18話 矛盾と、死なないための修行
仮に俺が勇者に勝てたとして、勇者はまた負けたことになる。
つまり、先代魔王がした虐殺や略奪の時代が再びやってくると、民は絶望するだろう。
そうなれば三女神の地位は文字通り失墜。
こんな時になっても、三女神様はお救いになって下さらない! と簡単に想像できる。
つまり、勇者に勝ってはいけないのだ。
アリシャとの契約結婚を承諾する時に誓った、三女神全員を何とかするという決意。
そして、俺の身の安全を守るための戦力補強による狙いが矛盾する。
残されたのは、ほとんど無理難題の状況だ。
俺は生き残りつつ、世間的には勇者が魔王を討ち倒したストーリーが求められる。
考え込んでいる俺と女神達。
すると遠慮がちにクラリスが声をかけてくる。
「あ、あの……! よろしいでしょうか?」
「うん。何か名案、思いついた?」
「いえ、名案かどうかは保証しかねるのですが、魔王様は魔王ではなく、ここ魔王城に勇者よりも早く辿り着いた冒険者ということにします。
力は特別に女神の加護を授かっていることにしてはどうでしょうか?」
「なるほど……! 素性を隠して魔王はどこかへ行ってもぬけの殻にするってことか。
最初は何とかなりそうだけど、やっぱり勇者に気づかれた後はその時のアドリブ……」
他に案が思いつかない!
頭が痛いよホント。
俺は二人の女神にも聞くべく話題を振る。
「他にいい案が出なければ、俺はクラリスの案に賛成だけど、どうかな?」
アリシャは腰に手を当てて承諾してくれる。
多分あんまり納得していないけど、代案が思いつかないのだろう。
だが、セイレスは反対意見を出してきた。
「その場凌ぎにはなるでしょうけど、私は反対だわ。今の勇者は先代勇者の一人娘。スズハ・センクレット。
父親が殺されたんだもの。
多かれ少なかれ魔王に対する恨みは持っているはず。きっと後から魔王だと知られたら、それこそ先代魔王を討つどころじゃなくなる」
「勇者の子供か。血筋で継承されているのかな。セイレス、代案はある?」
「正直に自分は転生して来たばかりの悪い魔王じゃないと伝えるのが、後々のことを考えれば無難だと思うわ。
クレイヴは自覚ないようだけど、割と頑固ですし。アリシャを口説いた時みたいに、誠心誠意の気持ちで言葉を交わすのがいいと思う」
まさかの正直ルート。でもそうだよなぁ。
勇者の目的は言ってしまえば父親の仇討ちだし、うまくいけば仲間に迎えることが出来るかもしれない。
「ごめんクラリス。俺もやっぱり逃げずに向き合おうと思う。嫌なことほど向き合った方が、後々楽になることも多いから」
「私は魔王様がお決めになったことについて行きます。お気になさらないでください」
いい子過ぎない?
でもここで口に出したら二人とも不機嫌になるだろうし、黙っておこう。
ざっくりの方針が決まり、俺は午前中に魔法訓練。午後に固まった身体を動かすために剣術を学び始めたが、剣術はやっぱり怖い……!
先生のアリシャは真剣を持っていても斬られることはない。だから安心だと思っていたけど全然そんなことなかった。
「ほら! カウンター!
ここで最初はゆっくりでいいから、ちゃんと私に打ち込んで!
女神だと思って遠慮してたらいつになっても伸びないわよ!」
「わかってる!」
俺はアリシャに出してもらった鉄の剣を使い、条件は全く同じはずなのに、アリシャはまるでダンスを踊るように流麗な動きで、俺へ剣を打ち込んでくる。
しかもその一撃がどれも重い。
重さだけならジェラルドと同等と言ってもいい。全力で斬りかかられたら対応は難しいだろう。
もしかして初めて会った時は加減していたのか……?
「なぁアリシャ。もしかして今、本気で斬りかかってたりする?」
「当たり前じゃない! 本気でやらないと意味ないのよ。それに……。刀身が当たったところで斬れないんだから、その分遠慮しないで打ち込めるしね!」
わー! やっぱりちょっとおかしいわこの女神!!
もし斬れるなら多分五回はもう死んでる。
身体中に打撲があるだろうが仕方ない。だって死にたくないしね!
脇腹を抑えながらも俺は剣を構え直し、鬼教官の女神様に一矢報いるために再び剣を取る。
十日を過ぎた辺りから魔法は比較的順調に身体へ馴染み、剣術に関してはアリシャから吹き飛ばされることが少なくなってきた。
さすがは魔王。
ポテンシャルが高いのか、覚えも早い。
努力する魔王なんて聞いたことないけど、魔王が勇者に負ける原因って、まさか慢心だったりするのか?
「ほら! 変な考え事してるのバレバレ!
ちゃんと集中して!」
「わかってる!」
修行はそれから約一か月にも及んだ。
言葉通り先代魔王の群勢が攻め込んでくることはなく、俺は力を蓄えることに集中。
俺が魔法を教わっている間に暇なアリシャは、ちょこちょこ人間界に転移で情報を探りに行ってくれていたようだ。
ある日、勇者一行の情報が俺にも届く。




