②
【じんぶつしょうかい】
・勇者…中学生男子。調子に乗りやすいのが玉に瑕。
・魔人…淫魔。アホっぽい話し方が玉に瑕。
・使い魔…狼もどき。犬に見られる忠実さが玉に瑕。
・村人A…田舎村の住民。勇者見付けたモブ。
・村人B…田舎村の住民。Aの言葉に続くモブ。
・村人C…田舎村の住民。何人増えるかわからないモブ。
・村長…田舎村の長。最後に登場、いいとこ取り。
【妄想、暴走】
勇者「娑婆の空気がうまい」
魔人「勇者のセリフじゃないな、それ」
使魔「剣も鎧も返してもらえましたし、食事と入浴も済みましたね」
勇者「身体を身体で洗ってくれてもよかったのに(チラッチラッ)」
使魔「私が洗いましょう。爪で」
勇者「やめて」
魔人「じゃあ、簡単に自己紹介!ボクはこの前いったけど、モンスターで種族は淫魔。得物は剣と弓。よろしく!」
使魔「私は使い魔です。マスターのお世話をしてます。あと、犬ではありません」
魔人「ボクらは、キミを魔王とやらのところへ無事に連れて行くのが仕事だ。旅慣れもしてるから、安心してくれていいよ」
勇者「でも、いいのかよ。魔王って、あんたらの親玉だろ?…ハッ!まさか元は魔王の愛人で、捨てられたから恨んで対局にいる勇者のところへ来たとか!?勇者の側にいるうちにいつしか、身体だけじゃなくて心まで惹かれるように…」
魔人「どうしたら、そんなに妄想が広がるんだろう」
使魔「肉体関係は前提ですか(ギリギリギリ)」
魔人「いや、ないから。絶対にないからな?」
【ドヤァ】
魔人「ボクら、普通にニンゲンに混じって生活してて、魔王の配下ってわけじゃないよ?」
勇者「えっ?モンスターなんだから、魔王の手下だろ?普通にニンゲンと混じってるって、無理じゃね?」
魔人「失礼だなー。モンスターっていったって、ヒト型を取れる所謂、魔人のことだよ?つまり、見た目上はニンゲンと変わらないんだ。勇者だって見た目だけなら、ボクがモンスターだって気付かなかったと思うよ」
勇者「そうやって、人間に混じって男を誘惑してるんだろ?この淫魔めっ!」
魔人「淫魔の部分だけ、否定しない」
魔人「そもそも魔王って呼ぶのは、ニンゲンだけだね。モンスター内最強が名乗るわけじゃなくて、各種族の中で生まれる最も優れた能力を持つ者を指すんだ。便宜上、“王”と呼んでいるけど、別に国があるわけじゃない。一族と一緒にいない場合もあるし、生まれた土地を離れる場合もある、そもそも生まれない場合もあるしね」
勇者「は?生まれないってことあんの?」
使魔「ええ、ありますよ。マスターの前は、淫魔の王は空席でした」
勇者「えっ、マジで!?あんた王様なんだ…」
使魔「しかも、二種族兼任です!」
魔人「いや、なんでキミがそんなに自慢げ?ドヤ顔、すごく可愛いけど(かいぐりかいぐり)」
勇者「…ドヤ顔してんのか?さっぱりわからないんだが」
【いま、そこにある危機】
魔人「と、いうわけで、魔王が世界を滅ぼすとか、そんなファンタジーにありがちな展開はないから安心してほしいな」
使魔「我々がいますから、旅の間は生命の危機もありませんよ」
勇者「そうか、わかったぞ!オレの聖剣(下ネタ)で、魔王たちを倒せばいいんだな!よし、手始めに淫魔ちゃんをぐへへっ(イヤラシい手付き)」
魔人「あれ、ボクが貞操の危機?」
使魔「…訂正します。生命の危機は、多少ありますね。例えば、今だとか」
【…フッ、チョロい】
使魔「勇者殿には、魔王と呼ばれる者を説得していただきたいのです」
勇者「頼む、ヤらせてくれ」
魔人「ボクじゃないよ」
使魔「ゴホン。説得の方法は、勇者殿におまかせしますが、人道に反することは控えた方がよろしいと思います」
勇者「犬が咳払いとか。しかも、人道を説かれた」
使魔「私は犬ではありません」
魔人「話を聞け」
勇者「なら、なんでわざわざ│異世界にオレが呼ばれたんだよ?武力にしろ話術にしろ、こっちの人間がやった方がよくねぇ?」
魔人「んー?国家機密だからって、ボクらは教えてもらえなかったけど、キミじゃないと駄目な理由があるんじゃないかな?」
勇者「そっ、そうか。オレしか出来ないことなんだな、うん!(テレテレ)」
魔人「どうしよう。勇者がチョロい(驚愕)」
【一人諜報員】
魔人「どう考えても、怪しいだろうに(ボソッ)」
勇者「ん?何かいったか?」
魔人「いいやー?何も」
勇者「いやーまさか、国家プロジェクトに参加するなんて、オレもすごいな」
魔人「微妙に違う」
使魔「しかし、あっさりと他国に流れた情報が国家機密などと」
魔人「大事だからじゃないか、体面が。しっかし、うちの国王陛下の情報収集力には毎回、驚かされるよな!ボクみたいにしょっちゅう国外に出でもないのに」
使魔「………」
魔人「ん?どうしたの、妙な顔して」
使魔「…いえ。ところでマスター、前回の定期連絡のときに陛下と何を話されました?」
魔人「前回っていうと、召喚国に着いた日か。うーむ、王都に向かう途中に立ち寄った町や村に人が少ないとか、みんな覇気がないとか、野菜や果物、肉魚が売り場にあまりなかったとか。不作とかじゃなくて、働き手がいなくて回らないんだってさ。そりゃ、少ない人数で仕事回せば疲れて覇気もなくなるよ」
使魔「他には?」
魔人「あとは…そうだな、人が少ないのは中央に働きに出たとか国外に出たとかそういう理由じゃないし、人死にが出るような感染病でもない。でも、人は減った。少なくなったのは十代半ばから四十代前半の、まさに働き手になる男が大半」
使魔「そして場所は、異世界召喚を│行った国」
魔人「そう、│行った《・・・》国だ。馬鹿らしいな、そこで対処すればよかったのに更に悪化させて、他国に付け入られるだなんてな」
使魔「それを全て、陛下に伝えたのですね。納得しました」
魔人「ただ自国にいる親友に、旅行先の話しをしただけさ(妖笑)」
勇者「一人と一匹で、さっきから何を話してるんだ?」
使魔「だから、犬ではありませんって」
【勇者的王道イベント】
魔人「あっ、機密といえば勇者君。キミの鎧の下ってこれ、学ラン?」
勇者「あぁ、そうだ。うちの中学、制服は学ランなんだよ」
使魔「騎士服のようですね、その詰め襟の服は。しかし、不思議な光沢のある生地ですね。丈夫そうに見えて、重くなさそうですし。上質で珍しい生地です」
勇者「そうか?毎日着てるから、あまり感じないけど。…で、学ランがどうしたんだよ?」
魔人「皺寄ってるから、気になって」
勇者「オカンかよっ!」
使魔「あっ、本当ですね」
魔人「キミはどちらを肯定してるんだ、いったい?」
魔人「(皺を伸ばしてやりつつ)学ランってよりも、生地が珍しいんだよね。いかにも高級感溢れる上品なもので、見たこともないどこで織られたのかわからない美しい布で作られた、そんな衣装だ」
勇者「ふ~ん。そんなもんか?」
魔人「で、そういうものを着てたりすると悪い奴に狙われたりするわけ」
使魔「経験者」
魔人「(目を逸らしつつ)だけど、狙ってくるのは悪人だけじゃない。むしろ、悪意がない方がやっかいで、いらんことを頼んできたり……」
村人「その鎧と剣、見慣れない服はもしや!あなた様は勇者様ではありませんかっ!?」
魔人「遅かった」
勇者「あぁ、そうだっ!」
使魔「肯定されてしまった」
村人A「おぉ、神よ!感謝いたします!」
村人B「実は、私どもの村から近い山にドラゴンが住み着きまして困っているのですよ!」
魔人「増えた」
使魔「困るだけですか?」
勇者「ど、ドラゴン?すげぇっ!ファンタジーな生き物、マジでいるんかっ!」
魔人「勇者という存在も、ファンタジー」
使魔「マスター、我々もでは?」
村人A「このままでは、狩りにも出れず、山の実りも手に入りません」
村人B「村の狩人たちが山に退治に入ったのですが、命からがら逃げ出す有様で…」
村人C「そして最近、ドラゴンが若い娘を生贄に要求してきたのです!」
魔人「もう、突っ込まない」
勇者「イベント?これ、イベントだよなっ」
使魔「“いべんと”って、なんでしょう?マスター、私一人で突っ込むのは大変ですので助けて下さい」
魔人「ごめん、少し休ませて」
勇者「若くてキレイで無垢な娘さんを花嫁に要求するなんて、ふざけた哺乳類だな!」
魔人「そこまでいってない。あと、爬虫類の間違えだ。…マズい!思わず無意識に突っ込みをっ!?」
使魔「帰ったら、陛下に少しは優しくして下さいね」
魔人「…普段、突っ込ませ過ぎてるからか?」
村人A「若い娘たちが怯えているのが不憫で不憫で……」
村人B「しかし、山に入れなければ村人は飢えてしまいます」
村人C「備蓄ももう、残りわずか」
村長「これも神のお導き。どうか勇者様、我々をお救い下さい!!」
魔人「今更、村長の登場っ!?」
使魔「責任者は、最後に出て来た方が説得力があるのでは?」
勇者「わかった!オレたちが邪竜を退治して、村を救ってやるよ!」
魔人「……いうと思った(ゲンナリ)」
使魔「しかも、さりげなく我々も中に入っています」
魔人「よしっ!コッソリ逃げるかっ」
勇者「一人と一匹でコソコソと何してんだよ(ガシッ)勇者一行なんだから、人助けは当たり前だろっ」
魔人「いつからキミのパーティに、ボクらが入ったのさ。逆だよ!」
勇者「何いってんだ!勇者であるオレがリーダーに決まってるだろ!リーダーの決定に従えっ!」
魔人「なっ、なんという上から目線。面倒くさっ」
使魔「ここで時間を掛けるのも無駄ですし、勇者殿には黙っていただきますか?物理的に」
魔人「怖いな、キミ」
村長「ありがとうございます!皆の者!歓迎の宴だっ」
村人一同「「「「「おうっ!」」」」」
魔人「囲まれている…だと?」
使魔「組織的犯行」
魔&使「「ギャーッ!?」」
村人「「「「「わっしょい、わっしょい」」」」」
勇者「わははははっ!勇者なんだから、気にするなっ!かならず邪竜は退治して娘さんたちは助けるからな~」