22:消すしかない?
建国王に瓜二つの美しい騎士、ライト・アーク・スタンリーのような殿方が好みなのか――?とオルゼアに問われ、困惑する。
「!? そんな、好みとかそういうわけでは。単純に、授業で習った建国王にそっくりな方がいたので、気になってしまっただけです!」
まるでノクスのことを好きなのかと聞かれたように感じ、慌てて否定してしまう。ノクスは魔王討伐の仲間であり、頼りになるリーダーだった。そんな色恋沙汰の尺度でとらえるなんて、罰が当たる。
「そんなに否定されなくても。レミントン公爵令嬢は現在、婚約者がいない身なのですから。今ならどんな殿方と恋に落ちても、問題ないのですよ」
「!! それはそうかもしれませんが……。建国王に瓜二つで、しかも王太子様の近衛騎士の副団長だなんて。近寄りがたいです」
「レミントン公爵家の令嬢なのに?」
オルゼアが食い下がることに、なんとか反論しようと思ったものの。話題を変えることを思いつく。
「私は王都について詳しいわけではないのですが、こんな噂を聞きました。王都には神聖力が強い聖官ではなく、騎士がいると。そんな方、いるのでしょうか?」
私の問いに、オルゼアの銀色の瞳に、一瞬動揺の気配が漂う。でもすぐにその動揺を鎮め、彼は息を小さく吐く。
「……ええ。いますよ。彼はわたしがいなければ、聖皇になるはずの人物でした」
「まあ、そうなのですね。どうしてその方が騎士で、オルゼア様が聖皇に?」
無邪気に尋ねると、オルゼアは話してくれた。師匠が調べてくれた内容と一致する話を。でもノクスが暗殺者の黒幕であることまでは、話さない。それはオルゼアの配慮に思えた。私はまだ、ノクスと会話すらしていない。ここで黒幕であると話せば、私が先入観を持ってノクスと接することになる。しかも彼の話ぶりからするに……。
私がノクスに一目惚れしたとでも思っている? それは大いなる誤解なのだけど。
いや、でも勘違いさせた方がいいのかしら?
もしオルゼアが覚醒しても、私が既にノクスを好きと思ったら、手を引いてくれる?
いや、それはないのでは? 魔王ルーファスなのだ。魔王が手に入られない物はない!とばかりに、ノクスを害するようなことがあってはならないわ! 師匠だったらルーファス相手でも、のらりくらりかわせそうだが、ノクスなら真っ向から挑み、大変なことになりそうだ。
というか、魔王ルーファスの記憶を取り戻しても、オルゼアは聖皇なのだ。オルゼアはあの魔王ルーファスの生まれ変わりだ!と言っても、誰も信じないだろう。信じないぐらいの実績も、既にオルゼアは積んでいる。
そう考えると、覚醒したオルゼアをもし闇に葬るなら、ノクスのように暗殺者を使い、消すしかない。
オルゼアを消す……。
そうした方いいのだろうか? 魔王の生まれ変わりだからと、何が何でも消し去ることが正解なの? ノクスが今、動く理由は分かる。前世での因果があるから。でも師匠や私は……。
道連れにされたことへのリベンジ?
いや、別にこうやって転生できたのだ。リベンジはしなくてもいい。ただ熱烈アピールをされたら困るが、だからって葬り去りたいかというと……。
チラリと対面に座るオルゼアを見る。
まさに人畜無害な、大人しい子羊にしか見えない。白い衣装をまとっているから、なおのことそう思える。魔王ルーファスだった時の、あの黒く美しい獣、恐ろしい猛禽類の気配は皆無だ。それは覚醒前だからかもしれないけれど……。
覚醒もしていないオルゼアを消そうとしているノクス。彼がそうしたくなる理由は分かるが、この時代、この世界で、何も悪さをしていないオルゼアを害そうとするのは、どうなのだろう。
ノクスと話してみる必要があるかもしれない。
「……いずれにせよ、各種行事、式典、舞踏会、晩餐会と、スタンリー副団長と会う機会はあるでしょう。ただそれは王太子様の護衛として動いているので、私語に応じてくれることはないと思いますが」
オルゼアは気を使ってか、ノクスと話せる機会について話してくれていた。どうしてもノクスと話したと思ったら、魔法を使えばどうとでもできるから、それはもういい。それよりも……。
「オルゼア様、これが王宮ですか?」
「ええ、その通りですよ」
王宮のエントランスに到着した。