馬は大人しい?
「旦那様、絶対に私どももお供いたします。領主ご夫妻が従者も付けずに他領に赴くなどあり得ません。」
「そうでございます。アンジェリカ様のお世話はどうなさるのです?絶対に私もついて参ります。」
ジェグラシムは執事とメイド長からお説教された。領主たるもの突然の行動は控えるべきで、他領に護衛も付けずに赴くなど言語道断だそうだ。
「いや、だからね、レンが魔法で連れていってくれるから大丈夫だって…」
この二人にはレンの話をある程度してある。
「いくらレンお嬢様の魔力が凄いからと言って供も付けずに旅行に行っても良い理由にはなりません。必ず私どもも一緒に参ります。」
父の代からこの家に仕えてくれている二人にはジェグラシムもさすがに強くは言えず、レンの知らないところで参加者が二人追加されたのだった。
早朝、館の前の馬車付近には領主さん、アンジェリカさん、ジェロームさん、アルフィリオさんの他に二人の初老の男女が立っていた。
「レン、突然すまん。この二人も一緒に行く事になった。」
男女が私の前に進み出て挨拶をした。
「はじめましてレンお嬢様。本日はよろしくお願いします。私は執事のランドールと申します。」
「はじめましてレンお嬢様。私はメイド長のマルゴと申します。奥様のお世話をさせていただきます。」
お嬢様!そんな呼ばれ方はもちろん人生初だ。
「お嬢様なんて、そんな、とんでもない。レンと呼んでいただければ…」
「いけません。レンお嬢様はすでに正式に旦那様の養女とおなりです。呼び捨てなどとんでもありません。」
ランドールさんに真面目な顔でぴしゃりと言い切られた。領主さんの方をちらっと見たが、黙って首を振っている。これは私が諦めるしかなさそうだ。
「わかりました。ランドールさん、マルゴさん、本日はよろしくお願いします。ジェロームさんも朝早くからありがとうございます。」
ジェロームさんは苦笑いだ。
「いや、レン。父上の命令だからね。それにオワイアント領なんか気軽に行ける距離ではないしむしろラッキーだよ。」
良かった。少し気が楽になった。私は馬車の御者台に屋根をつけたり、座席を座り心地の良いものに変えたり等ちょっとした改造をぱぱっと終わらせた。
「それでは皆さんテントにお入り下さい。全員許可済みなので大丈夫です。道中万が一の事があってはならないので私が声をかけるまでテントからは絶対出ないようにお願いします。出れば命の保証はできません。」
まあ、箱の魔法をかけるから大丈夫だろうけど少し大げさに言っておいた。私の言葉にアンジェリカさん以外は大きく頷いた。
アンジェリカさんだけは
「え~、空からの眺めもみたかったのに~」
と言っていたが、皆が全力で説得し、渋々頷いていた。皆が乗り込んだので私も水丸と一緒に御者台に座る。
「レン、皆をよろしく頼むぞ。」
「はい。行ってきます!」
アルフィリオさんに挨拶をして私は箱の魔法を馬車にかけた。
「じゃあ行くよ水丸!」
《うん!》
私は馬車ごと空に浮かんだ。空中で辞典を出しオワイアント領に向けて加速する。速度のイメージは飛行機だ。
「おお。景色が流れる。これはちょっとテンションあがるなぁ。」
飛行機の中から見える景色より視界が広がっていて気持ちがいい。水丸も座席を左右に移動しながら楽しんでいるようだ。私は景色を楽しみながらも一応障害物に気をつける。大分高いところを飛んでいる為か特に何事もなく順調だ。しかし一つだけ気になる事がある。
「ねえ、この馬大人しすぎない?こちらの馬ってみんなこんなもんなの?」
[いいえ。暴れると落ちると思っているので動かないだけです]
すまん、馬。早く慣れておくれ。
もうそろそろオワイアント領に到着しそうだ。私は速度と高度を落としオワイアント領で一番大きなアパメの街を目指す。程なく大きな壁に囲まれた街が見えてきた。壁に続く大きな道がある。壁から3kmほど離れた他の馬車が見当たらない道に降り魔法を解いた。暑い。
「水丸は暑いのは平気?」
《うん。水丸なんともないよ~》
うらやましい。とりあえず皆に声をかけた。
「皆さん地上に降りたのでもう出ても大丈夫ですよ。」
真っ先にアンジェリカさんが飛び出してきた。




