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YES/NO『青春デビューに失敗した人間が、異世界デビューを成し遂げられるか?』  作者: 志島踏破
第参章 君のハートをスチールっ★ 〜鍛冶職人系女子メルの依頼〜
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第五十五話 『思わぬ救助』

 ピィーッ!


 キルナは、未だこちらに気付いていない盗賊二人に向かって口笛を吹いた。

 

「ちょっと?!」


 慌てる俺に、キルナは涼しげな顔を崩さない。

 彼らがたまたま見逃す可能性に賭けたが、それも空しく、


「なァッ?! 何者なにもんだッ!!」

「くそっ! 他にも仲間がいたかっ!」


 彼らは腰のベルトから短剣を取り出し、戦闘態勢に入る。


「ちゃおー」


 対して、彼女は抜刀もせず、ぷかぷかと煙草をふかし、かったるそうに挨拶する。

 彼女の装備する巨大な剣は背中の鞘に収まったまま。

 彼らが警戒を続ける中、彼女は右手の人差し指を立て、『うえうえ』と指を振った。


「「……?」」


 賊二名は首を傾げ、目線を上げた。俺も何のことか分からず顎を上げる。

 高木こうぼくの幹に誰かが立っている。

 こちらを静かに見下ろしていた。

 小柄な人間。マントを深々と被っている為かその正体は判然としない。


「……」


 そして、第二の乱入者は無言のまま垂直落下を始めた。

 

「あぶな――」

「あの方なら大丈夫だ」


 踏み出そうとした俺の肩をキルナが押し留め、


「がッ?!」

「ぎゃっ!!」


 賊二名の断末魔が。


「え……」


 俺は二、三度瞬きする。

 木の上に居た人間が信じられない動きをした。

 空中で数回回転したかと思うと、一人目を真っ逆さまに叩き落し、もう一人をしゃがんだままのロールキックで吹き飛ばしてしまった。

 一人は地面に顔面をぶつけ、もう一人は大木に衝突する。

 脅威は思わぬ形で薙ぎ払われてしまった。

 敵が動かなくなったのを確認すると、


「ふぃー」


マントの人物がゆっくり立ちあがる。

 俺とキルナの方に向き直る。唖然。馬鹿みたいな反応しか出来ない。

 しかし、キルナの方は、それをさも当然とでも言わんばかりの表情だ。


「レイラ様、あと十一名の賊がこの森に散開しているようです」


 キルナの呼びかけに応じるように、レイラと呼ばれた人物がフードを剥ぎ取る。

 小ぶりな頭が顕わになった。

 ツインテールの赤茶髪に茶瞳。眼は鋭くなく、優しげ。

 身長も俺の胸元までしかなく、どこにでも居そうな普通の村娘のような少女だった。

 とてもついさっきの神懸かった動きをした人間と同一人物とは思えない。


「――のようだね。しかし、間に合ってよかったよ」


 その少女は嫣然えんぜんと笑うと俺の正面へと歩み寄った。華奢な手が差し出される。

 何が何だか分からないが、取り敢えず握手に応じることにした。

 先の戦闘を見る限り、この女の子には逆らわない方が良い。

 俺が手を握ると、


「初めまして、古谷悠人ふるたにゆうと君。私はレイラ・レインブラッドというものだ。ロイヤルギルドの支部長なんてやってるよ」


これまた衝撃的な紹介をしてくれた。

 とても、シブチョーって年齢には見えないのだが……

 だが、声は可愛らしいのに、年季の入った軍人らしき喋り方。

 戦場を渡り歩いてきた老兵の如き落ち着いた振る舞い。

 見た目以外は、例のロイギルのボスとして相応しいものがある。


 しかし、今はそれよりも気になることが。


「な……んで、俺の名前知ってんの……?」


「ひ・み・つ★」


 唇に人差し指を当てた状態で、ウィンクを返される。

 チクショウ、可愛いじゃねぇか……。

 どうやら、女の子らしさというのもあわせ持っているらしい。これは凶悪。


「フルタニ君……レイラ様に手を出したら……」


 物凄い怖気が、お隣さんから発散された。

 石ずりのような音がして、キルナの大剣が凶悪な刀身を見せる。

 

「だだだ出さないっ! 出さないからっ! それしまって下さい!」


「……頼むよ、君。私はそんなに寛容な人間ではないんだ……」


 慈悲の欠片もない目でそう言われ、キルナの殺気は引っ込んだ。

 まったく、番犬もいいところだ。このちっこい少女に言い寄る男は大変だろうな……。

 どうでもいい心配をした所で、電撃的に思い出す。


「そうだッ! 俺のっ、俺の仲間は今どこに?!」


 もう頭の中はテトのことで埋め尽くされている。

 先ほどの監視の話とキルナの推測を聞く限り、彼女はまだ捕まっていない。

 今もこの森のどこかにいるのだ。


「ちょっ……揺すらないでくれよ……。酔っちゃうよっちゃう……から、おえぇ」


 目をグルグル回転させて、レイラは顔を青ざめさせる。


 「よせ、フルタニ君。彼女は乗り物に弱いんだ」


 キルナはそう言うと、無理矢理俺の腕を引きはがす。

 まったく抵抗出来ない握力だった。

 俺の肩揺すりから逃れたレイラははぁ、と息をついてゆっくり話し始めた。


「すまないが、私たちも今来たばかりでね。分かっているのは、そこの連中に裏切り者が出たってことくらいだよ」


 彼女は、地面で寝ている賊二人を後ろ指で指し、「なんでか分かんないけど……」と付け加えた。

 キルナがレイラの話を取り持つ。


「この辺りは彼ら『街外れの盗賊団(アフターウルフ)』が盛んに活動している。護衛も無しに行くのは、かなり危険だったと思うのだが」


 肝心な所で頼りにならない救助だと思っていた所に、この言葉。

 キルナは遠回しに俺の考え足らずを非難しているらしい。

 確かに、俺には甘い考えがあったかもしれない。自分一人の力で


「まぁまぁ、キルナ君。彼もそれくらいは承知で例の依頼を引き受けたんじゃないかい?」


 レイラはキルナを制止して、じっと俺の顔を覗き込む。


「たとえばどんな連中が襲ってきても、叩き潰せる力を持っていたりとか……ね」


 なぜ知っている……。

 突然現れた少女は俺を見ながらニヤニヤと笑っていた。


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