竜を狩りて、君のもとへ 【出会い編】
「はぁー、しくじった。まさかあんな大物に出くわすとはな」
鬱蒼とした森の中で方向を見失い、俺はどうしたものかと途方に暮れた。
ちょっとした腕試しのつもりが、魔物から逃げている内にだいぶ奥まで入ってしまったようだ。
先程負った傷からはまだ出血が続いていて、薬草も持たずに狩りに出た自分の軽率さに腹が立つ。
すでに体力はもう限界で、一歩も歩けそうにない。
とりあえず、俺は近くの大木に背中を預けて休むことにした。
先日成人の儀式を終えたばかりだというのに、早く一人前として認められたくて無茶をし過ぎた。
親父は成人の儀式を受けた18の年で中型の魔物討伐数が100を超え、王国付きの討伐隊に入隊したそうだ。
俺はそれを超えたかった。
成人してすぐに中型に挑み、順調に討伐数を稼ぐうちに、もしかしたら大物もいけるのではないかと自分の腕を過信してしまった。
軽い気持ちで大型の魔物が生息している深い森に足を踏み入れ、狼型の凶暴な魔物に襲われた。
そいつの予想外の俊敏さと連撃に圧倒されて避けきれず、足を負傷してしまったのだ。
我ながら本当に馬鹿なことをしたと思う。
そんなことを考えている内に、いつしか意識は薄れていった。
気が付くと、辺りは暗くなっていた。
深い森特有の苔むした臭いの中に、ほのかに魔物よけの香の香りが漂っている。
下を見ると、水筒とパンが置いてあった。さらに負傷した足には包帯まで巻いてある。
気を失っている間に誰かが手当てをして、食料を置き、香まで焚いていってくれたのだ。
そういえば、足の痛みも引いている。その親切な誰かは薬草まで塗ってくれたらしい。
俺は水と食料を口に入れて、再び深い眠りに落ちた。
***
翌朝。
昨日、自分を手当てしたのはどんな人物なのか。
俺は寝たふりをしてそいつが来るのを待つことにした。
しばらくして、小枝を踏む音が微かに耳に届いた。
少しずつ足音が近づく。
やがて、顔のすぐ近くに気配を感じた。
すぐに足の包帯を外され、薬を塗られる。
新しい包帯を巻いている途中で、俺は勢いよくそいつを抱きすくめた。
想像していたよりも細く頼りなげな感触と、長い髪、それに少し高めの美しい声がした。
「はっ!離せ!寝たふりなんて卑怯だ!」
必死に逃れようとするのを離すまいと力を込め、意図せずに胸元に触れると、少女だと思っていてそこには膨らみがなかった。
「……あれ、男か?」
そう言った直後に、俺の顎に少年の頭が直撃した。
「痛ってー!何するんだ!?」
「それはこっちのセリフだ!助けてもらっておいてなんて礼儀知らずなんだ!」
痛む顎をさすりながら見上げると、そこには湖の精霊かと見紛うような美しい少年が立っていた。
年の頃は15、6と言ったところだろうか。
物語に出てくるような、アッシュブロンドの髪にエメラルドグリーンの瞳。
それは噂で聞いたことのある『女神の寵愛を受けし民』そのものだった。
まさかこんな森の奥に『森の妖精』が住んでいるとは思わず、俺はしばらくの間その少年に見とれた。
「……何をじろじろ見ている?手当てが必要ないならもう森を出て行け」
そう言って立ち去ろうとする少年の手を掴んで引き留める。
「名前を聞かせてくれ」
俺の言葉に、少年は怪訝そうに眉を潜めた。
「どうしてお前に僕の名前を教えなきゃいけないんだ。外のものとは関わるなと言われている。さっさと森から出ていけ」
妖精のような見た目とぶっきらぼうな言葉のギャップに思わずクックッと笑いがこみ上げる。
「何を笑ってる!僕はお前みたいな野蛮なヤツとは口をきかないことにしてるんだ!さっさと手を離せ!」
その言葉を聞いてさらに笑いがこみ上げる。
ついに腹を抱えて笑い出すと、少年は目をつり上げて怒った。
「本当に失礼なヤツだな!僕の名前はヨークだ!これで満足か!」
怒るヨークの手を両手で握りしめて、俺は真っ直ぐにその美しく不機嫌な顔を見つめた。
「俺はバルトだ。バルト・ハーデン。よろしくな」
「誰がよろしくするんだ!名前を教えたんだからさっさと出て行け!」




