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世界が滅ぶまでにキスをしよう  作者: 妙原奇天


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第18話 静かな反逆

 灯台へ続く坂道は、夜になると輪郭だけを残して沈む。昼間に見えた手すりの錆も、割れ目の深さも、暗がりの中ではただの濃淡に変わる。街灯は二つ手前で切れていて、頼れるのは星明かりと、遠くの海が返す白い泡の瞬きだけだった。靴底が石段の角に当たるたび、乾いた音が短く跳ねる。息は白くならないのに、白く見えた。緊張は、人の目に余計な色を足す。


 旧い監視小屋の扉は南京錠で閉ざされている。金属は海の塩を飲んで鈍く、鍵穴の縁には砂が詰まっていた。サトルが前に出て、腰の小さなポーチから細いピックを二本出す。彼は膝をつき、耳を近づけ、鍵穴の奥の微かな段差をなぞる。カチ、と薄い音。続けて、より小さなカチ。錆びの重みを騙しながら押し当てていた指が、じわりと力を抜く。


 「ここは今、誰も見てない。見ているのは、君たちのほうだ」


 錠が外れ、扉がわずかに軋む。中は埃っぽく、広さの割に軽い匂いがした。床はコンクリートで、隅には空の工具箱と割れたバケツ、壁には古い海図が押しピンで留められている。窓の向こう、海面が近い。波頭が月明かりを拾い、ガラスに白い傷のような光を刻む。光は傷みたいに見えるのに、触れられない。


 持ち込んだマットに毛布を敷き、簡単な寝床を作った。ソラは窓辺に三脚を据え、レンズを外に向ける。覗き込む瞳に映る自分は、いつもより細い。トオルは小型の発電機の蓋を開け、燃料の残量とプラグの焼け具合を確かめる。指に油がつくと、それを布で拭いてからもう一度触る。その慎重さは、押し切る強さと同じ種類のものだ。ナミは鞄からノートを取り出し、膝の上でゆっくりと開いた。表紙に書いた『誓いのノート』の字は、昼間より濃く見えた。


 宛名はまだ書かない。ナミはページの端に爪を立て、紙の繊維の向きを確かめるようにそっとなぞった。それから、一人の顔を思い浮かべ、言葉が浮かぶ順に置いていく。


 『ソラへ——あなたの写真は、私の輪郭が薄れても、私を“私”にしてくれる。風の形や、空の重さや、私の不在まで見えるから。見えることは優しい。優しいことは、時々残酷だけど、私はそれでも見たい』


 『トオルへ——あなたが選べなかった朝を、私は好きだ。選ばなかった手には、落とさなかったものの温度が残る。残った温度は、いつか誰かを温めると思う』


 『サトルへ——観測者がいないと物語は迷子になる。だから、嫌いだけど、ありがとう。嫌いとありがとうが同時に在るのは、正しいことかもしれない』


 『ユウへ——キスのこと、まだ怖い。怖いと向き合えるのは、君が隣にいるから。君がいないとき、怖いを私は持て余す』


 ペン先が紙の上を滑る音が、発電機の低い唸りに交じって規則正しく響いた。一段落すると、ユウが小さなラジオを取り出す。単三電池二本で動く古いタイプだ。アンテナを伸ばし、ノブを回す。町の臨時放送局の電波は弱く、ノイズの海の中で途切れ途切れの音楽を浮かばせる。今夜は古いフォークソングが流れた。ギターの音色は少し歪んでいて、歌声は盤のノイズと混じり、灯台の壁に柔らかく染み込む。曲名は誰も知らない。知らなくていい。知らない歌のほうが、今夜には合った。


 ユウはラジオの音量を絞り、ナミの隣に座る。


 「“誓いのノート”、見てもいい?」


 ナミは頷き、ノートを渡した。ユウはページを一枚ずつ、丁寧にめくる。読みたいからではなく、触れたいから。紙の厚みと、インクの痕の微かな盛り上がりが、今夜だけの現実だった。最後の白紙のページに触れたとき、ユウは指でその白を撫でるようにして、ぽつりと言った。


 「ここは、空けておこう。世界が滅ばなかった日のために」


 ナミは笑って、眉を少しだけ下げた。


 「空けておく白って、どんな重さがあるんだろう」


 「誰かが触れたら、重くなる。誰も触れなかったら、軽いまま残る。どっちになっても、ここで待ってる」


 それで十分だった。空の約束は、固い約束より長生きする。


 サトルがノートPCを広げ、膝に乗せる。スクリーンの明かりが、彼の頬の影を薄くした。無線の子機を差し込み、キーボードに指を置く。打鍵の音は静かで速い。画面には小さな英数字が流れ、見たことのない黒い窓がいくつも開いては消える。ソラが覗き込んだ。


 「それ、違法では?」


 サトルは苦笑して、肩をすくめる。


 「合法も違法も、今は速度の単位に過ぎない。遅い“正しさ”が人を助ける夜もあるけど、今日は多分、早い“間違い”のほうがマシだ」


 彼は町の“停止デバイス”の起動スケジュールにアクセスし、監視ドローンの巡回ルートの座標データへと潜る。監視の格子の隙間を、わざと歪につくる。完全に止めることはできないが、灯台のある岬一帯の監視密度を下げられる。座標をひとつずらすたび、サトルは短く息を吐き、指先に残る迷いを消して次のキーを叩いた。


 「これが僕にできる“静かな反逆”。怒鳴らない反逆は、記録に残りにくい。でも、効く」


 「効いてるうちに、私たちも効かせないと」


 ソラは三脚の高さを数センチ下げ、レンズの絞りを変えた。覗いた窓の向こうで、波頭が少しだけ形を変えている。風が変わり始めた合図だ。


 深夜、風が変わった。海の匂いに、冷たい金属の薄い匂いが混じる。頬を撫でる空気が、さっきまでと違う方向から来る。夏なのに、雪に似たものが空から降り始めた。最初は疑った。埃かと思った。だがそれはゆっくり落ち、床に留まらない。触れると溶けず、指先で淡く光る。掌の上で、小さな呼吸をしているみたいだった。


 「きれい」


 ナミが掌を開く。指の腹に光が集まり、皮膚の薄い部分から中へ染みていく。痛くない。ただ、居場所を持ちたがっているようだった。ユウも手を伸ばし、二人の掌に落ちた光が重なる。重なった部分は少しだけ明るく、光同士が触れ合うとほんの一瞬、音がしたような気がした。ソラはレンズを向け、シャッターを切る。写真は白く飛んだ。露出を下げても、許容量を超えた光は画面を洗う。世界が自分を撮らせたくない夜がある。そういう夜は、目で見る。目で見たことのほうが、時々正確だ。


 トオルは外に出て、灯台の壁にもたれた。海を見下ろすと、黒い布の上で白い糸がほどけては結び直される。下の暗がりで波が崩れ、白い筋を描いて消える。彼はポケットからスマホを出し、未送信のメッセージをスクロールした。“停止に賛成してくれ”“逃げろ”“助けてくれ”“ごめん”。送信ボタンの手前で止まった指の跡が、何十通分も画面に残っているような気がした。誰に向けたものか曖昧な言葉ばかりだ。曖昧な言葉は、時に一番重い。


 全選択して、削除。親指は迷いなく動いた。消すことでしか、残せない言葉もある。消した事実だけが、体の奥に沈殿する。彼はポケットにしまい、空の手を見た。手のひらには砂の細かい粒がついている。粒はしがみつくみたいに皮膚に居座り、こすってもすぐには落ちなかった。


 灯台の中で、ナミが立ち上がった。目は眠っていないのに、夢の終わりを受け入れた人の色をしている。


 「ユウ。今日、少しだけ進もう」


 ユウは頷く。二人は窓辺に立ち、向かい合って、そっと額を寄せた。額の骨が触れ合う音がしない距離で、皮膚だけが触れる。唇は触れない。まだ、そこに届かない。届かない距離を測り直すみたいに、二人は同じ呼吸の長さを覚えた。吸って、止めて、吐く。止める時間は短くていい。短い停止は、約束に似ている。外で風が鳴り、雪のような光が横へ流れる。吹雪ではない。やさしい移動だ。


 サトルのPCから、短い警告音が鳴った。彼は即座に画面を切り替え、眉間に皺を寄せる。


 「……監視ドローンのルートが変わった。死角に気づかれた」


 指が早くなる。打鍵のリズムは焦りの拍ではない。冷静なまま速い。彼は座標をもう一度ずらし、別の系統に偽のログを流す。時間は稼げる。稼げるけれど、長くは持たない。窓の外で、低い唸りが近づき、赤い点滅が遠くの空に浮かぶ。


 「ここ、長くは持たない」


 トオルが発電機を止めた。唸りはすっと消え、灯りがラジオの弱い光だけになる。ソラは三脚を畳み、レンズにキャップをはめる。手早いのに丁寧だ。ユウはナミの手を握り、「行こう」と言う。どこへ、という問いは出なかった。どこでもない場所へ、が今夜の正解だ。


 扉を開けると、光の雪は止んでいた。代わりに、海の向こうの水平線が、ほんの少しだけ明るい。夜明けには早い。時刻はまだ丑三つ。あれは崩れの前触れだ。サトルが小さく呟いた。


 「間に合うかどうかじゃない。間に合わせるんだ」


 下り坂を駆けた。足音が石段に跳ね、息が白くないのに白く見える。肩で呼吸をしながら、誰も転ばないように、誰も遅れないように、歩幅を時折揃える。ナミの左袖が風に膨らみ、空虚が形を持った。ユウは横目でそれを見て、速度を落とした。


 「大丈夫?」


 「ねぇ、今なら言える。キス、怖くない」


 ナミは笑った。ユウは喉の奥で返事を潰し、走り続けた。言葉にした瞬間、何かが終わってしまいそうで。終わらせたくないものが、走る脚に重みをくれた。


 坂を下りきるころ、町の外れの臨時避難所の灯りが見えた。体育館の窓から漏れる白い光は、安心の色を真似している。真似は上手いが、匂いは違う。彼らはそちらへ行かなかった。人の集まる場所は、目にも耳にも網が多い。山側の、誰も使わなくなったリフト跡へ進路を取る。錆びた座席が月に揺れ、断たれたロープが風に鳴く。そこから更に山道を進めば、電波も監視も届きにくい。道は細く、足元は柔らかい。踏むたび、土が体重を一瞬だけ受け止める。


 途中で一度だけ振り返ると、海が遠くで薄く光った。崩れは、まだ始まっていない。始まる前に進む。進んでいるあいだだけ、世界は選ばせてこない。


 小さな空き地に出た。囲う木々は背が低く、空が近い。四方の暗闇は近いが、怖くない。怖さは街に残してきた。息が落ち着くのを待って、ユウはナミの頬を見つめた。そこにあるのは、恐怖でも希望でもない、ただ“今”。今は薄く、触れれば曲がる。曲がるけれど、折れない。


 「世界が滅ぶまでにキスをしよう」


 誰が言ったのか、わからない。ユウか、ナミか、ソラか、トオルか。あるいは、サトルの心の中の声だったのかもしれない。四方の暗闇が少しだけ退き、道の先に、夜の糸のような光が伸びた。彼らはその糸を頼りに、歩みを重ねた。


 少し休んで、水を回す。喉が乾いて、味がわからない。わからない味は、ただの水で、ただの水はありがたい。ソラは三脚を立て直し、空にレンズを向ける。星は動かないのに、動いている。長秒露光で引いた線は、時間の輪郭の練習になる。シャッターを押す指は震えない。震えない指は、昼間よりも素直だ。


 サトルはノートPCを閉じ、代わりに紙の地図を広げた。折り目は古く、角は少し破れている。彼は指で現在地を示し、次の休憩ポイントを示す。言葉は少ないが、選んだ言葉は的確だ。トオルは工具箱を膝に置き、何も修理するものがないことを確認してから、蓋を閉じた。何も直せない夜がある。直せない夜に、直そうとするのは横柄だ。横柄にならないために、手を重ねて眠気を待つ。


 ナミはノートをもう一度開いた。白紙のページが、夜の光を飲んで灰色に見える。ペンを持ち、呼吸を整える。字は震えない。震えない字は、怖くないときに書く字だ。


 ——怖いときは、怖いと言う。

 ——それでも一緒にいる。

 ——私が消える日が来たら、明るい場所で。誰かの声があるところで。


 書いて、閉じる。閉じたノートを胸に抱く。紙の厚みが心臓の拍を受け止め、少しだけ跳ね返す。跳ね返った鼓動が、隣のユウの掌へ渡る。渡された鼓動は、受け取った証拠になる。


 「サトル」


 ソラが地図から目を上げずに言った。


 「さっきの“静かな反逆”、いつまで続けられる?」


 「長くは無理。静けさは、すぐに音に見つかる。見つかる前に、やりたいだけやる」


 「見つかったら?」


 「見つかったら、声を大きくする。静かじゃない反逆に切り替える。でもできれば、静かなまま終わらせたい」


 サトルはそう言って、珍しく目を伏せた。彼の「終わらせたい」は、誰かを終わらせる意味ではない。終わってほしくないものを、終わらせずに終えるやり方を探す意味だ。矛盾は、今夜の空より深い。


 風が少し強くなり、木々の葉がこすれ合う音が増えた。遠くで短いサイレンの音。海のほうから、低い振動。崩れはゆっくり近づく。近づくものは、速く見える。速く見えるから、焦る。焦りは走りを乱す。乱れを整えるために、ユウはポケットからメトロノームを出した。針を軽く弾く。カチ、カチ。音は小さいが、耳に入ると体の真ん中が少し真面目になる。真面目な体は、足を運ぶ順番を思い出す。


 「ユウ、賭けは続ける?」


 ナミが問う。ユウは頷く。


 「続ける。勝っても負けても、“嘘をつかない顔”でいるために」


 「勝ったときは、ノートに書く」


 「負けたときは?」


 「書く。負けたって書く。書けるうちは、まだ負け切ってない」


 言葉は短いのに、胸に長く残る。長く残る言葉は、夜を越えるときの糧になる。


 「俺も書く」


 トオルがぼそりと言った。工具箱の上に肘を置き、額を乗せる。


 「何て?」


 「……“押せなかった”って。ちゃんと書いとく」


 「大丈夫?」


 「わからん。でも書かないと、次に“押さない”って言えなくなる」


 素直な声だった。ソラは微笑んで、シャッターを切る。暗闇に浮かぶ三つ四つの横顔は、光が足りないのに、表情だけはくっきりしていた。


 やがて、海のほうの明るみが一度だけ強く脈打った。崩れの前触れは、遠雷みたいに遅れて胸に響く。サトルが立ち上がる。


 「そろそろ動こう。ここも長くは綺麗でいてくれない」


 彼らは荷をまとめ、灯りを消し、足音を短く整えて山道を進む。ソラは最後に周囲を一枚撮り、カメラを胸に抱えた。夜は少しずつ押し出され、東の空がわずかに色を変える。夜明けではない。崩れが夜と朝の間に手を突っ込んだだけだ。それでも、色が変わること自体が救いに似ていた。


 道は二つに分かれ、どちらも同じくらい暗い。サトルは地図を見て短く指示を出す。右。理由は言わない。言わないほうが、体が早い。ユウは先頭に立ち、石と根を避ける。ナミはユウのすぐ後ろで、足音を合わせる。ソラは中ほどで、時々立ち止まり、音のないシャッターを切る。トオルは最後尾で、振り返らない。振り向くと、足首を掴まれる気がする。そういう夜の気配を、彼はもう知っていた。


 谷筋の風が、ふいに止んだ。音がひとつ、消えた。消えたあとの静けさは不吉ではない。ただ、誰かの呼吸がよく聞こえる。ナミの息は浅くて長い。ユウの息は時々速くなるが、メトロノームが戻す。ソラの息は静かで、シャッターと同じリズムだ。トオルは深く吸って、長く吐く。サトルは、息を溜めない。吐きながら進む。どの呼吸も、今は正しい。


 「ユウ」


 ナミが立ち止まり、振り向かずに言う。


 「さっき、怖くないって言ったけどね。……怖いのは、怖いままがいいのかもしれない」


 「うん」


 「怖いって言えるあいだは、私、私だから」


 「うん」


 返事はそれだけで足りた。足りているとわかる返事は、体の端から温かくなる。


 木々の切れ間から、灯台の光が一度だけこちらへ流れて、すぐに遠ざかった。届かない光は、責めていない。届かないことを、謝ってもいない。そういう距離のとき、人は自分の体温のほうを信じるしかない。


 やがて道がゆるみ、斜面が緩やかになる。空が広くなる。雲が薄く伸び、ところどころで星を隠す。海の低い振動は、また遠くなった。崩れはまだ、別の場所で準備している。準備しているあいだ、こちらは歩ける。歩けるうちは、選べる。


 平らな岩に腰を下ろし、短い休憩。水を分け合う。ユウはメトロノームを止め、ポケットにしまった。止めた針が、布の中でまだわずかに震えている。震えは不安の名残ではなく、何かを始める前の合図に似ていた。


 「ユウ」


 ソラが小さな声で呼ぶ。


 「これ、撮っていい?」


 「なにを」


 「あなたたちの“まだ届いていない距離”」


 ユウは笑って、肩をすくめた。


 「届かないうちは、なんでも撮っていいよ。届いちゃったら、すこしだけ待って」


 「わかった」


 ソラはシャッターを切った。レンズの中で、二人の額と額の間に夜の糸が一本通り、それが風に合わせて静かに揺れた。揺れる糸は切れない。切らないでいられる夜は、まだ続く。


 立ち上がる。荷を背負い直す。歩き出す。足元の土は湿っていない。湿っていないのに、柔らかい。柔らかい土は、足跡を残す。残る足跡は、振り返らなくてもわかる。わかるから、振り返らない。


 遠く、町の方向でサイレンが一度だけ鳴った。誰かが駆けつけ、誰かが止まり、誰かが祈り、誰かが歌う。灯籠の夜と同じように、音は誰のもので誰のものでもない。彼らは耳をそちらへ少しだけ向け、また前を向いた。前を向くたび、今が増える。今が増えるたび、欠けていくものを抱えたまま、まだ欠けていない今を、静かに押し出せる。


 「ねえ」


 ナミが最後に言った。声はとても小さく、でも四人と一人にきちんと届いた。


 「世界が滅ばなかったらさ、そのときは、“静かな反逆”を——静かなまま終わらせよう」


 「うん」


 ユウが答え、トオルが頷き、ソラが笑い、サトルが目を細めた。夜は少しだけ退き、道の先に伸びる夜の糸が、朝の色をほんのすこしだけ帯びた。


 彼らは歩みを重ねる。

 選びきれないものを抱え、選ぶための手を温めながら。

 静かな反逆は、誰にも気づかれないうちに、確かに世界の端を少しだけ押していた。

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