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チャッカマン・オフロード  作者: 古川アモロ
第13章「身も蓋もないバイブルを焼き捨てる夜へ」
98/250

第98話 「ゴースト」




 言い争いから40分。

 一団は、やっと教会の正入口までやってきた。


「ここだ、ちょっと待っててくれ」 

 ルディが、ポケットからカードを取り出した。


 扉は、最新の電子ロックで施錠(せじょう)されている。古びた教会には、およそ似合わないセキュリティだ。

 ルディはカードを差しこみ、キーロックを解除した。


 ピー!

 ガチャン……


「さあ、入ってくれ」


 開いたドアの向こうは礼拝堂だ。

 決して広くはないが、なかなか格式の高そうな教会ではないか。天井まで彫刻がほどこされていて、けっこう年代を感じさせる。


 ルディが女たちに命じた。


「君たち、私は彼らに話がある。レインショットの最期のことは、また教えてあげよう。さあ明日も早いのだろう? 休みたまえ」

 

 いっせいに巻き起こる不満の声。


「えー、つまんない」

「絶対ですよ、神父さま」

「明日ってなんか予定あったっけ?」

「結婚式2本入ってたじゃん。ホラあの……どこの式場だっけ」

「ほれ、県庁の隣のとこ。明日5時起きだわ」

「げー、そりゃ早よ寝るわ。神父さま、失礼しまーす」


 ぱたぱたと去っていくシスター軍団。

 やっと静かになった。



「やれやれ、若い娘にはかなわんよ……さて待たせたね、トラくん、フォックスくん。適当に座ってくれたまえ」


 ……適当にと言われても。

 祭壇(さいだん)の前の長椅子(ながイス)に、2人は目をやる。なんと椅子は、穴だらけではないか。


「なあルディ。いちばん前の椅子、ぶっ壊れてるぜ。撃たれたみたいっていうか……」

 

 長椅子は無残な姿だ。

 トラの言うとおり、機関銃で撃たれたような穴が無数に空いている。


「もしかして、その……()(もり)だったか? そいつでブッ壊したんじゃないよな?」



「……」

 なにも答えないルディ。


 そのとおりだった。

 シーカと会話していたときに、レインショットを見つけた興奮のあまり、つい長椅子を破壊してしまったのだ。

 ( 第53話 「デストロイヤ」より )



「……たしかにその椅子は壊れてるね。となりのイスを使ってくれ」

 はぐらかすルディ。

 

「え、ああ、そう? じゃあ失礼して……」

 深くツッコまないフォックス。

 壊れてない椅子に腰かけた。


「そうだ、確かここに……あったあった」

 ルディがサイドデスクから、なにやら取り出して持ってきた。

 タバコと灰皿だ。

 

「吸うかね?」


「あっ、タバコ! いいの!?」

「めっちゃ吸いたかったんだよ、ありがてえ」


 単純なトラとフォックス。

 タバコを差し出されて、急に機嫌がよくなったようだ。銘柄なんか気にせず、すでに開封済みの箱を(のぞ)く。

 ありがたいことに、まだ10本以上残っている。ふたりは、大あわてでパクパクと(くわ)えた。



 ボッ。

 

 " 焼き籠手 " の人差し指に、ちいさな火が(とも)る。


 2人が、そろって顔を近づけた。

 チリチリチリ……

 火がついた。

 ふたたび離れる男女の顔。


「スゥウウウ……フゥウウウウウ……うめえ」

「スパスパスパ、ハー。うまい」

 

 


挿絵(By みてみん)




「どうかね? 修道院の子供が隠し持ってたのを没収(ぼっしゅう)したんだが、捨てなくてよかったよ」

 

 べつにルディは、親切でタバコを与えたわけではない。フォックスの籠手の能力を、自分の目で見たかったのだ。

 なるほど、本当に籠手が発火した。

 

 ついでに言えばこのふたりが、礼拝堂でタバコを吸うか知りたかった。なにしろ国際指名手配犯のバーベキューファイアだ。どのくらいのモラルを持ってるか、確かめておく必要があった。

 

 ……さすがに少しは遠慮するかと期待したが、ムダだった。


 

「フー……ああ、ようやく一息(ひといき)ついたぜ。礼を言うのが遅くなっちまったな。助けてくれてありがとう、ルディ」

「ああ~、なんかやっと助かった気がしてきた……ちょっと待って、このタバコきつい。クラッとする」


 お礼を言うフォックス。

 タバコに()うトラ。



「やれやれ、若い者にはかなわんね」


 10本の蝋燭(ろうそく)が灯された祭壇。

 ルディが手を伸ばし、蝋燭の1本に(いと)おしそうに触れる。


「見ていてくれたかい。終わったよ、イザベッラ」


 その声はあまりに小さく、トラ達には聞こえなかったはずだ。




挿絵(By みてみん)




 イザベッラ?

 10本の蝋燭には、それぞれ違う名前が彫ってある。


 葬礼(そうれい)のための蝋燭。

 いちばん手前の蝋燭に彫られた名は、イザベッラ・ゴースト。

 

 イザベッラ・ゴースト。

 ブライアン・ゴースト。

 ダニエル・ゴースト。

 レイナ・ゴースト。

 マリアンヌ・ゴースト。

 ロバート・ゴースト。

 エレオノール・ゴースト。

 ジョージ・ゴースト。

 ナタリー・ゴースト。

 アンヌ・ゴースト。 



 …………ゴースト? 


 これは誰の苗字だろう?

 ルディの名前だろうか。


 ゴースト神父……


 

 押し黙ったままのルディに、トラは無神経に話しかける。


「今さらなんだけどさあ。さっきの修道女どもはなんだったんだ? ちょっと感じ悪すぎじゃねえ?」

 

 まだ根に持ってるトラ。

 数秒の沈黙ののち、つぶやくようにルディは答えた。



「……彼女たちは正真正銘、この教会のシスターだよ。なにぶん今夜は、彼女たちにとっても記念すべき日なのでね。舞い上がっていたのは許してやってほしい」


「ふーん。けどアイツら、なにもかも知ってたよな。アイテムのことも、レインショットのこともよ。もういい加減聞きたいんだけど、アンタたち(・・・・・)は何者なんだ?」


 まだ納得いってなさそうなトラの質問。

 じっとルディを見上げる。


 ふたたび、沈黙。

 重々(おもおも)しく、ルディが口を開く。


「ステファニー……彼女たちのなかに、金髪の娘がいただろう?」


「いたっけ?」

「いましたよ、あの巨乳の……」

 フォックスとトラが顔を見合わせる。


「ああ、お前をアホっつった女か」

「それは全員言ってやがったんスけど!」


 漫才でも始めそうな2人を無視し、ルディが続ける。


「ステファニーは……腎臓(じんぞう)がひとつしかないのだ。片方は “ アルベル・スタジアム事件 ” で失った。内臓破裂、よく助かったものだよ」



「いや、なんの話? アル……なに事件だって?」

 トラの(まゆ)がひきつる。


「お前なあ、軍艦で話したろ。レインショットが、白リン弾(・・・・)をテログループに横流ししてさあ」

 フォックスの、あきれた顔。

   


 ◇



【 アルベル・スタジアム事件 】


 1844人の犠牲者を出したテロ事件……だったはず。 

 第56話 「ミーティング」を参照されたし。


   

 ◇



 フォックスは続ける。


「そのテログループが、野球のスタジアムで白リン弾を発破したんだよ。観衆の数万人が、押し合いへし合いになって数百人が死んだって……え? さっきの女、被害者なの?」


 ルディへの質問だった。

 だが、またもトラが割って入る。


ハクリンダン(・・・・・・)って、なんでしたっけ?」

 

 それも駆逐艦のなかで説明したはずだ。

 イラだつフォックスが、乱暴にタバコを灰皿に押しつけた。


「ああもう、うるせえな。白リン弾ってのはアレだ。あの……煙幕(えんまく)をはる爆弾だよ! 煙をこう、ドバーッっとまき散らすんだ。忍者の使うヤツみたく!」


「ああ、思い出しました! そういやそんなの聞いたっけ」 

 トラが、ポンとひざを叩く。

「なんでしたっけ。殺傷力は無いけど、すげー煙を出すとかいう……」


  

「ふざけるな!!」


 ルディの絶叫。

 礼拝堂が、ビリビリと揺れた。


「殺傷力がないだと!? だれにそんなデマを聞いたのかね! (リン)を燃やす爆弾だぞ、何千℃の熱だと思っている! 直撃すれば命はない、おそるべき兵器だ!!」


 (つか)みかからんばかりにルディがにじり(・・・)寄る。ぶるぶると震える全身……ドクロの仮面の下で、ハーハーと呼吸も激しくなってきた。


「……はい」

「……すいません」

 固まるフォックス。

 謝るトラ。

 めっちゃビビった。



「い、いや…………興奮してすまない」

 ゆっくりとルディは、2人から離れた。

 静かに、静かに呼吸を整えているようだ。


「興奮してすまない……」



『大丈夫ですか、神父さま』

 ルディを気づかう()(もり)


「ああ、平気だ……ありがとう咲き銛。無理もない……あの惨状を目にしたことがない(・・)者には、想像もつくまい」


「……え?」

 トラの表情が変わる。 

「目にしたってどういう意味だ? あんたはそのスタジアムにいたのかよ」



「ああ、そうだ。私も、私の家族も、あの日アルベル・スタジアムにいた……」

 ルディの押し殺すような声。


「ワールドベースボールの試合だ。ディアーハンターズと、レッド・ストライプスの試合に……私は家族と観戦に行った」


「7回の表に……突然、客席に仕掛けられていた白リン弾13発が爆発したんだ。あとは……パニックだよ。一面なにも見えなくなり、まるで真っ白な闇(・・・・・)のなかだ」


「逃げまどう観客たちが折り重なり、ある者は3階席から落ち、ある者は人間の壁とコンクリートの壁に挟まれ、ステフ……ステファニーは……」


「さっき言った金髪の修道女だ。ステフは……想像できるかね。当時9歳の彼女のうえに、数10人の大人が()しかかったのだ。一緒に下敷(したじ)きになった彼女の弟は助からなかった。7歳だったそうだ」


 握りしめた神父の(こぶし)が震える。




挿絵(By みてみん)



挿絵(By みてみん)





「……いや、いやいや! ちょい待ち」

「ちょっと待ってくれ。じゃあアンタ、それでレインショットを殺したのか? 復讐だったの!? あのシスターの!?」

 

 トラとフォックスの驚いた声。

 まさか、そんな大規模な敵討(かたきう)ちだとは思わなかった。



「……私もそうだ。私もアルベル・スタジアム事件で、家族を失った。あの事件で奪われた命は1844人。あの日から私たちの……いや、犠牲者遺族たちの復讐が始まった。12年前のあの日から……」



「い、いや……ぜんぜん話が見えてこねえ。じゃあアンタが港に来たのは、レインショットを殺すためだったってことか? なんでまた12年もたってから……?」

「ていうか、それ以前に話がおかしいだろ! あの港にレインショットがいるって、なんでわかったんだ?」

 

 やいやい言うトラとフォックス。

 話が錯綜(さくそう)してきた。


 ルディが2人をなだめる。


「待ってくれ、話が錯綜してきたぞ。いや、私が混乱させてしまったのだな。すまない」

 丁寧(ていねい)にわびるルディ。

 少し考えこみ……質問に答えはじめた。


「なにから話せばいいのかな……まず時系列で話そう。さっきも言ったが、私も彼女たちもアルベル・スタジアム事件の被害者遺族だ。実際にテロを起こした組織を “ 赤の(こよみ) ” という。王政打倒をモットーにしていた(・・・・)極左団体だ」


「……していた?」

「なんで過去形?」



「もう存在しない。構成員660人を、私が皆殺しにしたからね。いやはや大変だったんだよ、本当に……気の遠くなるような日々だった」


「俺のほうが気が遠くなってきた」

「アンタ、さっきからスゴいこと言うよね。さらっと」



 すごい話になってきた。

 グロい話にならなきゃいいんだが……期待できそうもない。




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いま書いてるやつよ。

 ↓

チャッカマン




イタいぜ!



チャッカマン




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アニメーション制作:ちはや れいめい様



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