 レイラに制止された。


「し、しかし……」


 納得のいかないキルナさんに対し、レイラは面白可笑しそうにくつくつと肩を震わせている。

 彼女は、にこやかに俺の方へと歩み寄ると、尻餅状態から救い出してくれる。


「特別に呼び捨てを許可してあげる。その代わり、団員の前では敬語を使ってね。おーけー?」


「お、おーけー……」


「ふふっ。じゃ、改めてよろしくね、ユウト」


 下の名前で呼ばれた。

 華奢な手が握手を求めてくる。

 ちらっと後ろのキルナさんを見る。

 嫌そうな顔で、しっしっと手を振られた。

 好きにしろ、ということらしい。


「……よろしくな、レイラ」


 やわらかな感触が右手に触れた。

 すぐ近くにあるレイラの顔が不意に破顔する。

 その笑顔は年相応な女の子に見えた。


「ッ?! レイラ様ッ!!!」


 突然、大声が飛んでくる。血相を変えたキルナさんが怒鳴っている。

 何かを警告している……?

 その瞬間、俺とレイラの頭上に大きな影がかかった。

 見上げると、あり得ないサイズの魔獣が、大木のような腕を振り上げていた。

 重い攻撃が二人を叩き潰そうと襲ってくる。

 レイラは後ろの敵に、気付いていない。


「――っぁぶな」


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