部屋語らい
瑞樹が目を覚ましたのは、その後、暫く時間が経った頃だった。
彼は頭を右手で押さえながら、うめき声を小さくあげてゆっくりと起き上がった。
「いつつ…、一体何が…、あいつ、一体どうやって俺を寝かせたんだろう…?」
そう言って、瑞樹は、鉄柵の方を見た。この公園は、夕日や日の出が凄く美しいと、近所ではちょっとした絶景スポットなのだ。
夕日は、丁度半分位沈んだところだ。寝かされた時から、差ほど時間が経っていないと思われた。
多く見積もっても、七時半あたりだろう。
瑞樹は服に付いた土埃を両手で叩いて払うと、一度深呼吸をした後、来た道を戻り、家に帰った。
☆ ☆ ☆
家の自分の部屋のドアを開けたまま、瑞樹は、固まっていた。
今、自分が置かれている現状が、理解出来ずにいたのだ。
今、彼の部屋に、彼の目の前に、先程、彼を寝かせた、
「レ、レナード?」
そう、レナードが居たのだ。彼は「よう」と気さくに軽く手を上げて答えた。
「おかえり、瑞樹」
その言葉に、瑞樹は素早くドアを閉め、学生鞄を床に落とすと、テーブルの前に座っているレナードに勢いよく近づいた。そしてテーブルを挟むようにして立つと、
「何で…、お前がここに居るんだ、レナード!」
と、テーブルを両手でバンッ!と叩いて聞いた。
レナードは「まあまあ」と言いたげに、両手を前に出すと、理由を口にした。
「あの時のお前に説明したら、色々、面倒くさそうだったんだよ。一人で突っ走りそうだったからな」
レナードのこの言葉に、瑞樹は口ごもる。彼は普段は結構冷静だと自負していたが、今回は図星だったらしい。レナードはそのまま続けた。
「だから、落ち着かせたかった。冷静になれよ。人間、いつだって『急がば回れ』だ」
「そんなのは、分かってる。で、さっき言ってた『決定的なもの』って何?」
瑞樹が公園で聞いた「問い」に答えるように急かすと、レナードは頷いて「俺も今、話そうかと思っていた」というと、自分の鞄、から帰ってくる時に買ったのか、ペットボトルのふたを開け、中身のお茶を飲んだ。中身が喉を通る音がする。
レナードはペットボトルのふたを閉めると、右手の甲で口の周りに付いたお茶を拭き、瑞樹の方に顔を向け、口を開いた。
「さっき公園で俺が、唯について言ったこと、憶えてるか?」
「あ、あぁ。確か、唯の死因と、彼女が、死ぬ直前まで何をやらされていたか…だったよな?」
それを聞くと、レナードは、自身の鞄を膝の上に置いた。
一度、チャックを開き掛け、手を止めた。
「アイツは…唯は、自分の父親に、自らの幸せの為だけに、娘を売って、奴隷にしたのさ」
レナードは、一度口を止め、間を置いて言う。
「『殺し』のな」
瑞樹の体に、脳から手足の先まで、電撃を打たれたような衝撃が走った。
そして彼は、無意識か、手をテーブルに叩きつけて、叫んだ。
「そ、そんなことがあってたまるか!
日本の法律で、許される筈が」
「ホレイショー!」
瑞樹が「ない」と言おうとしたのを、レナードも叫んで遮った。勿論、この場にホレイショーは居ない。レナードはまた少し間を置くと、口を開く。
「『ホレイショー、この天地のあいだには、人智の思いも及ばぬことが幾らもあるのだ(シェイクスピア【ハムレット】福田恒存 訳[第一幕 第五場])』…落ち着けよ、瑞樹。さっきも言っただろ」
「……ッ」
瑞樹は机に叩きつけたままの右手を、そのまま握りしめ、叩きつけた際の反動で立ちあがってしまった体を座らせた。右手は握りしめたままだったが、レナードは彼が座るのを確認すると、先程からチャックに手を掛けていた鞄から、一枚のDVDを取りだすと、瑞樹に表面を見せる様にして、持った。
「午後二十三時五十八分から…?もしかして…」
彼がそう言うと、レナードは頷き、DVDレコーダーにDVDを読みこませ、再生ボタンを押した。
DVDが、あの日が、再生される。
時間は、半年前に遡る。
視点は、“彼ら”から“彼女”へ。
次回からは過去編・・・
つまり、死んでしまった高宮唯の話になります。
物凄いスピーディーに進んでますが、ここまでで実は、原稿用紙21枚半分のやつなんです・・・(・∀・)← ※投稿用にあたって、見やすいように改行した分は除きます。
ちなみに唯編は、結構長くする心算です←
そして、その後の現代編は更に長くする心算です←
それでは by霧.