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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
間章

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次元の狭間の空間でのとある日常

 ここは次元の狭間の空間、数多の異世界を巡る異世界渡航者・川畑界斗の活動拠点である。


 そんな次元の狭間の空間内にはいくつもの施設があるのだが、中でもケティーが管理する売店は中身はともかく、外見がプレハブ小屋であり、周囲に放置するように置かれているリヤカーや積み上げられた木箱と相まって、片付けされていない倉庫のような雰囲気を醸し出していた。


 そんなケティーの売店の前に今、自分とフミコ、ケティーの3人は立っている。


 「そんなわけで川畑くん、建物の外観を変えて欲しいのよね」

 「そんなわけでって言われてもな……」


 確か外見は別にプレハブ小屋でいいって言ったのはケティーだったはずだ。

 それを今更変えろと言われてもな……


 まぁ確かに、売店を設置した時はカグに紹介されてケティーとはじめて会ったばかりだったし、ケティー自身、その時は頻繁にここに出入りするとは思ってなかったのだろう。


 そして次元の狭間の空間だから通常の物理法則が当てはまらないため、外見と中身の広さが一致しない。

 外からの見た目がアレでも、中に入れば広い売り場面積を誇るお店にできると聞けば文句はなかったはずだ。


 とはいえ、いつからかケティーの次元の狭間の空間への常駐度は高くなり、朝昼夕も食堂で一緒に食べるようになり、今ではプレハブ小屋の横に大型のキャンピングカーを置いて、どこかの異世界へ商売や商品の仕入れに行っていない時はそこに寝泊まりするようになった。


 なぜそうなったのか?

 まぁ、フミコが仲間に加わってからケティーの行動が変わったあたりから理由は察せられるのだが……

 そこはあまり深く考えないようにしよう。


 さて、そんなケティーであるが、ついに大型キャンピングカーでの生活に飽きたらしく、自分もフミコと同じように寝泊まりする部屋を用意してくれと言いだしたのだ。

 そして、その部屋を作るついでに売店の外観も変えてくれと要求してきたのだ。


 さて、この要求に応えるべきか否か?

 そう考えているとフミコが。


 「かい君、ケティーの言う事聞く事ないよ? そもそも外観変えたきゃ自分ですればいいじゃない。ほらなんだっけ……DIY? とかいうの。ケティーは商人なんだから素材はいくらでも持ってるんだろうし」


 ため息まじりにそう言ってきた。

 するとケティーがフミコを睨み。


 「布団じゃなくてベッドがいい。それじゃなきゃ寝れない! とか言いだしたの、どこのどいつだったっけ? それこそ川畑くんに頼まず自分で作ればよかったんじゃないの?」


 そう意地悪く言いだした。

 フミコはそれにカチンときて。


 「あたしの部屋はかい君が用意してくれたものだから、かい君がいじらないとダメなんですー。次元の狭間の空間はそうなってるんですー」


 などと言いだした。


 「それを言ったらこの売店だって川畑くんが用意してくれたものなんだから川畑くんに変えてもらわないといけないんだけど?」

 「キャンピングカーは私物でしょ?」

 「私物を置かないように私の部屋も追加してって話なんですけど?」


 そして、またいつもの喧嘩がはじまった……

 とりあえず長くなりそうなのでアビリティーユニットをメンテナンスするための施設へとひとり歩いて行く。


 「まぁ、売店の外観を変えるくらいなら問題ないだろ……ケティーの部屋を追加するのは……まぁ、ケティーもここの住人みたいなものだしな、いつまでもキャンピングカー暮らしも可哀想だろう。うん……」


 そう独り言のように呟いてメンテ施設に入った。

 そして多数あるパソコンの中のひとつの前に座り、コードを打ち込んでいく。


 「って言うか外観を変えるのはいいけど、どんな外観にすればいいんだ?」


 そう口にしたところで背後から声がした。


 「そうだねー、コンビニちっくなの?」


 ビックリして振り返るとニコニコ笑顔のケティーと不機嫌そうなフミコがいた。


 「いや、入って来たなら声かけろよ」

 「それを言うなら川畑くんこそ急にいなくならないでよ!」

 「そうだよ! どこ行ったんだろう? って一瞬思っちゃったじゃない!」

 「まぁ、私はすぐにここだって気付いたけどね!」

 「はぁ? ここかなって言ったのあたしなんだけど?」

 「ついさっきの事も記憶改竄しちゃうなんて、ほんと弥生人ってすごーい(棒読み)」

 「ケティー、てめー!」


 そう言ってケティーとフミコが再び喧嘩をはじめた。

 ほんとこの2人は……せめて精密機械のないところでやってくれ。


 「いいから落ち着け! っていうか外観がコンビニちっくだと、このメンテ施設と被るだろ」

 「じゃあここの外観オフィスっぽくすれば?」

 「オフィスっぽくって何だよ」

 「オフィスビルっぽくって事。メディカルセンターも入ってるんだし、そっちのほうがよくない?」


 ケティーに言われて考え込む。

 まぁ、そういう外観の建物があったほうが次元の狭間の空間も小さな町っぽくなるか。


 「わかった……じゃあ、ここの外観はオフィスビルっぽくして、ケティーの売店はコンビニっぽい外観に変更するよ」

 「やったー!!」

 「ちょっとかい君! ケティーを甘やかしすぎだよ!」


 ケティーの案を採用した事にケティーは喜ぶがフミコは当然怒ってきた。

 なのでフミコの怒りを収めるべく、フミコにも提案してみる。


 「まぁまぁ、そうだフミコ! 売店にケティーの部屋も追加するんだから、この機会に何かフミコも追加してほしいものないか? ほら、何かあるだろ?」


 そう聞いてみると、フミコは両手を頬に当てて。


 「かい君と一緒に寝れるダブルベット……とか?」


 そう言ってきた。

 何か反応する前にケティーの拳がフミコに飛んだ。


 「そんな卑猥なもの、あんたの部屋にはいらないっての!」

 「卑猥なものって何よ! あたしとかい君が一緒に寝るために必要なものでしょうが!!」

 「そんなものが必要だって言うなら私の部屋にだってダブルベット置いてもらうからね! そんで川畑くんに毎晩寝に来てもらうよ! えぇ、そうしよう! って事で川畑くん! 私の部屋にダブルベット設置してちょうだい!」

 「っな!! かい君!! ダブルベットはあたしの部屋にだよ!? そして今晩から泊まりに来てね?」


 フミコとケティーがふたりして叫んで迫ってきた。

 うん、これは笑ってスルーするしかないな……


 「ダブルベットは設置しません」


 結局、アビリティーユニットをメンテナンスするための施設の外観はオフィスビルっぽくなり、ケティーの売店は外観がコンビニっぽくなった。

 そして、プレハブ小屋の時には横にあった、リアカーやら積み上げられた木箱やら大型キャンピングカーも姿を消した。


 コンビニっぽい外観になったケティーの売店であるが、外観からは当然1階しかないように思える。


 しかし、中に入ると大都市郊外のホームセンター並の売り場面積が広がっており、入り口から最も奥にある場所に設置されているレジ(実際にはレジの機能は果たしていない)の裏側からあるはずのない2階へと繋がる階段が追加された。


 階段を登った先には狭い廊下があり、部屋が3つ用意されていた。

 1つは物置、かつてプレハブ小屋の横に乱雑に放置されていたリアカーやら木箱やら大型キャンピングカーまで放り込まれていた。


 もう1つはトイレ、これに関してはかつては温泉以外にトイレを設置できなかったのだが、いつの間にか設置できるようになっていたので各自の部屋に設置するようにしたのだ。


 さすがに夜、トイレがしたくて目が覚めたのに、ざわわざそこから温泉まで走って行かなければいけないのはつらい。

 というか、そんな事してたら完全に目が覚めて寝れなくなってしまう。


 お風呂に関しては温泉があるので各自の部屋に設置するのはやめた。

 個人的には各自の部屋に設置したほうが、フミコやケティーが自分が温泉に入ってる時に「あー時間、間違えた-(棒読み)」と言って突撃してくる事を防げるのだが、ふたりの激しい抵抗にあい断念した。


 そして最後の1つは言うまでもなくケティーの寝室である。

 内装はホテルの部屋っぽくと言われたが、そんなこだわりのないものでいいのだろうか?


 まぁ、部屋の装飾だったりインテリアは自分で何かしらするだろう。

 商人だし、色々そういった物には事欠かないはずだ。

 そう思って要望通り、味気ないホテルの部屋っぽい寝室を用意した。


 そんなわけでケティーの売店のリニューアルが完成したわけだが、今度はフミコが。


 「じゃあかい君、今度はあたしの部屋を少し変えて欲しいな? 外観はあのままでいいから内装をね?」


 そんな事を言いだした。


 「フミコ……前にベットを設置した時、これで十分って言ってたよな? また何か欲しいものできたのか?」


 そう言うとフミコが。


 「うーん……なんていうか、ほら。かい君の時代の知識に追いつくためにあたし色々文献を読み漁ってるじゃない? そこで思ったんだけど……やっぱり映像として見ておくのも必要かなって……」


 照れながら懇願してきた。

 なのでため息をついてしまう。


 「テレビが欲しいってか……」

 「うん」


 照れながら頷くフミコはえらく可愛らしかったが、騙されてはいけない!

 そう、以前起こった悲劇を思い出すのだ!


 「それはいいけどフミコ、前に設置したテレビ、扱いきれずにぶっ壊したよな?」

 「う! そ、それは」

 「フミコの部屋に設置したやつだけじゃないぞ? 食堂に設置してたテレビも」


 そう、以前フミコは一体どんな高等テクニックを使ったのか?

 ただの機械音痴でも「そうはならんやろ!」とツッコんでしまうほど鮮やかにテレビのリモコンのボタンを謎連打して再起不能にし、テレビをつけようと電源ボタンを押してテレビをショートさせてしまったのだ!


 まぁ、そんな不幸な事故もあるだろうと、新たなテレビを設置したのだが、同様の出来事が新品6台連続で発生した。

 それ以来、フミコの部屋にテレビは設置せず、食堂のテレビもフミコには触れさせない、もしくはフミコが食堂にいる間はつけない事にしたのだ。


 まぁ、次元の狭間の空間で見られるテレビ番組などあるわけもなく、つけても地球を出発する直前のニュース映像しか流れないため見る必要はないのだが……


 そんな悲劇を生み出してきたフミコとテレビの組み合わせ……果たして再び邂逅させていいものだろうか?


 「なぁフミコ……記録映像を見るのも悪くはないが……その、まずはもっと機械の扱いに慣れてからだな?」


 さすがにテレビ事件をいつまでも言い続けるわけにはいかないので、そうオブラートに包んで諭して諦めてもらおうとしたのだが……


 「いいじゃない、それ! 映像で学習するっていうの」


 ケティーが賛成の側に回った。


 「おいケティー、いきなり何を」

 「だって本だけじゃなくて映像でも学んだほうがいいでしょ? 写真付きの文献でも完全に理解するのに限度がある事ってあるもん」

 「それはそうだが……でもそこに辿り着く前にテレビが逝くぞ?」


 そう言うとケティーがニヤーっと笑う。


 「だったら、フミコが操作しなくても映像が見られる施設を次元の狭間の空間内に追加すればいいんじゃない?」

 「ケティー、お前まさか……」


 ケティーが何を狙っているか理解した。


 そう、フミコが本を読んで勉強する! と言ってから次元の狭間の空間内にはケティーの提案で図書館が追加された。


 これによってフミコは様々な国の文化や歴史が綴られた本や数学、理科、社会などなどの本を読み漁る事ができるようになったわけだが、かくいう自分も自室にある教科書や参考書だけでは知識不足になりかねないため図書館は利用している。


 しかし、図書館にはあくまで文献しか所蔵されていない。

 ブルーレイやDVDなどといった映像媒体はないのだ。


 ならば、それらを見て、尚且つ、大迫力で楽しむためにはあの施設が必要となる。


 「川畑くん! ここはひとつ! フミコのためにもここに映画館を追加しようよ!! そしてフミコに巨大スクリーンで大迫力の映像で学習してもらおう!!」


 予想通りの答えをケティーが気合いを入れて叫んだ。


 「映像学習に映画館の大画面は必要ないと思うぞ?」


 なので冷静に返しておいたが、フミコがすぐに食いつく。


 「映画館って……銀幕?」

 「フミコ、なんだか古くさい言葉のチョイスだぞ?」


 しかし、フミコは食いついたままだった。


 「ねぇ! その映画館ならあたしが操作して壊れることなく映像が見れるんだよね? しかもすっごく大きな画面なんだよね!?」

 「そ……そうだな、映画館は見てるこっちは上映を待つだけだからな……操作は必要ないな……あと映画館の規模にもよるだろうけど……スクリーンは大きいな」


 そう言うとフミコはより一層目を輝かせて迫ってくる。


 「かい君! それ設置してほしい!!」


 そんなフミコの後ろでケティーがニターっと笑う。


 「川畑くん? こんな楽しみにしてるフミコのお願い聞かないの?」


 そんなケティーを見て思わず舌打ちしてしまう。

 こいつ、自分だけじゃ却下されるからフミコを誘導しやがったな!?


 しかし、そう思っても今のフミコの表情を見ていると却下する事もできなかった。


 「くそ! わかったよ!! 設置するよ! すればいいんだろ映画館!!」


 そうヤケクソで叫ぶとフミコとケティーのふたりが「やったー!」と喜んでハイタッチをした。

 まったく、このふたりは……本当仲がいいのか悪いのかわからないな。


 こうして次元の狭間の空間内に映画館が設置される事になった。



 そして、記念すべき映画館最初の上映にて……


 「ねぇフミコ……川畑くんは私とふたりで映画観るんだから出て行ってよ」


 自分が座っている席の右隣の席に座っているケティーがコーラ片手にフミコを睨む。


 「は? かい君はあたしと映画を観に来たんだよ? 出ていくのそっちじゃない? 邪魔なんだけど?」


 自分が座ってる席の左隣の席に座っているフミコがポップコーン片手にケティーを睨む。


 上映開始前、お客様同士のトラブルはご遠慮くださいというマナー動画が流れる前でいつものふたりの喧嘩が始まった。

 うん、次元の狭間の空間内に設置した映画館なんだから係員なんかいないし、これは誰に報告したらいいんだろうか?


 「はぁ……わかった。俺が出て行くよ。映画はおふたりで鑑賞してどうぞ」


 ため息をついて立ち上がるとフミコが自分の左腕に、ケティーが自分の右腕にそれぞれ抱きついてきて。


 「「かい君(川畑くん)は出ていっちゃダメ!!」」


 そうドヤされた。

 そしてすぐに上映は始まる。


 映画の内容はふたりの喧嘩のせいでさっぱり頭に入ってこなかった。

 何を観たのかもわからない。


 うん、これから映画観るたびにこんな事になるのか?

 これはしばらく映画館は閉鎖しておこう……そう決意したのだった。

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