21話
カフェを出た後、
咲と優は、まだ少しだけ盛り上がったまま歩いていた。
「最後の展開、あそこ良かったよな」
「うん、あの伏線回収きれいだった」
映画の感想を言い合う時間は、思っていた以上に楽しくて、咲は少しだけ気が緩んでいた。
(なんか、普通に楽しいな)
その“普通に楽しい”が、最近の優には少しだけ増えていた気がしていた。
話しかけてくる回数。
隣にいる時間。
映画も「見たいから一緒に行く」と言ったこと。
それを、咲は深く考えないようにしながらも、どこかで勝手に期待していた。
そのときだった。
「優」
前から女子が声をかける。
クラスの子だ。
「おー」
優は軽く返す。
女子は優の隣にいる咲を見て、少しだけ目を止める。
「ねえ、最近さ」
「ん?」
「橋本さんとずっと一緒だよね」
咲の胸が、ほんの少しだけ嫌な音を立てる。
優は軽く笑う。
「たまたまだろ」
女子は少し笑って、でも視線は外さない。
「やっぱりさ、そういう感じなの?」
空気が一瞬止まる。
咲は前を向いたまま、息を止める。
優は即答した。
「違う」
「ただの幼馴染み」
その言葉は、軽く、当たり前みたいに出た。
でも——
咲の中で、何かが一気に落ちる。
(あ、そっか)
最近の態度。
ちょっと優しい言葉。
映画に一緒に行く流れ。
それ全部に、勝手に意味を重ねていたのは自分だった。
優は何も変わっていないのかもしれない。
ただ自分が、少しだけ期待していただけで。
喉の奥がきゅっとなる。
視界が少しだけ滲む。
(やだ、これ)
咲は反射的にメガネを押し上げる。
でも意味がない。
涙が出そうなのを止められない。
優が横で何か言っている。
でも聞きたくない。
見られたくない。
「……ごめん」
小さく言って、咲はそのまま背を向けた。
「咲?」
優の声。
でも振り返れない。
そのまま走り出す。
人混みの中をすり抜けて、ただ逃げる。
(見ないで)
涙がこぼれそうなのが一番嫌だった。
咲はそのまま走り続ける。
優の声は、後ろで一度だけ呼ばれた気がした。




