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4話

小説って難しい

 木和と瀬尾たちの邂逅から数日たち、日曜となった。

 昼から瀬尾は江良と共に、軽自動車に乗り込み、予定の場所に向かう。


「それにしても、運転出来るんですか? 瀬尾さんって」


 江良が瀬尾のもとに来る前ならば、瀬尾は公共機関を使って行くのが常だったが、江良が来てからは、江良の軽自動車を使っている。

 瀬尾としては別にわざわざ車を出さなくても、と思っているのだが、江良としては、こうやっておけば逃げられる心配はないと考えての行動だった。


「…………で、出来るに決まってんじゃないですか」

「じゃああの標識の意味は?」


 そこには白い背景に青色の矢印が書いてある標識。

 間違いやすい標識として有名な標識かつ、覚えにくい方として存在する標識。

 間違って欲しいという表情を思わず浮かべながらハンドルを切る江良に対して、少し考えた瀬尾は、


「向いている方向に曲がるのが可能、でしたっけ?」

「…………正解ですよ」

「…………そんな悔しそうな顔をしている江良さんに一言」

「はい?」

「ここ一通じゃないからその間違い方はしないんじや…………」


 悔しい、という言葉がぴったりと当てはまる、そんな表情をしていたと後の瀬尾は言った。











 辿り着いたのは、3階建てのマンション。

 少し車を走らせれば賑わっているところに行けて、かつ周りに学校などがないので、到着した時はやけに静かだな、と瀬尾と江良は感じていた。

 瀬尾と江良は到着してから、本当にここであっているのか、という確認をしながら、


「瀬尾さんって住みたいところとかありますか?」

「うーん、自分は便利なところに住めればいいですね。

 そういう江良さんは?」

「私は…………こういう周りになんもなくてうるさくないところですかねぇ……」

「なんもない、ですか……」


 江良との話をしながら瀬尾は、意味深な言葉を放ちながら車の中から周りを見渡した。

 瀬尾はもしかすると、という可能性を考えながら、特殊なツールを使うかどうか考えていると、


「木和さんの部屋って203号室なんですって」


 江良が携帯を確認しながら、瀬尾に話しかけた。

 瀬尾は、今日の目的を本当に覚えているのだろうか、という肩透かしから、ツールを使うのをやめた。


「それじゃあ、入る前に、ちょっと作業してから行きますか」

「?何するんですか?」

「もちろん、記憶の改竄だよ」


 大仰に言った瀬尾の言葉に、驚く江良。

 あたふたとし始めた江良に、瀬尾は軽く笑いながら、


「バグに関する記憶を持ってもらうために、だよ」

「あれ?忘れてるんですか?」


 江良が分からないという表情をしているのに、瀬尾は仕方がない、と始めて、


「バグに関する記憶は、世界が修正する。

 でも、世界ではないところや、修正困難なものは修正できない。

 今回の件に関しては木和さん自体がバグっている訳でもなく、木和さんが修正困難なわけでもない。

 だから確実に、バグに関する記憶は無くなっている」


 瀬尾はウィンドウを出し、羅列された文字情報をスクロールしていく。

 その最中、羅列された文字はどんどん組み変わっていく。

 江良はその様子を見て、よく嫌にならないなぁ、と思いながらも真剣にその様子を見つめる。


「あっ、あった」

「どんな感じなんですか?」

「うーんと……瀬尾、江良、何でも屋……依頼……あー、はいはい」


 勝手に納得した様子の瀬尾に江良はまたか……と思い、


「瀬尾さん!どういうことですか?!」

「っ?……あぁ、すいません……」


 あーと、えーと、と瀬尾が頭を悩ませてから、


「今見ているのは、木和さんの記憶の情報です。

 しかし、記憶の情報の変動するスピードは異常なもので、いったんこっちの方に記憶のコピーを移しました。

 それで見てみると、どうやら僕と江良さんはなんでも屋として、今日仕事をしに来てもらう、という風に記憶してあります」

「それじゃあ、木和さんにもう一度バグの説明をしなきゃならない、ってことですか?」

「そこで、以前あった時に仕込んでおいた記憶を元に、木和さんに修正がかからないようにするのと、バグに関する記憶を記憶の片隅に置いておきます」


 そんなことできるんだ…………江良はますます瀬尾の生態が気になるが、あんまり質問すると、瀬尾は気を悪くしてしまう。

 瀬尾の機嫌を損ねると、口を聞く回数が減ってしまい、事務的な返ししかしなくなってしまうので、あんまり深追いしないようにする。


 …………それに、そんなことができるのなら、自分の記憶だって、いつでも変えられる、ということでもある。


 未だに知らないことのある瀬尾に対して、江良はまだまだ調べる必要があるようだ、と決心した。


「おし、これでもう話す必要はないと思うので、仕事に向かいますか」

「そうですね」


 瀬尾の言葉にいつものトーンで返す江良。

 江良も難しいことを考えて入るものの、内心この仕事の面白さにハマっている人間だった。











「あ、こんにちは、何でも屋のものです!」


 チャイムを鳴らし、少し大きめの声で名乗る瀬尾。

 瀬尾の持っているカバンには、一般的な何でも屋の道具が揃っている。

 江良がそれを前に見た時、珍しがって瀬尾に怒られたのを思い出し、江良は苦笑いを浮かべた。


「はーい……」

「あ、木和さんですか?」


 中から覗き込んできたのは、前とは打って変わって明らかに元気のなさそうな木和。

 目の下の隈が酷く、2回目にあった二人から見ても、徹夜明けか、または寝ていないのかの2択を感じさせるものだった。


「えっと…………」

「何でも屋デバックの、瀬尾と江良です」


 江良は瀬尾の後ろに隠れている形になってしまっていたので、瀬尾の後から顔を出す。

 それを見た木和は、しばらく停止したあとに段々と目を開いていき、


「あぁ!すいません!今日でしたよね!」

「いえ、お疲れのようですし、お掃除でもしますか?」

「いや!これは人に見せれるレベルではない……」

「それを片付けたりするのが、私たちの仕事ですので」


 しばらくうんうんと唸っている木和に対してニコニコし続ける瀬尾。

 その様子にちょっと強引すぎない? と思いながらも、胸の中にしまい込み、営業スマイルを作る江良。

 2人のニコニコした様子から、引いてしまうと彼らに余計に時間を取らせてしまうし……、と考えてしまう木和は結局、


「お願いします……」

「はい、ご利用ありがとうございます」


 やっていることは違わないのに、なんでこうにも違和感を感じるんだろう、と江良は場違いなことを考えていた。











「あ、ありがとうございます……」

「いえ、これが仕事なので」


 1時間ほどであっという間に綺麗になっていった木和の部屋。

 最初は江良も、大丈夫なのかと心配していたが、瀬尾の驚くべき手際によって、すべてが収納され、ゴミは片付けられ、清潔になった。

 本職ではないにしても、この作業が出来れば確かに本職で稼がなくてもくっていけるな……、と江良は苦笑いを浮かべる。


「一応、ここに一通り収納した場所を書いておいたので、後はこの紙を参考にしてください」

「あ、はい」


 しかも全部やらせて、家主が分からなくならない様に、ものの移動などは全部木和に見せながら行った。

 そして最後にしっかりと忘れないように紙を渡すあたり、分かっている人だな、と失礼なことを江良は考えていた。


「それじゃあ、時間もちょうどいいですし……」


 そう言われて木和は時計を見ると、お昼過ぎくらいの時間で、木和は何に丁度いいのか?、と思っていると、


「お菓子でも食べましょうか」


 江良はすんなり受け入れたが、木和は案の定、はぁ?、という顔をしていた。


「まず、今回の現象について、考察はいくつあります」

「考察、ですか」


 片付けられたテーブルの上に乗っているのは、お菓子の山。

 どれも市販のものではなく、タッパに入れられたり、ジップロックに入っていたりする。

 木和はもうそれを瀬尾が取り出した時に、自作なのかと察したが、普通の人がお菓子の山を自作してくると、誰が思うだろうか。


「まず前提として、木和さん自身、または直接関連するもの……例えば服とか、時計とか、そういう類のものは、バグっていません」

「自分の家はどうなんですか?」

「家に関しては、データ上では所有権は存在しなく、マップとしてしか存在しませんので、一概にバグっていないとは言えません」

「うーん……」

「はは、あんまり考えすぎない方がいいですよ。

 世界ってこういうものなんだ、という位に捉えるのが最初は丁度いいです」


 悩ましい顔をする木和に、瀬尾は微笑みながら助言する。

 その様子に、自分にもそんな時期があったな、としみじみと頷いている江良をよそに、瀬尾は話を続けていく。


「それで、瀬尾さんにバグった現象が現れる理由は、

 瀬尾さんが起動してるか、

 それとも瀬尾さんがバグの近くに偶然いるか、

 瀬尾さんは影響を受けているだけか、ということになります」

「???」


 さらに疑問符を浮かべる木和。

 その様子に、江良は自分もわからないですよ、と同情の表情を浮かべながら木和を見た。


「はは、とりあえず現状言えることは、実際に日暮れになってその現象が現れてくれないと、なんとも言えないってことです」

「えーと、そんな毎日頻繁に来るものではないって、言ってませんでしたっけ?」


 確かに木和は数日に1回と言っていたけど、瀬尾のことだからなんとかしていると思ったが、


「来なかったら来なかったですねぇ……」

「「え?」」


 瀬尾以外の2人は、瀬尾の顔を見た。

 そこには苦笑いを浮かべる瀬尾。

 木和としては部屋を綺麗にしてもらってよかったが、この現象をなんとかしてもらうのが元々の話なんだよなぁ、と思った。

 一方江良は、この表情は嘘をついている表情だなと悟った。


「あ、でも心配しないでください。

 ならなかったらならなかったで、得られるものは大きいので」

「は、はぁ…………」


 心配そうな顔をする木和に対し、瀬尾はフォローする。


「そういえば、その現象のこと、もう一度詳しく教えてくれませんか?」

「そうですね、もう一度確認できると嬉しいです」


 江良の機転によって、話を変えることに成功したのに瀬尾はここぞとばかりに乗った。


「それじゃあ……家にいる時に限って、日が暮れる頃になると、耳元に音が聞こえてくるんです。

 耳元って言っても、そんな近くでキンキン聞こえるわけじゃなくて、遠くからなんだけど、近く、から聞こえるんですよ……」


 イマイチ要領を得ない言葉に、木和は苦しい顔をする。

 それでもそんな説明はよく聞いてるので、瀬尾と江良は真剣に聞く。


「内容は……多分歌です。

 何回も聞いてきて、選曲と声の感じから、彼女……清津奈緒(きよつなお)のものだと、確信したんです」


 事前に聞いていた内容と同じもので、再確認していく。

 そこで江良が、どことなくといった様子で、


「選曲……っていっても、彼女EDMが好きで、よく聞かされていたんですよ」

「EDM?」

「あー、こう、クラブミュージックみたいな……」


 そんなこんなで話はズレていって、世間話が始まる。



 そんなこんなで、気づくと時間は日暮れの30分前。


「それじゃあ、準備を始めますか」


 瀬尾は立ち上がり、ウィンドウを開く。

 木和と江良は時計を見て、もうこんな時間かと瀬尾を見上げた。


「まずは、現象が起きる状態に、より近くしてみましょう。

 1番その現象が起こる場所にいてください」

「それは、ベットですね」


 木和は綺麗にされたベットに寝転がる。

 人様が来ているのにベットに寝転がるのはどうかと思いながらも、瀬尾からの指示だからと、自分に言い聞かせる。


「それで、何をしていますか?」

「携帯を弄っていますね」


「あとはなにかしていたりしていますか?」

「それ以外には…………」


 木和はこれくらいしか思いつくものがないので、困り顔をする。

 瀬尾は、高速で文字が流れていくウィンドウを見ながら、木和を横目で見た。


「たぶん、江良さんは同一マップにいない方がいいですね」

「部屋から出ればいいですか?」

「いえ、しばらく待ってください」


 もう1枚のウィンドウを出し、片手で操作していく。

 しばらくすると、木和の視界から江良が消えた。


「っ?!」

「あ、待っててくださいね、調整します」


 少ししてから、木和の視界に江良の姿が戻ってきた。

 前にあった時に慣れたのはいいものの、別に大丈夫というわけではないので、息が止まりそうになる。


「あと15分です」

「うーん、辿るかぁ……」


 その一言と同時に、追加で出したウィンドウを瀬尾は上に置く。

 そのウィンドウは突如高速で文字の羅列が始まり、瀬尾の手元には3枚目のウィンドウを取り出した。


 そこからはもうポコポコとウィンドウを増やしていき、しかしその配列は綺麗に整頓されている様子に、木和は苦笑いをしていた。

 江良に関しては、瀬尾の後ろからウィンドウを眺めるが、やっぱり分かんないなぁという顔をしていた。


「あと3分です」

「ど、どうしてればいいんですか?」

「多分今日は現象が起こると思うので、携帯を弄っていてください」


 なんだか緊張してきた木和は、その瀬尾からの言葉に迷わず従った。


「とうして今日起きるって分かったんですか?」

「後で説明します」


 江良は瀬尾に後ろから耳打ちして聞くと、瀬尾はやけに確信を持った表情で答えた。


「それじゃあ、始まりますよ」


 木和は唾を飲んだ。

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