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これはとある異世界渡航者の物語  作者: かいちょう
3章:ロストシヴィライゼーション

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ロストシヴィライゼーション(3)

 まるでギリシャの神殿のような廃墟の遺跡の中を次元の迷い子が何か探すようにキョロキョロしながら歩いていた。

 その姿をスコープ越しに確認して照準を合わせる。


 (そうだ、そのまま………そのままだ………そのまま不規則な動きを取るなよ?)


 引き金に指を当てる。

 ほんの数秒が永遠に感じられるほど長い。


 (今だ!)


 引き金を引き銃声と共に弾丸が銃口から飛んでいく。

 そして異形の怪物の姿の次元の迷い子の脳天をぶち抜いた。


 「ふぅ……スナイパーって精神すり減ってしんどいな。こんなの専門にしてる軍や警察の狙撃班ってどんな図太い神経してる連中なんだ?」


 スナイパーライフルのマクミランTAC-50を模した姿のアビリティーユニットからアビリティーチェッカーを外しマクミランTAC-50の外装をパージする。

 一様周囲を見渡すが次元の迷い子はもういない。


 「ふぅ……しかし連中、急に好戦的になったな?」

 「まぁ、元凶にバレたんじゃ、迎撃してくるのは当然じゃろ」


 そう答えるカグは呑気にあくびをしている。

 カラスのあくびなんて可愛らしい物だが中身が自称神を名乗る爺と知っている以上憎さしかでてこない。


 「中心へと向かうにつれて数がやたらと多くなってきたのもそのせいか」

 「聖剣の能力を使ったのは失敗だったかもの?」

 「今更言っても仕方ないだろ? とにかくここらの敵は掃討したんだ。また湧いて出てくる前にさっさ進むとするか」


 アビリティーユニットに銃身を取り付け拳銃モードにする。そして周囲を警戒しながら拳銃を構えて小走りで先へ向かう。


 その様子を小高い丘の上にある欧州の教会を連想させる外観の廃墟の尖塔。その屋根の上から見ている者がいた。

 中世西洋甲冑のフルプレートアーマーに身を包んだその姿は、しかし騎士というには放つオーラが禍々しい。

 兜で顔が隠れているため素顔は除けないが、腰に帯剣した剣の柄を時折とんとんと小指で突きながらカイトのことを観察している。


 「あれがアビリティーユニットGX-A03(まるさん)の適合者……もうひとつの可能性か………サブプラン。新たな希望。ネクストプロジェクト。次世代の代替え案………色々な呼び名はあるが、()()()()()()()()()()()()()()となりえるか……品定めしないとな」


 中世西洋甲冑のフルプレートアーマーに身を包んだ姿の何者かは胸元からジャラジャラと音を立てる何かを引っ張り出す。

 それは首からかけてブレストプレートの内側に仕舞っていた無数のハンターケース型の懐中時計だった。


 その無数の懐中時計はアビリティーユニットとは別のアプローチの形。

 そもそもの基本性能値やコンセプトがアビリティーユニットとはまるで違う代物。

 その名は「スキルオーダー」神格が宿るユニットである。


 西洋甲冑の何者かは引っ張り出した無数のハンターケース型の懐中時計、スキルオーダーの中の1つを鎖から引きちぎる。

 そして左手のガントレットに装着していた懐中時計をはめ込める窪みのついたブレスレットに引きちぎった懐中時計をはめ込む。


 『フェイク』


 懐中時計から発せられた音声と共に西洋甲冑の姿が変化する。

 全体的に白みがかった曖昧な輪郭の中世の宮廷道化師を連想させるピエロの格好となった。

 西洋甲冑の何者かは次元の迷い子に偽装したのだ。


 「では行くか……ん?」


 ピエロの姿に偽装した何者かの周囲に異形の姿をした次元の迷い子たちが集まってくる。


 「ふん、疑似世界(ここ)の主の感情に毒された連中か。まぁいい……ついてこい、こき使ってやる」


 ピエロの姿に偽装した何者かと次元の迷い子たちは一気に小高い丘を下っていく。

 走りながらピエロは次元の迷い子たちに命令を下す。


 「一番槍は譲ってやる。行け能無しども」


 ピエロの命を受け次元の迷い子たちは走るスピードをあげ一斉にカイトへと飛びかかった。




 ギリシャの神殿のような廃墟の遺跡エリアを抜けようかという時だった。


 「!!」


 周囲を警戒しながらの前進だったが突然丘の上の方からこちらへと向かってくる次元の迷い子の群れが現われたのだ。


 「まだこの周辺の残党がいやがったか!!」

 「もしくは新たに発生したやつかの?」

 「えらく呑気な物言いだな!?」

 「まぁ、戦うのは貴様じゃからの」


 カグのその言い草に舌打ちをして拳銃を次元の迷い子たちのほうへ向ける。

 数発撃つがやはり拳銃では効果は薄い。


 「やっぱりこっちか」


 銃身を外しアビリティーチェッカーを取り付けてアサルトライフルを選択。

 するとグリップの周囲の空間に紫電が迸り何もない空間に銃身や銃床、マガジンなどが半透明に浮かび上がる。

 やがてそれは完全に物質化し一気にグリップの元へとくっついていきアサルトライフルへと姿を変えた。

 ステアーAUGの姿を模したアサルトスペシャル・ステアーAUGモードだ。


 ステアーAUGを構えると次元の迷い子たちへと銃弾を撃ち込んでいく。

 複数が銃弾の前に倒れ姿を消すが残りは構わずこちらに突っ込んでくる。


 「ったく! この特攻亡霊どもが!!」


 アビリティーチェッカーを外しステアーAUGの外装をパージする。そしてその手元に現われたアタッシュケース側面の窪みにアビリティーユニットを取り付ける。

 するとアタッシュケースが変形、そして周囲の空間に紫電が迸り何もない空間に携帯ミサイル発射筒がが半透明に浮かび上がる。

 やがてそれは完全に物質化し一気に変形したアタッシュケースと合体しハンドアローの愛称で知られる91式携帯地対空誘導弾SAM-2Bへと姿を変えた。


 「これでもくらって吹き飛んどけ!!」


 ハンドアローを担いで次元の迷い子たちに標準を合わせミサイルを放つ。

 ミサイルはそのまま押し寄せてくる次元の迷い子たちの目の前に着弾し爆発、次元の迷い子たちを吹き飛ばした。


 「やったか?」


 警戒しながらもアビリティーユニットからハンドアローの外装をパージする。

 本来なら戦果確認すべきなんだろうが、こうも次から次へと次元の迷い子が湧き出てくるといちいち確認してられない


 「さっさと先に進まないと……疑似世界の中心にたどり着く前に物量戦に倒れちまう」


 実戦経験は積めるがこのままでは体力が持たない。

 この先は極力戦闘は回避して進むべきだろう。

 そう思った時だった。背後に突然ピエロの姿をした次元の迷い子が現われたのだ。


 「な!?」


 慌ててアビリティーユニットのボタンを押してレーザーブレードを出す。するとピエロの姿をした次元の迷い子もダガーナイフのような物を両手に持って斬りかかってきた。


 (こいつ一体いつの間に!?)


 レーザーブレードを振るいこれをはじき返す。

 が、ピエロは臆することなく次々と両手のダガーナイフを素早い動きで突きだしてくる。

 その攻勢に思わず防戦一方となってしまう。


 (まずい、後手に回っている! このままではやられる!)


 今までの次元の迷い子とは明らかに動きが異なっている。そのことに驚きながらも何とか体勢を立て直そうと考えるが


 (くそ! この動きに対応するので精一杯だ)


 ピエロの素早い連続刺突をはねのけ押し返す術が思いつかない。


 (なんだこいつ!? 本当に次元の迷い子かよ!?)


 感情的になり思わず大振りではじき返してしまう。そうなれば明らかにこちらは隙だらけだ。


 (しまった!)


 まずい、このままではやられる! そう思ったが意外にもピエロはトドメの一撃を突きにこなかった。


 (どういうことだ?)


 怪訝に思いながらも助かったと地面を蹴って後方に下がり距離を取る。

 するとその背後から数体の次元の迷い子が飛びかかってきた。


 「な!?」


 慌ててレーザーブレードを振り上げて1匹を斬り倒す。

 そしてアビリティーチェッカーを取り付け聖剣を選択、レーザーの刃の出力を最大限にまであげると頭上へと掲げる。

 出力を増し聖剣の纏わり付く光でさらに刃渡りが長く伸びたレーザーの刃は、しかしすぐにしなってしまう。

 直後、伸びてしなったレーザーの刃をムチのように振るった。


 この攻撃を次元の迷い子たちはかわすことができず消滅する。


 「おらぁぁぁぁ!!! これでどうだぁぁぁぁ!!」


 そして勢いのまま光のムチをピエロへと放つがこれをあっさりと捕まれた。


 「げ!? マジかよ!?」


 ムチを掴んだピエロは逆にこれを引いて自分へと近づけてくる。


 「このやろう!!」


 引っ張られて体勢を崩しそうになった所でアビリティーユニットのボタンを押して光のムチを解除し素早くアビリティーチェッカーのライフルモードを選択、さらに対物ライフルのスタイルを選択した。

 グリップの周囲の空間に紫電が迸り何もない空間に銃身や銃床、マガジンなどが半透明に浮かび上がる。

 やがてそれは完全に物質化し一気にグリップの元へとくっついていき対物(アンチマテリアル)ライフルへと姿を変えた。

 その姿はゲパードGM6 Lynx .50 BMG。

 アンチマテリアルスペシャル・ゲパードGM6 Lynx .50 BMGモードだ。


 「クソッタレ!! これでも食らいやがれ!!!」


 ゲパードGM6 Lynx .50 BMGを構えピエロへと銃口を向けるとそのまま引き金を引いた。

 対物(アンチマテリアル)ライフルはかつては対戦車ライフルと言われたことからも分かる通り重機関銃、機関砲なんかの大口径弾を使用するため装填弾数は少なく重く、反動が普通のライフル銃の比ではない。

 普通に考えれば歩兵が気軽なライフル銃として携帯する代物ではないが、このゲパードGM6 Lynx .50 BMGは狙撃兵ではなく突撃兵が携帯できるよう反動吸収が設計されていて、対物ライフル特有の長砲身ロングバレルではなくブルパップ方式で短砲身にしてあり14.5mm弾でも携帯しやすく立撃ができる代物だ。

 なので構わず連射する。


 「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


 とにかく撃ちまくる。まるで対物ライフルではなくアサルトライフルを撃つかのように。

 撃つたびにバレルが伸縮し大きな薬莢がはじき出される。

 至近での14.5mm弾の射撃に思わずピエロも体勢を崩し後退る。


 「もらった!!!」


 その隙を見逃さずゲパードGM6 Lynx .50 BMGの外装をパージ、レーザーブレードを出すと一気に距離を詰めピエロの胸部へとレーザーの刃を突き刺した。


 「うぉぉぉぉぉぉ!!!! これで終わりだ!!!!!!」


 タックルを食らわせる勢いでレーザーの刃を突き刺した後も力押しでさらに刃を押し込む。


 「おらぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 そしてそのまま刃を引き抜かず、両手でグリップを握りしめ力一杯にピエロの胴体を切り裂いた。


 「はぁ………はぁ………さすがにやっただろ!?」


 レーザーブレードを倒れたピエロに向けるが反応はない。

 そのままピエロの姿は風に流されるように消えていった。

 それを見て思わずその場にしゃがみ込こんでしまった。


 「はぁ………はぁ………はぁ……なんだったんだ、さっきのやつ? 本当に次元の迷い子かよ?」

 「次元の迷い子に統一性はない。あんな個体だっているだろ」


 戦闘中はどこかに避難していたカグがどこからか飛んできて当たり前のように肩に乗ってきた。

 その働かなさぶりに苛っとしながらも疲労で文句を言う気力もなかった。


 「と、とにかく一刻もはやくここから離れないとな。そして敵に見つからないよう慎重に進もう」


 起き上がって周囲を警戒し小走りでその場を後にした。




 カイトが立ち去ってから数分後、さきほどピエロが消滅した場所にまるで溶けた金属のような液体がいたるところから流れてきて集結し、それは段々大きくなって立体化していき、さきほどカイトに倒されたピエロの形となる。


 「やれやれ……わざと負けてやるのも骨が折れるな」


 言ってピエロは左腕のブレスレッドにはめ込んでいた懐中時計を外し別の懐中時計をはめ込む。


 『ナイト』


 懐中時計から音声がしてピエロの姿が中世西洋甲冑のフルプレートアーマーに身を包んだ姿になった。


 「まぁ、今はまだ様子見ってところだな……()()()と違ってまだ巡った異世界の数も少ない。今後の伸び代に期待ってところか」


 首からかけていた無数のハンターケース型の懐中時計の中から他とはハンターケースの装飾の豪華さが違う金色の懐中時計を手に取る。

 そして左腕のブレスレッドにはめ込むのではなく懐中時計の蓋を開けた。

 すると背後にまるでいくつもの歯車が動き重なり合うような懐中時計内部の精巧なムーブメントが投影される。


 「正式な顔見せはまだ先になりそうだな。()()()にもそう伝えとかないと……それまで精々死なないことだな、GX-A03の適合者(まるさん)


 投影された懐中時計内部の精巧なムーブメントが西洋甲冑フルプレートアーマーに身を包んだ姿の何者かを飲み込み、そしてその場から姿を消した。

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