再会
「久しぶりだな、レナード」
「………」
レナードと呼ばれた少年は体を起こすと、目の前に立っている瑞樹に含みのある微笑みを見せ、
「あぁ、久しぶりだな、瑞樹」
そう、言った。
彼はテーブルにちゃんと座り直し、足を組むと、軽く伸びをした。
「それにしても、早かったな。てっきり、時間ピッタリに着くかと思ったんだが、まだ七時まで二十分以上もあるじゃねぇか」
レナードは右腕にある時計を見ながら、まるで「変わってないな」と言っている様な顔で言った。瑞樹はその問いに、腕を組んで「バカな質問しないでくれよ」と言う顔で、
「それで時間ピッタリに来たり、十分前に来ても『遅かったな。お前ならもっと早く来るかと思ったぜ』とか言うだろ、絶対」
と、半ば呆れ口調で言った。
レナードはそれにハーッと大きい溜息を吐くと、右手で頭をガシガシと掻き始めた。図星だったようだ。
瑞樹はその行為にプッと笑い始めると、レナードは少し頭にきたのか、少しイラついた口調で笑った理由を聞いた。
「ハハハハ…!いや、ごめんごめん。お前があまりにも変わってないから、つい…!」
そう言って、彼はまた笑いだす。
「人は半年じゃそう変わらねぇだろ…!
現にお前も半年前と変わってねぇし。特に、そのツボが変でそして浅い所とかな!」
レナードは半ば呆れた様な大声で、瑞樹を指差ししていった。そして、遂にはつられて笑いだしてしまった。レナードもツボは浅いらしい。
暫くして、笑いが収まると、二人は互いの顔を見た。そして、互いに無表情になる。
先に口を開いたのは、瑞樹だった。
「『人は半年じゃ、そう変わらない』ならお前の『心』も、半年前と変わってない。で……いいんだな?」
「当たり前だろ」
レナードは瑞樹の問いに間髪いれずに答えると、座っていたテーブルから立ち上がり、その中央に一番近い位置に立つと、彼はこれが自分の世界だ。とでも言う様に、瑞樹を見下ろしながら言った。
「俺は半年前から変わっていない。たとえ世界が忘れようが、俺は忘れない。
俺の中にある俺の『世界の関節』は、また、外れたままだ!」
彼はそう言うと、自分の胸に右手の親指を突き立てるようにして拳をつくり、叩いた。
瑞樹はそんな彼を見て「レナード」と小さく呟き、次の言葉につなげようとしたが、肝心のその言葉が喉につっかえて声にする事が出来なかった。
少しして、話題を変えようと瑞樹が口を開いた。
「そう言えばレナード。お前、半年も連絡しないで、一体、どこに行ってたんだ?」
「連絡したら、警察に居場所がバレるだろ。だから、連絡しなかった。
それと…、俺が半年間、何をやってたかなんざ、お前なら簡単に想像出来んだろ」
レナードはそう言いながら、テーブルの上から降りると、そのテーブルの奥にある、二人の腹の位置辺りまである鉄柵に背中を預ける様に寄りかかると、瑞樹に「こっちに来いよ」と言った。
瑞樹は言われた通りに彼の隣に立つと、組んだ腕を鉄柵の上に置き、寄りかかる様に顔を腕の上にのせた。その姿勢にしたので、体がくの字に曲がる。
「……復讐か…」
瑞樹はそう呟いて、小さく溜息を吐いた。
「止めたって無駄だぜ。もし止めるなら、半年前に戻れよ」
「ようするに、遅い。ってことだろ。だけどレナード、どうやったって、警察が見付けたもの以上は見つからない。それはお前だって判ってるだろう!?」
瑞樹は口を切る勢いで、噛み締めた。半年前に、悲しみや絶望を味わったのは、レナードだけではないのだ。レナードは空を見上げると、口を開く。
「知ってたさ、無駄だってことぐらいな」
その言葉に、瑞樹は勢いよく鉄柵から体を離し、レナードの方を見て、口を開いた。が、
「ならなぜ半と…」
「だが」
と、全てを言い切る前にレナードが遮った。
瑞樹は反論しようとしたが、レナードはそれを遮って言葉を続けた。
「何もしなきゃ、それこそ何も始まらないぞ。
実際、俺はこの半年で決定的なものを見つけたからな」
「え…!?」
レナードのその言葉に瑞樹は動揺を隠せず、思わず「見つけたって…」と聞き返した。
彼は、そんな友人を見て、ただ頷いた。
「あぁ、さっきも言ったが、決定的なものをな」
「何を見つけたんだよ?」
瑞樹が驚いた表情のままそう聞くと、レナードは空を見上げたままだった顔の向きを前方に直し、言った。
「アイツの…高宮唯の死因と、唯が死の直前まで何をやらされていたのか…だ」
風が、吹いた。
まるでこの時を狙っていたかのように、風が、吹いた。
「それ、確かなのか…?」
「あぁ」
「一体…何だったんだよ!」
瑞樹は、紙の束を叩きつけるように、レナードに聞いた。レナードは今にも掴みかかってきそうな彼を見ると、ふうと息を吐いた。
「落ち着け、瑞樹。大丈夫だ、すぐに教えてやる。だから…」
「だから?」
瑞樹がそう聞いて次を促すと、レナードは、彼には似合わないニッコリとした笑顔を見せた。
彼はその笑顔にゾッと背中に悪寒が走り、反射的に左手で右腕の服の袖を掴んだ。
レナードはそれを気にすることなく、その笑顔のまま言う。
「だから…、今は寝てろ」
その言葉に、瑞樹は問い返すことなく、その場に倒れた。
寝息が聞こえるので、本当に寝ているだけの様だ。
レナードは表情を笑顔から無表情に戻すと、寝ている瑞樹を見た。
彼は小さく口を開くと、
「『「すぐに」か。言うには、易しい言葉だ(シェイクスピア【ハムレット】福田恒存訳 [第三幕 第二場])』」
そう呟いて、その場所から去った。
ハムレットです。
この辺りから、登場人物達から、シェイクスピア作品の劇中の言葉を、連発することが多くなります。
ご注意を。
それでは。 by霧.




