第21話 「ゴゥ イースト」
翌日、早朝……
と言っても、あのバカ騒ぎから5時間しか経ってない。
町から外れた、なにもない荒野。
東に向かって、まっすぐまっすぐアスファルト道が続いている。
はるか向こうの山から、太陽が昇りはじめた。
まぶしい―――
ボロボロのメイド服で朝日を浴びるフォックス。
なんと、まぶしいのだろう。
なんと、心地いいのだろう。
川に転落した彼女は、全身ズブぬれだ。水分を含んだ黒髪が、キラキラと朝日を反射している。びしょ濡れの服が、フォックスのボディラインを浮かび上がらせていた。
荒れ野にメイド。
じつにミスマッチだ。
だが美しい。
朝日も、
地平も、
フォックスも、
なにもかも気高く、美しい。
フォックスはもう、メイドではない。
彼女はもう、誰にも使われたりしない。
自由―――
……いや。
たったひとつだけ、彼女を縛るものがある。
呪いの籠手だ。
どこまでも高い空に、フォックスの凛とした声が澄みわたる。
「籠手よ、籠手よ、籠手さん。おまえのパーツはどこにある?」
『あっち』
ビシィ!
籠手が、道の向こう……はるか遠くを指さした。籠手の甲には、あの “ 紋 ” が光っていた。正体不明の、マンガチックな目のような紋章だ。
ふう。
フォックスのため息。
「便利……としておくか。ま、関係ねえ。かならず外してやるからな」
宣告。
右手の籠手に、かならず外してやると宣告した。そして、にっと笑う。
―――橋が崩壊し、フォックスは川に落ちた。
マジで溺死するとこだった。
命からがら岸に上がったときには、あの「左手野郎」の姿はどこにもなかった。もちろん “ 焼き籠手 ” のパーツも、どこにも見つからなかった。
死んだのだろうか?
いや、あいつは普通じゃなかった。
間違いなく生きているだろう。
そして間違いなく、あいつはパーツを持ってったはずだ。
フォックスの籠手のパーツを。
間違いなく。
あの “ 朽ち灯 ” とかいう籠手なら、水中だろうとブロックを探せないはずがない。
「へっ……へへへ!」
左手野郎との会話を思い出して、笑ってしまった。どうやらあいつは、アイテムに使われてるらしい。人間のプライドは無いのかよ。
(バカなやつ……一生そうしてろ)
アタシは、きっと自由になってやる。
まずなにをおいても、籠手を完成させなければならない。
奪われたパズルのピースを探すんだ。
そしてもう一度、119軒を燃やして呪いを解く。
そのとき、アタシの本当の人生が始まるんだ。
「行こうぜ、アタシの右手」
フォックスが旅立ちの決意をかためた。
その背後から―――
ズシンズシンズシン!
「ま、待って、待ってくれ! ウオオオン!」
すさまじい足音と振動。
半泣きのトラがやってきた。あ、いや、完全に泣いてる。
「お、お願いだ、俺を見捨てないでくれ! 一緒に連れて行ってくれ!」
フォックスにすがりついた。
スカートの端をつかみ、行かないでくれとわめく、わめく。
「……」
あきれてモノも言えないフォックス。
正直、こんな姿のこいつは見たくなかった。ってか、スカートが脱げる!
「足手まといなんだよ、はなせバカ!」
「いやー! いやあー!」
フォックスは冷たく突きはなすが、トラは引き下がらない。
まるで幼稚園児……
「ま、また俺を見殺しにすんのか? 俺は、俺は命がけでお前を助けてやったのに!」
「その代わりに、アタシをメイドにしただろ! よくもこんな恰好させやがったな!」
「だからその代わりに、うちで匿ってやったんじゃねえか!」
「代わりになってねえんだよ! はなせっての!」
「な……なんでもするから! ここにいたら俺は逮捕される! 一生、呪いも解けない! オエエエ!」
「なんで吐く! ああ、もう……」
諦めたように、ため息をつくフォックス。ぐしゃぐしゃと髪をかき上げて、小さくつぶやいた。
「これからはアタシのこと……オーナーって呼べよ?」
※ ※
かくして、失ったパズルのピースを探し求める旅は始まった。
マスターとサーバントは、その立場を逆転し、東を目指す。
東を目指すのだ。
朝が、完全に明けた―――




