第16話 「ナイトウォーキング」
翌朝――――――
警察は血眼になって強盗犯2名を捜していた。言うまでもなく、トラとフォックスのことである。
犯人は長靴を履いていた!
屋根から降ってきたんだ!
という被害者の証言に基づき、調査するまでもなくトラが最有力容疑者となった。
トラの家を捜索した警察は、まず壁に空いた大穴を発見。さらにリビングで火災の痕跡と、ほとんど原型を失った焼死体が発見された。そしてその日のうちに、トラに指名手配がかかったのである。
結果、町のあちこちにトラとフォックスの人相描きが掲示された。
ひとつ。
器物損壊、強盗、傷害の容疑者。
ひとつ。
連続放火重要参考人。
2人はいったいどこに行ったのか――――――
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
とある廃倉庫に2人はいた。
「アアらぁああああ!!」
ドガッ!
がごん! ゴロン!
力まかせに金庫を蹴り飛ばすトラ。
床にぶつかり、壁にぶつかり、金庫はガン、ゴンと跳ねまわる。
現在、トラとフォックスは雑居ビルの地下室にいる。かつてトラがバイトしていたテナントビルだ。
1年前までガスボンベの配送会社だったが、いまはその痕跡はまったくない。がらんとしたホコリだらけの室内……かろうじて電気は通っているらしく、チッカチッカと裸の蛍光灯が点滅していた。
2人の目の前には……金庫。
中からコンコンと、2枚のブロックがノックする音が聞こえる。打ちっぱなしの壁には、もう何度金庫をぶつけたのか、亀裂がいくつもできていた。
再度呪われたことは、もちろんショックだ。だがとにかく完全に呪われなくては、そのノルマすら始まらない。
しかし……
「はあ、はあ。どうやっても開かん……くそっ、くそ!」
ドガァ!
バゴォ!
もう何百回試しただろうか。金庫は固く、なんと長靴で蹴っても踏んでも、わずかに凹むばかりだ。まったく開く気配がない。
「もぉ最悪……なんでアタシがこんな目に……」
ボロボロのメイド服のまま、フォックスは膝を抱えて落ちこんでいた。
半泣きのフォックス。
「ふざけんな! 俺なんか1億歩だぞ、いったい何百年かかんだよ!」
「いいじゃねぇかよ! アタシなんか籠手完成させるまで、ノルマさえスタートしねえんだぞ!」
「いや、俺もだろアホ!」
「オエエエ!」
「なんで吐く! 神様……」
「オエエエ!」
ケンカが始まる。
今日、21回目のケンカ。
とは言え……
「……金庫開けなきゃ、どうにもならねぇな」
言い争いは、21回とも同じ結論に落ちつく。
呪いを完成させるしかない。
「……なんかアテあんのか?」
フォックスが顔を上げる。
かわいそうに。ひと晩じゅう泣いていたのか、目が真っ赤だ。
腕を組んで考えこむトラが、はぁ、とため息をついた。
「……板金屋だ。道具失敬して、金庫開けるぞ」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
ずしん、ずしん、ずしん……
「はぁ、はぁ。お、重い……」
「シー!」
2人は夜を待って、金庫を運び出した。
夜の闇にまぎれ、静寂にまぎれ……
ズシーン!
ズシーン!
あんまりまぎれてないが、とにかくひたすら板金屋を目指す。
ヨタヨタ、ふらふら。
ズシンズシン……
金庫を抱えるトラの足取りはもたつき、今にも倒れそうだ。
昨晩はこの金庫に、さらにフォックスまで担いで全力疾走したはずなのに。
火事場の馬鹿力とは、大したものである。
ズシーン、ズシーン!
「ぜー、はー、ぜー……も、もうだめ……」
「がんばれ! それでも男か! シー!」
息も絶え絶えのトラ。
せかすフォックス。
いよいよ橋が見えてきた―――
サウスキティの街に、何百とかかる橋のひとつ。これを越えれば……橋の向こう側に目をやる。
そこに――――――
誰か、いる。
とてもスマートな男の姿が見えた。
男は橋の真ん中あたりで、じっと川をのぞきこんでいるではないか。
こんな時間になにをしているのだろうか。
こんなところで。
身投げでもするつもりじゃ……いや、人のこと気にしてる場合じゃない。
「やべえぞ、人だ……」
ヒソヒソ。
「大丈夫だ、さりげなく行くぞ」
ボソボソ。
幸い、男は欄干に寄りかかって、こちらを見てはいない。
いいぞ、ごまかすんだ。
2人には作戦があった。ただちにミッションを実行にうつす。
「テレビはどこに運びましょう、やあ広いお屋敷ですね~」
ズシーン。
ズシーン。
「リビングにお願い。旦那さま、テレビが届きました~」
芝居……いや、コント。
電気屋さんと家政婦さんの設定らしい。
しないほうがマシなほど怪しい会話をしながら、無事に男のうしろを通り過ぎた。
2人がホッとため息をつく。
その時……
『久しいな。足枷、焼き籠手……』
背後から、声が聞こえた。
まるで悪魔のような声。
地の底から唸るような、低い、低い声―――




