7.5章:神々の会合.Ⅲ
広く薄暗い空間に何の変哲もない丸いテーブルと椅子が3つ並べられていた。
その味気なさから、そこが神々の会合施設だと神以外の者が見てすぐに気づけるだろうか?
それほどにその空間には神々しさというものが何もなかった。
そんな空間に並べられた3つの椅子に3柱の神々が腰掛けていた。
中国神話の女神たる「九天玄女」白亜にゾロアスター教最高神アフラ・マズダーに従う七柱の善神、聖性アムシャ・スプンタの一柱「スプンタ・マンユ」スプル。そしていつもはカラスの姿をして異世界渡航者、川畑界斗の導き役をしている神……今は老人の姿をしているカグ。
この3柱の神が定例会議を行っていた。
老人の姿をしたカグが両手を広げ、画像を丸いテーブルの上に投影する。
それはアビリティーユニットGX-A03の適合者である異世界渡航者、川畑界斗が今まで能力を奪い、殺してきた転生者、転移者、召喚者の顔写真であった。
その顔写真の下には彼らがかつて所持していた能力を示すエンブレムも投影されている。
「現在までにGX-A03の適合者は10の異世界を巡り、そこで活動する転生者、転移者、召喚者から能力を奪う事に成功している。そして、地球で奪ったプログラミング能力に疑似世界で魔王から奪った能力と会わせGX-A03の適合者は計12の能力を奪取し、我が物としている。まさに順調と言っていいだろう」
カグは満足げに頷きながらそう言った。
そう、異世界渡航者、川畑界斗の旅は端から見ればそれなりにテンポよく進んでいるのだ。
それぞれの異世界で費やす時間も長くて3日と1週間以上かかりっきりになったことはない。
軌道に乗っていると思われても不思議ではなかった。
もちろんこれには、異世界を訪れる度に能力を奪って強くなっていくというのも関係しているが、単純に川畑界斗の要領が良くなっていっているというのもある。
10も世界を巡っていばそれは当然と言えるだろう。
旅立つ前の地球でプログラミングの能力を奪ってから最初の異世界で勇者の聖剣の能力を、2つ目の世界で雑貨屋からアイテム収納の能力を、3つ目の異世界で失敗しない調理の能力を奪い、疑似世界で魔王の能力を奪った。
4つ目の異世界で地属性の聖斧の能力を奪い、5つ目の異世界で運命の乙女と呼ばれる存在の支援・サポート能力を奪った。
6つ目の異世界で冒険者として名を馳せていた魔術師の転移者から魔術の能力を奪い、7つ目の異世界では魔法アカデミーで開校以来最上級の魔力を秘めた生徒として有名人となっていた転生者から能力を奪った。
8つ目の異世界ではモンスターに転生して魔物の国を建国してその名を轟かせていた転生者から捕食し取り込んだ魔物に化ける事ができる能力を奪い、9つ目の異世界では最弱の魔物に転生しながらも他者に擬態する事で成り上がった転生者から擬態の能力を奪った。
そして10個目の異世界で大海へと沈みゆく大地を祈祷で食い止める聖女と呼ばれる存在に選ばれた転生者から祈祷の能力を奪い、これで川畑界斗の奪った能力の数は12となった。
ただし、奪った能力の数は12でも、実際にアビリティーチェッカーから投影されるエンブレムの数は9つである。
これはなぜかと言えば、世界は違っても奪った能力が同一、もしくは似たようなものだった場合、エンブレムは追加されないからだ。
今もテーブルの上に投影されている転生者、転移者、召喚者たちの顔写真の下に投影されているエンブレムはいくつかが同じエンブレムである。
これは同じ能力の場合、別々にするよりもまとめた方がわかりやすいという開発者スプルの発案であったが、アビリティーチェッカー上でエンブレムが投影された場合は表記が少し変化する。
例えば6つ目と7つ目の異世界ではどちらも奪った能力が一般的に魔法と認識されるものだ。
故にアビリティーチェッカー上で投影された場合はエンブレムの横に+1の表記がつく。
奪った能力がすでに所持している能力だった場合、その能力が奪った数だけ強化されていくのだ。
だから今現在、魔法の能力+1、魔物の擬態能力+1、支援サポート+1となっているため12の能力を奪ったのに投影されるエンブレムは9つとなるのである。
そんな川畑界斗の現在の状態を、しかしカグ以外の神はそこまで評価していなかった。
「まぁ、滑り出しとしては悪くはないと思うが……まだまだ1つの異世界に費やす時間が長すぎる」
「ほっほ。白亜は厳しいの? そこまで時間をかけとらんと思うがの?」
そう言って顎髭を触るカグに白亜は舌打ちするとそっぽを向いてしまった。
そんな白亜に代わってスプルがカグに疑問を呈する。
「順調なのは構わんが、それはあくまで他に障害がなかった場合だろ? この先も順調に進むとは限らん。そんなに悠長には構えてられないぞ?」
そう言うスプルはしかしカグの顔を見ずに手元の携帯端末に目を落としている。
「ほっほ。スプルはまだユニットを開発中かの?」
「まぁ、データも集まりだした事だしな? そう言った意味ではGX-A03の適合者にはもっと頑張ってもらわないと」
スプルは顔をあげ。カグの目を見て言う。
新たなアビリティーユニットを開発中のスプルにとって川畑界斗と転生者たちとの戦闘データは非常に有用なものになる。
スプルにとっては、もっと多くの戦闘データを得るために川畑界斗にはもっと多く異世界へと渡ってデータをより多く提供してもらいたいのだ。
「そうじゃの、確かにもっと頑張ってもらわないとスプルが新たなアビリティーユニットを完成させられんの?」
そう言って笑うカグにそっぽを向いていた白亜が舌打ちしながら言う。
「そういう問題じゃねーだろ? 要は今のペースで間に合うのか? って事だよ」
「間に合う? はて? 一体何の事かの?」
「本気で言ってるのか爺?」
白亜は仮面をつけているため、表情は窺えないが誰が見ても怒っているのは明白だった。
そんな白亜の態度にカグはやれやれと首を振る。
「わかっとるわい。やつの事じゃろ?」
そう言ってカグが右手を横に振るとテーブルの上に投影されていた転生者、転移者、召喚者たちの顔写真やエンブレムがぱっと消えた。
直後、テーブルの上に1枚の顔写真が投影される。
その投影された顔写真を見て、白亜は苛々しながら言う。
「現状ではとても間に合うようには思えないのだが?」
「ほっほ。それで白亜は更なるサブプランを立ち上げようとしておるのかの?」
カグは小馬鹿にしたように笑い、スプルは何も言わず目を閉じて小さく笑うだけだった。
そんな反応に白亜はより一層苛々を募らせる。
「まぁ、白亜の心配もわからんでもない……今のままでは確かに命運が決するその刻までにGX-A03の適合者がやつに勝てるまでに成長する見込みは少ない」
正直に答えたカグの言葉を聞いて白亜は拳を握り力一杯テーブルを叩く。
「だったら!!」
「白亜よ、だからこそ我らが間に合わせなければならん。GX-A03の適合者が最短で最速でやつに追いつく能力を多く得られるルートを協議し導かねばならん」
そう言ってカグは投影された顔写真を目を細めて睨む。
「そう……この忌々しい多次元の王を名乗るやつを止めるためにの」
3柱の神々が睨む顔写真、そこに写った彼らがやつと忌み嫌うそのおぞましい容姿の人物と、GX-A03の適合者である異世界渡航者、川畑界斗の邂逅が神々が想定していたよりも早く訪れようとはこの時はまだ夢にも思っていなかった……




