第22話 「トレーラーアクション」
ドドドドォオオオオ……
なにもない荒野を、土ボコリを巻きあげて10トントレーラーがひた走る。
荷台にコンテナを2つ積んでいるが、なんだか様子がおかしい。ヘッドが、大きく左に傾いているではないか。
さぞ運転しにくいだろうに、助手席になにか重いものでも乗せているのだろうか。
「ああ、もう運転しにくいなボケ!」
斜めになった運転席で、フォックスが声をはりあげた。
イライラ!
「うひひ、あはは……ぐひょー!」
助手席のトラはシートを倒し、くつろいだ格好で漫画雑誌を読んでいる。
ヘラヘラ。
なんで、こんなことになったのか?
金庫に入っていた金で、車を調達することにしたフォックス。これで正真正銘の強盗になった2人。
それはいいが、トラの長靴の重さに耐えられる自動車などあるはずがない。やむなく、目立つのを覚悟で10トントレーラーを購入するしかなかった。
しかもトラは運転免許を持っていない。
だから運転をフォックスに任せっぱなしだ。彼女のほうがオーナーなのに。
そのうえ、トラのこの態度…………
ムカムカしながらフォックスは、ダッシュボードの煙草の箱に手を伸ばした。
だが……シュルルルル。
手が触れたとたん、煙草は助手席側に滑っていった。
「あああああ、イラつく! 戻ってこいコラァ!」
バンバン!
ププー!!
ハンドルを叩きまくるフォックス。クラクションを連発する。ブッブー!
「落ち着いてくださいよオーナー。はいタバコ。さぁ、おあがり……」
駄々っ子をあやすように、なだめるトラ。煙草を1本取り出し、どうぞと咥えさせた。
ジジジ……
籠手の人差し指をタバコに近づけ、火をつけるフォックス。
「すー、すぱー……ふー……」
スパスパ。
だんだん落ち着いてきたらしい。
「トラ、コーヒー!」
「へぇへぇ」
シートの後ろからポットを取り出し、ドリンクホルダーのカップにコーヒーを注ぐ。
すると―――ギィイイイイイ。
「アッ!」
トラが動いたせいか、さらに車体が左に傾いた。コーヒーが、ばしゃんとフォックスの左手にかかる。
「あじゃじゃじゃ、ギャー!」
「アッ、オーナー! 危な……!」
バキバキバキ……ドゴォ!!
ハンドルを誤ったトレーラーは、左へ左へ……ガードレールを突き破り、岩にぶつかってようやく止まった。
プスン、プスン……
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「お前は自由だトラ! 森でシアワセに暮らせよ!」
グォンとエンジン音をとどろかせ、トレーラーが動きだした。
荒野にトラを残して。
ドゴドゴドゴドゴ。
ズシンズシンズシン!
「ま、待ってくださいオーナー! ハァハァ、ゼェゼェ!」
カンカンに激怒したフォックスに、助手席から放り出されたトラ。彼を置きざりにして、トレーラーは走り出す。
ドゴンドゴンドゴン!
おそるべき脚力でトラは車を追いかける。走る、走る!
「行かないで! とおおおおおおお!」
追いついた!
最後の力をふりしぼり、トレーラーに飛びかかる。
ドゴォ!
ガチリ!
コンテナに右足を貼りつけた。
だが左足は間に合わなかった。
右足だけくっついたまま、トレーラーの最後尾で引きずられるトラ。いわゆる、引きまわしの刑―――
ズザザザザザザアザザアアア!
地面でこすられまくる。
180度に近い角度で股間がひらく。
振動―――
「うああああ! 股が裂ける! きええええええ!」
トラの叫び。
体が引き裂かれる!
ギイイイイイイイイイイイイ!
トレーラーのスピードが落ちていく。
ガタガタガタガタガタガタ……
驚いたのはフォックスである。
急にトレーラーの動きが鈍くなった。
「な、なんだ? 故障か?」
バックモニターのスイッチを入れると……ゲゲッ!
「アッ! し、信じらんねえ! 何ハラスメントだ、この野郎!」
なんと、トラがコンテナに引っついているではないか。あろうことか地面でヤスリがけされている。バカかよ。
悲鳴―――
「止めて、止めて! 裂ける、裂ける!」
「死んじまうぞテメエ! なに考えて生きてる!?」
運転席とトレーラー後方で、ぎゃぎゃあと怒鳴りまくる男女。もちろん、互いの声が聞こえるはずもない。
「死ぬ、死ぬ! 土が、土が!」
「ああ、もう!」
ギイイイ!!
プシュウウウウウ……
数十メートル走って、ようやくフォックスはブレーキを踏んだ。
トレーラーが停まったとたん、すかさず運転席に駆けこむトラ。必死の形相―――
ドタドタドタドタ!!
「お許しください、お許しください!」
「うわ、やめろバカ!」
運転席の窓から上半身を乗り入れ、フォックスに掴みかかる。
トラの顔はすさまじいものだった。
目は血走り、顔じゅう汗だく。ハァ、ガァと呼吸も荒い。変質者のようにフォックスに迫る。
彼の重さで、今度はヘッドが右に傾いた。
ギイイイ。
「コラ離せ! ワーワー!」
「お望みとあらば、俺のどこを使ってもらっても結構です! ワーワー!」
「どういう意味……の、望むわけねーだろ! 燃やすぞコンニャロ!」
「いいや望んでる! オーナーの目的は、俺の若い体だ! はぁはぁ、はぁはぁ!」
パニック状態。
ギッシギッシと運転席が左右する。
だんだんフォックスが酔ってきたらしい。
「ワーワー! 連れてって! ワーワー!」
「や、やめろ、ぎもぢ悪……ウップ」
ギッコン、バッコン。
ギシギシ、ユッサユッサ。
「お願いお願い! ハァハァハァ!」
「わ、わか……! や、やめ、オエエエエ!」
ここは荒野。
この世の地獄―――




