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今日も、えらいえらい  作者: モコナッツ


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魔族とプリンを分けれて偉い

 デザートの森までは片道三十分。


 公道を走れる電動キックボードもあるが、交通ルールを誰も知らないので、この世界では誰も乗らない。


 腹ごなしの運動に、歩いて森まで行くことにした。集合時間は聞いていないが多分、現地集合、現地解散だ。


 また、気分が乗らなければ行かなくてもいい。ドタキャンも大丈夫。

 むしろ、行こうと思っただけでも少し偉い。


 前世では、毎日仕事に行くのが当然だった。

 熱があっても、お腹が痛くても、心がやけに重たい時も、出社するのが当然だと思っていた。


 だが、それは違う。


 他人に迷惑を掛けないように頑張っても、自分の心を大事にしなかったら、それは、あんまり偉くない。


 少なくとも、この世界ではそういうことになっている。

 前の世界でも、もっと早くに分かっていれば心を壊さなくても済んだのかも知れない。それに気付けただけでも、偉い、偉い。


「シンタ、何だか今日は歩くの早いね」

「そうかな? アンナと一緒だからちょっと浮かれてるのかも」

「……そっか」


 隣を歩いていたアンナが、麦わら帽子のつばを少し下げた。

 顔は隠れているが、耳が赤い。


「シンタは、そういうことを素直に言えるところが偉いよね」

「そうかなあ。アンナの方がいつも頑張っていて立派だと思うけど」

「そんな事ないよ。シンタだから、私も頑張れるの」


 二人で褒め合いながら街路樹の並ぶ道を歩いていくと、道の両脇には、見たことのない木々が並んでいた。


「あ、お金のなる木だ。珍しいね」


 前世では、カネノナルキはベンケイソウ科クラッスラ属の多肉植物だったが、こちらでは本当に銅貨や銀貨が実を付けている。

 流石に金貨はないのかなと思ってみたら、金貨もあった。


『お金に困った時、ご自由にお使い下さい』


 そんな看板が建てられていた。まあ、この世界ではお金に困る事はなさそうなので、多分誰も使わないだろうけど。

 でも、植えてくれた人はみんなの事を考えてくれて、偉い。


 しばらく歩くと、徐々に空気が甘くなった。


 チョコレートの匂い。

 カラメルの匂い。

 焼き立てのスポンジケーキの匂い。


 デザートの森に着いたのだ。

 日雇いの先輩たちも五、六人ほど先に集まっていた。


「わあ……今日もいい匂い」


 アンナが嬉しそうに目を細める。

 森の木々には、いろいろなデザートがなっていた。


 プリンの木。

 チョコレートの葉。

 シュークリームの低木。

 ドーナツがぶら下がっている謎の植物。


「今日は焼きプリンが多いね」


 アンナが、近くの木を見上げる。


 その枝には、小さな陶器の器に入った焼きプリンがいくつも実っていた。表面には薄く焦げ目がついていた。前の世界で俺が好きだったやつだ。


「たぶん、昨日暑かったからだと思う」


 俺が冷静に分析すると、アンナは「凄い推理力で偉い」と目を丸くしていた。


 ただ、気は抜けない。

 ここからは仕事である。


 ひたすら食べて、飽きたら帰る。

 これが中々に難しい。ついつい食べすぎてしまう。


「じゃあ、まずはこれから食べよう」

「うん!」


 俺が枝から大きめの焦げ目がしっかりついた美味しそうな焼きプリンを一つ取ろうとした、その時だった。


「……待って」


 背後から、か細い声がした。

 声の方を見ると、森の奥から透き通るような赤い瞳が二つ、ジッとこちらを覗き込むように見つめている。


 腰まで届く銀髪と、白い肌。

 黒を基調にしたフリルのスカート。

 身長はアンナより少し小さいくらいだろうか。


「魔族だ……!」


 参加者の一人がそう言うと、周囲にざわめきと動揺が走った。


「聞いたことがある。最近この森に供物を要求する危険な魔族が住み着いているって。噂は本当だったんだ……」


 魔族。

 

 見た目は人間とほぼ変わらないが、力も知恵も、人間より強かったり、弱かったりする。


 そういう種族だ。


「初めまして。僕は魔王軍部隊長のヴェルラッタ。貴方たちに供物を要求します。君、今その焼きプリンを取ろうとしたよね?」


 悪戯っぽく魔族が言った。

 俺はゴクリ、と唾を飲んだ。


「その焼きプリンを僕に寄こしたまえ。僕は人が食べようとしてるものを見ると、ついつい自分のものにしたくなってしまうんだ」

「なんて非道なんだ……」


 先輩たちがざわつく。無理もない。

 間違いなく、ここに来てから出会った中で一番の悪党だ。でも、なんだかものすごく可愛い。偉い。


 チラリと横を見ると、アンナが不安そうな視線を向けた。

 その顔を見て決心がついた。


「……嫌です」

「嫌かあ……」


 俺が断ると、ヴェルラッタはがっくりと肩を落とした。


「なら仕方ない。君、ちゃんと断れて偉いね」

「でも、半分ならあげてもいいよ」


 その瞬間、ぱあっ、と彼女が顔を輝かせた。


 俺は木の影に腰を下ろすと、スプーンで焼きプリンを三つに分けて、アンナとヴェルラッタに渡した。


「君、一度断ってから分けてくれるとか、女心を分かってるね。名前は?」


 魔族の少女とアンナ、俺は軽い自己紹介を交わした。

 ヴェルラッタは魔王軍四天王、おやつ調達部隊の隊長との事だった。


「ヴェルラッタって長いな。ヴェルでいい?」

「いいよ。僕もそっちの方が仲良しっぽくて好きかも」

「ヴェルちゃんは一人で来たの?」

「うん。他のみんなは今日オフだから。僕は人間と関わるのが好きだからちょくちょくこんな所まで来ているのさ」

「人と積極的に関わろうとして偉いな」


 俺が褒めると、ヴェルの白い肌に少し赤みが差した。


「も、もう。褒めても何も出ないよ! ……でも、君の事は気に入ったかも。魔王軍に入って魔王城で僕と一緒に暮らさないかい? 三食昼寝付き、膝枕に子守唄まで付けちゃうよ」

「だ、ダメだよ! シンタは私と一緒に暮らしてるんだから!」


 アンナが速攻で断った。

 魔王城というものにも興味があったので、今度遊びに行くくらいは良いかもしれない。


 こうして俺たちは、魔王軍四天王の一人と焼きプリンを分け合った。


 なお、焼きプリンを三分の一も譲ってもらえたため、本日の侵略活動は成功扱いらしい。

 

 プリンの他にも、ドーナツやチョコレートを分け合った。

 そうして三人で暗くなるまで遊んだ後、別れ際に連絡先を交換して、お土産でバームクーヘンをもらった。


 帰りは終電を逃したので、タクシーで帰った。

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