第94話 「ハイウェイロード」
逃走するバスは港を離れ、河上のバイパス道路に入った。
絶景だ。
きらきらと太陽の光が反射し、水面が宝石のように輝いている。
「なんてこっだ……」
トラはまだ、バスの側面に貼りついたままだ。というか、バスが止まらずに走り続けているので、貼りついてるしかなかった。
器用にフォックスを抱きかかえながら、ズシンと運転席をのぞきこみ、シーカを睨みつけた。
「久しぶりだな。ま゛た会えて、うれしいぜ」
すごいダミ声……首から血がしたたる。
シーカがフフンと鼻を鳴らして、トラを無視した。
アクセルをさらに踏みこむ。
ブオオオオオ!
助手席のニニコは、まだ気絶しているらしい。
口半開きのなさけない姿でシートに寝かされている。
「聞いでんのか? いったん止めろ゛や」
ガンを飛ばすトラ。
腰を曲げて、運転席に顔を近づける。長靴の重さで、ドアはバキバキと歪んだ。
「う、うるさい、やつだな」
ようやくシーカは睨み返す。
猛スピードで走るバスの内外から、ガンの飛ばしあい―――
「さ、さっさと・降りろ。バスが、こ、壊れる」
「壊れ゛るって? お前みたくか?」
「やめたまえ君たち、なんでケンカを……」
同じくバスの外。
ドスンドスン!
槍をバスの壁に刺しながら、ルディがトラに近づいてきた。まるでクモだ。やれやれと言いたげに、ケンカの仲裁に入る。
「言い争いなんかしてる場合かね、危ないからやめなさい」
トラとシーカが聞くわけない。
無視して2人は口論をつづける。
「おい゛。ニニゴに変なこと、してねえだろうな゛」
「だ、だ、誰が……ふざ・けるな」
「ハッ! ロリコン誘拐魔の言うことなんか信用できるかよ」
「……は?」
「自覚ねえってのか? もっと言ってやるぜ、ティーン向けストーカー」
シーカの目の色が変わる。
ボゥと " 朽ち灯 " を光らせた。そして、運転席のドアを叩く。
ドパンッ!!
ドアを消し飛ばした。
バスの側面に、大穴が空いた。
金属粉が舞い飛ぶ。
「う゛おッ!!」
カーブに差しかかった瞬間、トラの足場が消えた。そこに遠心力も加わり、トラは宙に浮く。当たり前だがフォックスもろともだ。
「うひゃあ!」
後方へ飛ぶ。
真後ろにいたルディに、ドシンとぶつかった!
「トラく……ドシン! ぐえっ!」
トラの超重量に激突され、ルディまで落っこちた。咲き銛のトゲが、すべて車体から抜けてしまう。
ズボ、ズボ、ズボ!
「シーカくん! バスを止め……」
ルディは叫ぶ。
だがもう遅い!
宙を舞う3人。
ガードレーンのはるか上を飛び越え、高速道路の外へ……川にむかって落ちていく。
「ああああああああああああああ……」
誰のものともつかない悲鳴。
直後に、ドボォンと落水音が聞こえた。
「し、しま、ルディ……」
あわてて速度を緩めるシーカ。
うっかり、ルディまで落としてしまったことに気づく。やってもうた。
と―――
『シーカ、このまま走れ! 追手が来たぞ!』
空から怒鳴り声。
後方から煙羅煙羅が追いついてきた。バスに並走するように飛びながら、シーカを怒鳴りつける。
追手と聞いて、シーカがサイドミラーに目を向ける。
「う、げ!」
10数台のパトカーが、猛烈なスピードで追いかけてくるではないか。
ものすごいサイレン。
ファンファンファン!!
ファンファンファンファン!!
「まままま、マズイ……!」
シーカは困った顔を浮かべる。
どうしよう、しかしルディが……だがすぐに、アクセルを踏みこんだ。
「ル、ル、ルディ。ご、ごめん」
逃走するシーカと、ニニコと……煙羅煙羅ロボ。
けたたましいサイレンを鳴らしながら、パトカー群は追跡する。
落っこちた3人は?
逃走する護送車を、パトカーが追う。
ファンファンファンファン……やがてサイレンは遠ざかっていった。
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「……行ったか。オーナー、オーナー!」
トラがフォックスの耳元でささやき続ける。
だが、反応はない。
フォックスは気を失ったままだ。
護送車から振り落とされたトラとフォックス。
2人はいま、高速道路の真裏にいた。
トラの長靴によって、道路の裏側に貼りついている。
もちろん逆さまにだ。
まるで2匹のコウモリ……
眼下に……いや、頭上というべきか? 2人の頭上に、大きな川面が広がる。フォックスはともかく、トラは落ちたら助からないだろう。
だが、ルディは落水した。
数分前にドボンと水柱が上がったのを見たから、たしかに落ちたはずだ。だが……いくら待っても浮いてこない。
死んだか?
「オーナー、オーナー……ダメだ」
フォックスは目を覚まさない。
ズシ、ズシ。
ゆっくりと、トラは歩きはじめた。
引き返すことも、高速道路の上に出ることもできない。逆さまの状態で、シーカたちが向かったほうへ足を進める。
ズシ、ズシ、ズシ……
これから、どうしようか。




