第八章 長野 隆平
まったく驚きだった。俺の親友が、あいつに興味を持っていたとは。しかもあいつ、顔を赤くしたっきり、何聞いても答えないでだんまりを決め込んでた。なんだかおもしろい展開になりそうだ。
……森沢と佐奈恵を、くっつけてみるか。
大体の部は運動会練習が関係しているのか休みで、俺の所属しているサッカー部も休みだった。
とりあえず俺は、わざと東階段とは逆の、西階段の方へ向かって、教室の前を歩いた。佐奈恵が何組かを確認するためだ。佐奈恵は二組にいた。中学に入ってから、一度も会えてなかったから、こんなに近くにいたのか、となんだかうれしく思えた。
佐奈恵が二組にまだいるということを確認すると、森沢に気付かれないよう、急いで玄関へ向かった。
靴を外履きに履き替え、一年二組の下足箱前でしばらく待っていた。待っている間、一年生の副担任が、俺を訝しげな顔で見ていたが、俺がさようならー、と笑顔を取り繕って挨拶すると、相手の方も「はい、さようなら」と笑顔を返し、どこかへ行った。
しばらくすると、やっと佐奈恵が来た。相変わらずほんの少し猫背気味、というのは直っていない。
「よォ」
俺が声をかけると、満面の笑みで「長野さん!」と駆け寄ってきた。
「おいおい、幼馴染なんだから、『長野くん』にしようぜ?」
佐奈恵はあはは、と笑い、しばらくキラキラした目でこっちを見つめてきた。小学生のころと変わらず、まるで俺を先輩と見ているようで、そんな風に接されたら、まるで佐奈恵がかわいい後輩のように感じられる。
「それで、どうしたんですか? 突然こんなところで偶然会うなんて、絶対何か用があるんでしょ?」
佐奈恵がふと不思議な顔をしながら聞いてくる。あぁ、と答えながら、俺は佐奈恵を玄関から出るようにうながした。森沢に見られたら、せっかくの計画が台無しになってしまう。
「さすがだな。昔っからお前は、洞察力に優れてるな」
「そんなの、誰だってわかります!」
ブーブー言う佐奈恵がなんだかかわいく思えて、同い年だということも忘れて頭をぽんぽんとしてしまう。もー、なんなんですか、と拗ね気味に手を振り払った。そんなことをしながら玄関をでて、校門までゆっくり歩いた。
「佐奈恵さぁ、この前のバスでメガネで英語の本に没頭している少年、覚えてる?」
そう聞いた途端、佐奈恵は顔を真っ赤にして、石にこけた。校門の外にはなぜか石がたくさん転がっている。まだ明るいのにつまづくなんて、おっちょこちょいな奴。
「おいおい、気を付けろよ」
そう言いながら佐奈恵の身体を支えてやった。
「覚えてます……今日、実は体育館で会っちゃって、彼の足につまづいて転んじゃって、彼に助け起こしてもらったんです」
語尾が小さくなるにつれて、佐奈恵の顔がみるみる赤く染まる。
……おもしろいじゃねぇか。
「それで? 何か話したか?」
さらに続けるよううながす。
「ううん。でも、『君はもしかして、バスで……』みたいなこと言ってたような気がする。私は恥ずかしくてなんにも話せなかったけれど……」
ふぅん、なんかまるで、どっかの恋愛小説みたいだ。くっつけがいがありそうだな、よし。
「そうか。あいつ、実は俺の親友なんだ。森沢 学っていうんだけど、かなり頭がいいんだぜ?」
佐奈恵はかなりあいつに興味を持ったようだ。気が付くと互いに真逆へ行くところまで着いていた。
「じゃあな、気を付けて」
「長野さんも気を付けてください!」
「おぅ、また一緒に帰ろうぜ」
「はいっ、よろこんで!」
俺はピースサインを佐奈恵に向かってして、ポケットに手を突っ込んで家まで帰った。まだ明るいから、もう佐奈恵が石にこけることなんてないだろうけど。そう思いながら、クスクスと笑った。
ありがとうございます!
九話でもお会いしましょう!




