終わりの始まり
読者さんたちはいい時間を過ごしようにと心がけて書いた。
17世紀に生きていた人々の朝を、あなたはどれほど正確に、そして確かに想像することができるでしょうか。あの時代からすでに四百五十年以上が経過しているという事にもかかわらず、この物語の主人公は、半世紀前に生きていた人々の日常生活を隅々まで知り尽くし、それを自らのものとして生きている。
彼が目を覚まし、現代年の世界では三人がようやく収まるかどうかという小さな小屋から外に出る。大雨が降れば屋根はいつも漏るようなその小屋を出たとき、最初に彼の視界に入るのは、まるで幼い子供の塗り絵のような、広大でカラフルな自然だ。その自然は、未知の深みでアキラを誘うのように見えてる。彼とともに、隣り合ったまったく同じような小屋から、まるで目覚まし時計にでも合わせたかのように、他の者たちも次々と外へ出てくる。彼らは互いを「同族」と呼び合っている。アキラが最初に向かったのは井戸だった。三百人以上に対してたった二つの水源のうちの一つに、大勢の人々が集まる前に水を汲むために向かっている。
しかし、母親から与えられたこのただ一つの課題を、その青年は果たせなかった。彼が井戸に着いたときには、すでに十人ほどが列を作っていたのだ。その理由を聞きたいなら、それは実に単純で、取るに足らないものだった。彼の家が井戸からあまりに遠かったからでも、途中でつまずいて転んだからでも、あなたが今まさに考えたようなことでもない。
井戸へ向かう道すがら、青年はあちこちにうつつを抜かし、現代のほとんどの人々が軽視しているあらゆるものに心を奪われていた。それは自然だった。まるで、先祖たちの代わりに、画面の中のピクセルの変化を眺めて時間を浪費していた彼らの分まで償うかのように、彼は木々の葉が風に揺れて移り変わる様子や、空で好奇心旺盛に飛び回る鳥たちの位置の変化を見つめていた。アキラは生まれた時からこの環境で十七年間を過ごしてきたにもかかわらず、毎朝外に出てはこの言葉に尽くせない世界の美しさを愛で、その度に心を打たれ、魅了されていた。
井戸の列に間に合わなかった青年は、水源から数メートル離れた最後尾に並ぶしかなかった。幸か不幸か、その前にいたのは、この集落で誰もが「コメディアン」と呼ぶ老人だった。このお爺さんの本当の名前はニルスだった。この集落に生きていた若者たちは、舞台に立って人々を笑わせて金を稼ぐ本物のコメディアンを見たことがある者はいなかったが、彼らはそれがどのようなタイプの人間か、おおよその見当はついていた。すべてはこの老人のおかげだ。彼の達者な弁舌とユーモアのお陰で、この小さな集落の人々が困難や雑の時代で、何度も助けられ、救われてきたのだ。
いつものように、ニルスは話し相手を見つける機会を決して逃さなかった。アキラが彼に近づくと、青年の耳にはすでにお馴染みの嗄れ声が届いていた。しかし、あなたが思うかもしれないように、青年がこの老人に憎しみや軽蔑の念を抱いていたわけではなかった。むしろその逆で、彼は老人の面白くて愉快な、そして作り話か真実か決してわからない話を聞くのが好きだった。コメディアンが後ろから近づく足音を聞くと、すぐに誰が来ているのか確かめに振り返った。見慣れた顔を見て―いや、彼にとっては半径一キロ以内の顔ならどんな顔も見慣れたものだが―彼は笑顔を浮かべて青年に挨拶した:
「おう、元気か、小僧。今日はいい天気だな。畑で一日中過ごして、収穫を集めるには絶好の日和だぞ、はっはっは!」
「ニルスおじさん、みんなを『お嬢様』とか『小僧』と呼んで、その声を聞くのを待って挨拶しなくてもいいんですよ。ただ名前を尋ねればいい。ここにいる全員が、あなたの視力が悪いことはとっくに知ってますから。」とアキラは、老人に合わせるように、少し笑みを浮かべて言った。
「はっは! お前は面白いやつだな、アキラ。儂が死んだら、この称号をお前に譲ってやろうか! 人を笑わせるんだぞ、どうだ? ところで、儂がどうやって右目を失ったか知りたくないか?」
「その話はもう百回くらい聞きましたよ。しかも毎回、話が違うんですよ。」
「おや、本当か? もう忘れてたわい。はっはっは! それなら、本当のことを教えてやろうか。儂はある時、船で海を越えて、何千キロの荷物を運んでいたんだが、海賊に襲われてな、そこで…」
「もういい、ニルス。おとぎ話はそこまでにしておけ。さっさと水を汲んで、立ち去れ。若い者たちの邪魔をするな。」とリュドミラが大きな声でコメディアンの話を遮った。
「おや、本当だ! お前と話してるうちに、もう儂の番が来てたのか。」そう言ってニルスはバケツに水を汲むと、アキラに別れを告げ、自宅へと向かった。
アキラにとって、そしてこの部族に住むほとんどの若者たちにとって、年長者たちが使う言葉の多くは理解できなかった。なぜなら彼らは、祖父母たちが話してくれた物や現象を、生涯で一度もこの目で見たことがなかったからだ。だから、「船」という言葉はアキラの頭の中の知識の棚で小さな場所を占めていたが、「海賊」という言葉は彼の頭の中でだ空しく反響するけだった。
家を出た目的を果たし、青年は家へと向かった。道中、出会う人々全員と二言三言言葉を交わしながら挨拶した。この部族の全員は、まさに一つの大きな家族のようにだった、と言ったら誇張にならないくらい親しくだった。彼らは出会うたびにそれ相応の振る舞いをし、挨拶を交わし、互いに良い一日を願い合っていた。やっと満杯のバケツを携えて家に着くと、アキラ、彼の母と父、祖母、そして弟と妹が朝食を食べ始めた。
すべての食事はどれも似通っていて、特別なものや珍しいものは何もなかった。この部族に住む人々は皆、もし八十年前に生きていたなら、ヴィーガンと呼ばれていただろう。その理由は、彼らが自分の小さな庭や畑で育てたものだけを食べていたからだ。動物の肉も魚も一切ない。これらはこの森の中では手に入れることが全く不可能だから。
食事を終えると、アキラの母親は彼と父親を畑に追い出し、ニルスお爺さんが予言した通り、収穫を集めさせようとした。しかし、家を出た瞬間、アキラはどうしても行かなければならない場所があることを思い出した。だから、事前に父親にそのことを伝え、彼は隣人の家へと向かった。しかし、正確に言えば、それは彼が今向かっている「場所」ではなく、彼が今この瞬間に何よりも見たいのはある人だった。彼はその人物に会いたいあまり、数歩歩いたところで歩くのをやめて走り出し、もはや彼の好きな赤や黄色やオレンジの木の葉も、鳥のさえずりも、彼を一瞬たりとも止めることはできなかった。
彼の年齢ではまだ息を切らすほどの距離ではないその道を走り抜け、アキラは目的地にたどり着いた。彼が目指したのは、部族の一人の家だった。そして、彼が何よりもその顔を見たかった人は、エルザという少女だった。長い栗色の髪と、はっきりとしたスタイルを持ち、畑仕事で鍛えられたたくましいの筋手足肉を持った、信じられないほどの美しさの少女だった。彼女が百年前に生まれていたなら、世界中のモデル事務所が彼女と契約を結ぶためだけに、互いを殺し合うに忍んだはずだ。
アキラの視界に、畑に座って収穫を掘り起こしている少女の姿が映った瞬間、彼の心は感情で溢れ返った。その感情を何と呼べばいいのか青年にはわからなかったが、ただ、この感情だけで、暖炉も薪もなく氷のような冬を乗り越えられるほどだとは自信を持ってた。アキラは長い間、エルザに対して好意と愛情の感情を抱き続けてきたが、なかなかそれを告白できずにいた。しかし、昨夜、彼はついに勇気と決意を振り絞って、彼女に自分の気持ちを伝えた。その結果、二人は付き合い始めることになった。今、青年は、たった一言で友人から人生の伴侶に変わった少女の顔を、何よりも見たかった。
エルザはアキラに背を向けて畑に座っていたので、まだ彼に気づいていなかった。そこで青年は彼女に気づかれないように近づいてサプライズをしようとしたが、目的地まであと数歩のところで、彼の耳に見覚えのある声が届いた。
「無茶なことをしようものなら、ニンジンを目にぶち込むわよ!」とエルザは振り返り、青年の目をまっすぐに見つめて言った。
「いや、何も…その…つもりは…」アキラの最後の言葉を、彼にしか聞こえないほど静かな声で言った。
「もし何かやらかすつもりがなかったのなら、どうしてただ声をかけなかったの?」エルザは少し不満げな口調で言った。
「ただ…君を喜ばせたくて…」エルザの態度はアキラには理解できなかった。彼らは生まれた時からの付き合いだというのに、これまで彼女からこんな反応をもらったことは一度もなかったのに。青年は自分の行動で彼女を怒らせてしまったのかと思い始めていた。しかし、彼にはまだ一つわからないことがあった―いつ彼女を怒らせたのか、昨夜なのか、それとも今なのか。
「喜ばせたいなら、自分の庭のリンゴを持ってくればよかったのに。あれが一番美味しいんだから。」エルザは、今この瞬間に恋人から何を得たいのかをほのめかすように、大きな声で言った。
しかし、アキラにとっては、そんなほのめかしは理解できず、彼の頭に浮かんだ唯一の考えはこれだった。
「今度こそ、必ず持っていくよ!」
エルザは一瞬、昨夜下した決断を後悔し始めたが、もう一度、何百回となく困難な状況で助け、救ってきた人の方に目を向けると、すぐに心の中で彼を許し、二人は会話を続けた。幼い頃からの友達と話すことは、アキラにこの上ない喜びをもたらした。彼は父親を手伝って畑仕事をするという約束をすっかり忘れ、一時間の間、エルザに収穫作業を手伝って過ごした。
会話をしているうちに、アキラの頭の中に、今朝で彼女に会えた喜びや幸せ全部の不安を追い払った。しかし、時が経つにつれ、喜びと幸せの感情は後退し、心配が現れた。これまでにこんなことは一度もなかったのに。青年の頭の中では、彼女に関するどんな考えも、他のどんな考えよりも何百倍も強かった。しかし、今日は何かが違っていた。
アキラはもう何年もの間、この不安な考えを心の奥底に秘め、それが彼に安らぎを与えなかった。青年は長い間、それらに対処し、打ち勝とうとしてきたが、これまでの戦いで一度も勝利を収めたことはなかった。彼はこの考えをエルザに打ち明けるべきかどうか、長い間迷っていた。そして、なぜだか今この瞬間、彼の脳は、この長い間溜め込んできたすべてを言い表す決断を下した。
「エルザ、聞いてくれ。とても大事な話があるんだ。」とアキラは真剣な表情で言った。今は冗談を言っている場合ではないことを伝えるかのように。
「何? プロポーズ? そんなに急に? だって私たち、まだ…」エルザが言い終わらないうちに、アキラは彼女の言葉を遮り、今度ははっきりと、冗談を言っている場合ではないと伝えた。少女がようやくこれから始まる対話の重要性を理解した後で彼は続けた。
「ここから逃げ出さないか?」とアキラは、まるでこの瞬間を想定して何週間も前から言葉を準備していたかのように、全く動じない顔と声で言った。
「逃げる? でも、どうして? そして何より、どこへ?」エルザの声は、彼女の感情を映して震え始めた。彼女の耳に届いた情報に、完全な戸惑いと理解不能を感じていた。
「実は、俺は長い間、こういう考えに悩まされているんだ。『もしも、これらすべてが嘘だったら? もしも、すべてがただの作り話だったら?』ってね。」
「作り話? 嘘? 何の話?」まだ理解できずに、エルザはすべての文の最後に疑問符を付け続けた。
「宇宙人のことだ。どういうわけか、俺の脳は彼らが本当に存在するということを信じるのを拒否しているんだ。エルザは想像できるか? 五メートルもある巨大な化け物が、八本の肢と三つの目と、長く伸びた触手を持って、近づくものすべてに破壊と滅亡をもたらすこと。」
エルザはアキラが何を言おうとしているのか全く理解できなかった。だから黙って彼の話を聞き続け、遮ることなく、ただ彼が何を伝えたいのかを理解しようと努めた。
「それは全部、子供の頃に両親が言ってくれたおとぎ話みたいなものだ。今は弟や妹に入ってる話だ。もし、これらの宇宙人が実は存在しない、単なる作り話だとしたらどうだ? 俺たちは一度も集落の境界を出たことがない。子供の頃から、集落の境界を示す柵を越えてはいけないと厳しく言われてきた。俺は、この柵の中で生まれ、生涯外に出ることなく、真実を知らないまま一生を終えるような、両親と同じ生き方をしたくないんだ。」とアキラは、自分の言葉に魂のすべてを込めようとした。夜も眠れずに彼の脳を内側から蝕んでいたあらゆる考えを、彼女からの承認を得られることを願った。
「つまり、あなたは私たちの両親が私たちに嘘をついているって言いたいわけ?」エルザは少し不満げに言った。
「そんなことは言ってない…」
「どうして言ってないの? 一分前に、アキラはその言葉をそのまま言ったじゃないの。君の両親も私の両親も私たちに嘘をついているって。」
「そういう意味じゃないんだ。彼らにとっては、それは嘘じゃない。彼らが心の底から信じていることであって、彼らにとってはそれが真実なんだ。だから、両親たちはその情報を完全な真実として俺たちに提示している。でも、実際にそうだという保証は誰にもできない。」
「両親じゃなければ、じゃあ祖父母が私たちに嘘をついているの? だって彼らがこの集落を築いたんだもの。」エルザは恋人への苦情を続けた。
「そうとは限らない!」アキラは口に出して認めたくなかったが、選択の余地はなかった。彼は自分の言葉がどんな意味を持つのかをよく理解していた。まるで言い訳をするかのように、青年は言葉を続けた。
「俺が言いたいのは、すべてがもう変わっているかもしれないってことだ。もしどこかで世界がそんな化け物で溢れているなら、なぜ彼らはここに来ないんだ? なぜその怪物は俺たちを殺さないんだ? もしかすると、彼らはとっくに絶滅して、今は地球上に再び人間が住んでいて、俺たちだけが文明から取り残されているのかもしれない。俺たちはただ、井の中の蛙のように一生を終えて、底に届く光を見ずに終わりたくないんだ。俺はただ、真実を知りたいだけなんだ。たとえどんな代償を払っても。たとえ死ぬことになっても、少なくとも、あの柵の向こう側で実際に何が起こっているのかという真実を知った人間として死にたい。あの『檻』の向こう側が、俺たちが思い描いている世界とは程遠いものである可能性は、常にあるんだ。」
「『どんな代償を払っても』? だから、私を一緒に連れて行こうっていうの?」エルザは無表情で言った。
この言葉の意味は、アキラの頭の中ですぐには理解できなかった。彼がエルザが何を伝えようとしているのか完全に理解するまでには数秒を要した。そして彼が自分の唇が何を言ったのかを認識した時、彼は衝撃を受け、自分が今言ったことを信じられなかった。明らかに、数分前にアキラがこれらの言葉を発した時、彼はそんな意味で言ったわけではなく、自分の言葉がそのような意味を持つとは考えもしなかった。しかし、エルザにとっては、それらはまさにその意味を持っていた。
青年の脳は言い訳をしようとしていたが、アキラにとって幸運なことに、今この瞬間、彼の唇の制御は心に奪われ、アキラは自分の頭では決して思いつかなかった言葉を口にした。
「俺は心の底からエルザを愛しているよ。そして、君にはいつも一緒にいてほしいんだ。でも、エルザに悪いことを望んでいるわけじゃない。ただ、この『檻』から一緒に抜け出そうと提案したまでだ。もし君が断るなら、俺はその決断を完全に受け入れ、支持するつもりだ。」とアキラは今、全く落ち着いた、大人びた表情でこの言葉を口にした。彼の立場で、これほど冷静に思慮深く行動できる大人は、そう多くはないだろう。
「私もあなたを愛しているし、それを知っていてほしい。でも私が…」彼女の最後の言葉は、大きな鐘の音でかき消された。
この音は、アキラも他の住民も、何度も聞いてきたものだ。しかし、今日はこの鐘の音が異なり、他のどの日とも違う意味を持っていた。普段は、住民全員に訓練警報がかかることを前もって伝え、鐘が鳴ったら全員ができるだけ早く必要なものをまとめ、集落の秘密の出口に集まるようにと言われていた。今日の鐘がこれまでのものと何が違うのか? 問題は、昨日は誰も訓練警報について事前に知らされていなかったことだ。鐘の音は、寝耳に水のように、恐怖とパニックをもたらした。今日以前は、この小さな村の住民たちは誰一人としてパニックにならず、危険が迫った時に何をすべきか、どこへ逃げるべきかを暗記していた。しかし、訓練警報の前日に何の予告も受けていなかったため、この集落に住む十人のうちの一人だけが、冷静さという、多くの潜在的な命に値するほど重要な資質を保つことができた。そして、その一人がアキラだった。
彼は彼女の手を掴み、エルザの家へ走り込んだ。そこにはエルザの父と母がいた。アキラはエルザと彼女の両親と共には最低限必要な物をまとめるのを手伝った。その半分は種子や様々な果物や野菜で占められて、新しい場所で飢え死にしないようにするためだ。そしてアキラは彼ら全員を、村の非常口へと導いた。そこは住民たちが迫り来る危険から身を隠し、逃げ出すための場所だった。アキラが自分の家に走る時間はもうなかったので彼にできる唯一のことは、自分の家族が無事に避難地点にたどり着くことを念じることだけだ。
四人全員がようやく家を出ると、彼らは数十人の人々が自分の前を走っているのを目にした。走る速度を上げて、アキラはエルザと彼女の両親と共に、しばらくして前方で走っていた人々に追いつくことができた。しかし、これは主にアキラたちの足の速さのおかげではなく、前方で走っていた人々の問題によるものだった。彼らのほとんどは老人であり、素早く移動するのが難しかったため、若い世代は老人を置き去りにできず、できる限りの助けをしていた。もちろん、アキラとエルザと彼女の家族も傍観者ではいられず、年長者たちが安全な場所へ向かうのを手伝い始めた。
数分後、アキラは突然、これまで一度も見たことのない顔の人に気づいた。そのため、彼は自分の目を疑い始めた。アキラは、自分が知らない顔の人間がこの集落にいるなんて信じられなかった。それは単に不可能だとアキラは思った。そして彼の気持ちは簡単に理解できるものだ。この集落では、皆がお互いを見て知っていた。三百人強の顔を覚えるのは、何年にもわたって一日に何度も顔を合わせていれば、難しいことではなかった。
この人間は、一分ごとにアキラの中により多くの疑問と疑惑を抱かせた。そこでアキラは、今自分と一緒に早足で歩いている人々に、この男を以前に見たことがあるかどうかを尋ね始めた。
しかし、返ってくるのは拒否の返事ばかりだった。その結果、疑念はますます大きくなっていった。そこである時、コメディアンが石につまずいて地面に倒れた時、その不安が消え去った。アキラの頭はその瞬間にすべての考えを追い払い、ニルスお爺さんを助ける義務と責務だけが残った。
だからアキラはエルザに、お爺さんを助けなければならないと伝え、彼女を先に行かせ、同時にニルスに近づき、コメディアンが起き上がるのを助け、肩を貸そうとした。しかし、全体のグループから離れたのはアキラだけではなかった。青年が初めて見るあの男も、アキラたちに近づいてきた。アキラは知らない男が近づいてくるのを見た時、最初に浮かんだ考えは、この男も、アキラのように集落で最も年長者の一人を避難場所まで運ぶのを手伝おうとしているのだ。
しかし、誰も見たことのない顔のこの男の本当の動機は、アキラの頭の中にあった考えとは根本的に異なっていた。それらが百八十度異なると言っても、過言ではないだろう。なぜなら、お爺さんを助けたいと思っていたアキラが、この男はニルスを殺そうとしていた。しかし、アキラが生きる世界でこの事実を理解するには、あと六秒かかるだろう。
この一瞬の間に、この出来事が起こった―見知らぬ男は瞬時に二十数メートルの距離を詰め、ニルスを生身の手で頭上に掲げ、お爺さんを真っ二つに引き裂き、同時に、コメディアンの体から飛び出した内臓を貪り、まだ何が起こったのか完全には認識しておらず、決して叶うことのないニルスの再生への希望をまだ内に秘めているが、お爺さんの体から流れ出る血でそれを流し込んだ。
アキラはあまりの衝撃に、彼にできることはただ、ニルスの遺体を貪る男を見つめるだけで、指一本動かすことさえできなかった。この行為は数分間続き、その間、アキラの体はまるでコンピュータゲームに取り込まれたかのようで、そのプレイヤーはしばらくパソコンから離れてしまい、もはや自分のキャラクターを操作することができなかった。ついにプレイヤーがコントローラーを手に取り、キャラクターの操作に戻った時、青年の最初の行動は、集落のほぼ全員に届くほどの大きな叫び声だった。
「貴様一体、何をやってるんだ?!?!」
もしアキラの語彙に、約八十年前に彼の先祖たちが使っていたような、もっと過激な言葉があったなら、彼はきっとこの瞬間にそれを使っていただろうが、そんな機会はなく、彼は利用可能な語彙の中で自分の感情を最も明確に表現するこのフレーズを口にした。
しかし、ニルスお爺さんの殺人者からの反応はなく、彼はただ食事を続けていた。それに対してアキラはさらに激怒し、すべてを忘れて、この男に素手で立ち向かった。
すると彼は、腹部を強く蹴られ、この言葉を浴びせられた。
「食事中だって、見えないのか? 誰かが食べている時に邪魔をしてはいけないって、両親に教わらなかったの?」男は咀嚼しながら、イライラした口調で言った。
三十秒ほど経ってやっと立ち上がることができたアキラは、二度目の攻撃を仕掛けることにしたが、今度は見知らぬ男はそれほど辛抱強くはなかったため、アキラを血まみれの拳で殴り、その前にこの言葉を発した。
「若いだからって、いい気になるなよ。」
アキラの家族全員が住む小屋の壁をも容易に壊すほどの強烈な一撃を受けて、青年は意識を失い地面に倒れた。
深い森の中。季節は、ほとんどすべての収穫が終わり、遅い野菜だけを残し、木々の葉はパレットの跡がついた画用紙のようになり、寒さを伴う冬が訪れ、人々に暖かい服を着せ、ストーブに薪をくべさせることを知らせる時期に差し掛かっている。
童話の表紙から描き出されたようなこの世界の中で、二人の若者が集落の住人たちが「見張り所」と呼ぶ場所に座っている。彼らのすぐ隣には木製の柵が広がっており、集落の領土を囲み、住民の自由な移動の境界を示している。若者たちは小さな粗末な小屋に座り、そこには生活用品として、二つのガタガタの椅子と、厳しい冬に凍え死なないようにするための小さなストーブ、そして危険が迫った時に集落全体に知らせる鐘があるだけだ。この鐘は、存在して以来何百回となく鳴らされてきたが、それらはすべて例外なく訓練用だった。こちらの人々の生活と生命に対する真の危険と脅威は、今なお謎に包まれていた。
このような見張り所は、柵の周囲全体に四箇所ある。四方に一箇所ずつだ。男たちはこの小さな小屋に座り、十二時間ごとに交代する。今日は、アキラが午前八時から午後八時まで、北の見張り所で見張りに立つ番だった。彼の相棒は、リュドミラとエフゲニーの息子であるアレクセイという隣人だった。アキラとは異なり、アレクセイは自分の仕事をきちんとこなしてた。十二時間の間、一度も気を散らしたり集中力を切らしたりすることなく、彼は小屋の窓から外を見て周囲を監視し、いつでも鐘を鳴らして住民たちに迫り来る災難を伝えられるように準備していた。
アキラはアレクセイとは正反対だった。彼は、どんな危険も自分たちを襲うことはないと考えていた。そもそも、これらの見張り所や鐘に意味を見出すことを出来なかった。だからアキラは、この小さな家にいるほとんどの時間を、頭の中の悪魔からどうにか逃れるための睡眠か、ここでの生活や「檻」の外側についての無意味な思索に費やしていた。もちろん、アキラにとってはそれらは無意味ではなかったが、彼の憶測に耳を傾けながら集中力を保たねばならなかったアレクセイは、会話に付き合うような機嫌にならなかった。これまでのすべての時と同様に、アレクセイは無知な相棒に注意を払わないように一生懸命に努めていた。一方、アキラは彼に理解を求めようとしていた。
「なぜ俺の言うことを信じようとしないんだ?」
しかし、これまでのアレクセイとのコミュニケーションを図ろうとしたすべての試みと同様に、アキラは今日も十数回目の無視を返された。もし相手がもう少し融通の利く人間だったなら、おそらくアキラの頭に、ここから脱出するの考えが浮かぶことはなかっただろう。しかし、この小屋に十二時間も閉じ込められるたびに、彼は独りでこれらの考えと向き合い、まるでリングに立たされているかのようだった。そこではこれらの考えが、彼の祖母や死んだ祖父が語ってくれた、あの恐ろしくて怖い宇宙人の形をとっていた。そして毎回、アキラは惨敗を喫したが、勝利への希望と信念を持って、アキラは何度も何度もここに来て、いつか勝ち誇ろうとしていた。
今日も例外なく、ノックダウンされ、数ラウンド後にノックアウトされたアキラは、感情的な力の限界に達していた。彼にとっての救いは、睡眠と、小屋の扉が開いて見張りの交代を知らせる瞬間だけだった。今回も、窓の外を見ると、暗くなり始めているのが見えた。だから彼は、自分のバランスを崩すかもしれないものすべてから頭をできるだけ空っぽにして、まさにその瞬間―扉が開く瞬間を待つことにした。そして、待つことは長くは続かなかった。十分も経たないうちに、アキラとアレクセイの交代要員が来て、アキラたちを任務から解放した。ただし、これを任務というよりも、アキラの同族、彼と同じ『檻』の中で共に生きることを余儀なくされた人々に対する義務と呼ぶ方が正しいだろう。
小さな小屋から出ると、二人の若者たちは集落の中心へと向かった。そこに彼らの家があった。アキラの脳を捕らえていた考えからまだ完全には解放されていない彼は、自分の硬くて固くて居心地の悪いベッドのある場所へと向かっていた。道中、彼は長い間恋い慕っていた彼女に出会った。アキラの最初の記憶はすべて彼女に関係していたのだから、彼女が彼の初恋だったと言っても過言ではないだろう。エルザに駆け寄ると、アキラは今朝母親が言っていた言葉を思い出し、彼女を夕食に自分の家に招待した。そこでは大きなニンジンパイが彼らを待っていた。今日は彼の弟、ツバサの誕生日だったから。
友人の提案に同意したエルザは、アキラの家へ向かった。道すがら、青年は彼女に今日一日がどうだったか尋ね、過去十二時間のことを完全に忘れようとしてた。そして、彼女のおかげでそれは叶った。アキラがエルザと話すたびに、頭の中のすべての悪魔とその馬鹿げた考えは、まるで最初から存在しなかったかのように消え去っていた。エルザへの思いが非常に強く、何物をも追い払うことができたのだと言ったら誇張にならない。
家に近づいて入ると、そこにはすでに五人がいて、もうそこの人間たちを背負うには手一杯だった小屋に、さらに二人の来訪を耐え、なんとか持ちこたえた。中では、アキラの両親、祖母、そして弟と妹が彼を待っていた。今日の豪華な夕食の主役は、十一歳になるアキラの弟だった。乾燥した植物でできた小さなクッションの上に床に座ってアキラとエルザも夕食に加わった。
この家族では、夕食時に互いに話をし、物語を語り合うのが伝統だった。今日の主役はツバサだったので、彼が会話を始めた。部屋の中の全員が彼の話を注意深く聞き、その後、会話に加わり続けた。アキラを除いて。青年はその間、自分の友人の方を見つめ、その美しさに酔いしれていた。
数分後、会話は主人公の祖母、ナナミに移った。おばあさんはいつも会話を過去へと戻し、まるで地球という惑星についてのフィルムを六十年前に巻き戻すかのようだった。人々がまだアパートに住み、車に乗り、ガジェットやインターネット、そして彼らの世界のあらゆる可能な恩恵を使っていた時代に。今回も例外ではなかった。
「私が七歳の時、両親が初めて私たち自身のアパートを買って、四人の家族全員で、兄と一緒にそこに引っ越したの。それは素晴らしい時代だったわ。私はその時、小学校の二年生に上がったばかりで、毎日学校でも家でも本当に幸せだった。」とナナミの物語はいつもこの瞬間から始まった。おばあさんが新しい家に引っ越した時の話かから。昔話を紡ぎながらナナミは細かい点を一つも忘れずに語った。
おばあさんがどこかからこの文章を読んでいるかのような印象があった。なぜなら、毎回一言も変わることなく語られたから。その理由は、ナナミが自分の家族、先祖の歴史を保存し、将来の世代に伝えようとしていたからだ。彼らが自分たちが誰であり、先祖が誰であったかを決して忘れないように。
おばあさんは語りの中で、良いことや悪いことのバランスをうまく取るのが上手だった。この物語における暗い部分は宇宙人、ある日突然どこからともなく現れ、全人類に対して戦争を仕掛けた怪物たちだった。しかし、これを本格的な「戦争」と呼ぶのはおそらく難しいだろう。六十六年前に起こったことに完璧に当てはまる言葉は「殲滅」だ。人類の技術や武器は、六本の肢を持つ、五メートルの紫色の粘液状の痩せた怪物たちに、一切の損傷を与えることができなかった。だから、人類に残された唯一の選択肢は、逃げて隠れることだった。そうして彼らは、世界中に小さな集落を形成し始めた。
エルザを含めてこの家にいる全員が、彼女はこの家の常連というわけではなかったにもかかわらず、この物語を暗記していた。しかし、ここに居合わせた誰もナナミの話を遮る勇気と決意を持ち合わせていなかった。だから唯一の選択肢は、おばあさんに話を始めさせないことだったが、残念ながら今日アキラの家族はその使命を果たせなかった。だから彼らは黙ってナナミの話を聞くしかなかった。
しかし、この食卓の聴衆の中に、他の六人とは根本的に異なる視点を持つ者が一人いた。その人はアキラだった。彼の祖母の話は、彼が家に入る前に玄関先に置き去りにしたすべての思索の触媒となった。祖母の言葉の一つ一つに対して、青年は不満と憤りを感じ、その後すぐにそれらの感情を内に押し殺した。なぜなら、自分の考えを家族がどう受け止めるかわからなかったからだ。
アキラは、この五年以上にわたって考えてきたすべてを大声で叫び出そうなところにいた。これほど若い年齢のティーンエイジャーズが、これほど大きな問題について考えること自体が非常に驚くべきことだった。今まさにその頃のアキラとほぼ同じ年頃の弟を見てみてもいい。彼の子供心には、今兄の頭を引き裂いているような考えは、今も、十年後も、いや三十年後にも浮かんでこないはずだ。では、アキラが年齢のわりに発達し、賢いと言えるのか? おそらく違うだろう。
アキラの混乱の原因は、彼の理性に触れ、分析を通過するすべてに対する不信感と完全な懐疑主義にあった。アキラは自分の目で見ていないすべてのものを信じることを拒否していた。ましてや、一本の触手で人間を真っ二つに引き裂くような恐ろしい怪物についての話などなおさらだ。だから、自分の口の制御を失いそうになるたびに、アキラはいつもエルザのことを思い出していた。そして今日は、彼女がすぐ目の前にいたので、この夜は今月の他のどの夜よりもさらに穏やかに過ぎていった。
ナナミの物語の最後にはいつも、小さな女の子が最も好きだった、最も重要な場所に紡がれていた。
「私が一番好きだったのは、動物園に行くことだったわ。人々が来て動物を見たり、餌をあげたりできる場所よ。そこでは、いつも動物たちの世話が行き届いていて、美味しくて健康的な食べ物を与え、洗って、すべての病気を治してくれたの。私たち家族全員で、毎月最終週末にそこに行って事前にピクニック用の食べ物を持っていった。天気と時間が許せば、地面に大きな毛布を敷いて、その上でピクニックをして、動物たちと暖かくて良い天気を楽しんだものだわ。私の一番好きな動物はいつも…」
「パンダでしょ。だって、あんなに可愛くて、ふわふわで、好きにならずにはいられないんだもの。わかったよ、お母さん。もう遅いし、エルザも家に帰らなきゃ。」まるで誰もが結末を知っていることを示すかのように、ナナミの娘でありアキラの母であるモモが、自分の母の話を遮った。
「あら、そうだったのね。ごめんなさい、エルザちゃん。すっかり時間を忘れてしまって。あなたの両親もきっと心配しているわね。アキラ、良い子だから、彼女を家まで送って行ってあげなさい。」
その後、二人は家を出て、今日最後の五分間を共に過ごした。正直なところ、アキラの家からエルザの家まで歩くのに二分もあれば十分だったが、今日は何かが起こり、アキラたちが長居をし、二倍以上の時間を費やすことになった。
その理由は、アキラがついに勇気を振り絞って、エルザに自分の気持ちを告白したからだ。しかし、ここではむしろ、その感情が非常に強く、青年の心の縁を越え、彼が拒絶されるのを恐れて内側に閉じ込めておいた封印を破ってしまったと言う方が正しいだろう。
エルザはそれに応えた。正直なところ、この集落のほとんどすべての彼女たちは、アキラの心臓から溢れ出し、炎となって口の中に上がり、彼の唇をすり抜けて大気中に放たれ、何もかも燃やし尽くすことができるような、あれほど情熱的で燃えるような感情に、おそらく応えたことだろう。このくらいアキラの気持ちは熱かった。しかし、エルザは他の彼女たちと違って、その炎に焼かれなかったのは、エルザ自身が目の前に立っているその人に気持ちを抱いていたからだ。もちろん、アキラほど強いものではなかったが、それでもエルザは彼の中に、人生の最後まで一緒に歩んでいける人物を見ていた。
その後、二人はキスでその絆を固めた。それは一秒にも満たないものだったが、二人の若者の記憶に永遠に刻まれた。エルザを家まで送り届けたアキラは、彼女に別れを告げ、顔に笑みを浮かべて自分の小屋へと戻った。それが、愛する女性との最初で最後のキスになるかもしれないとは、微塵も知らずに。
「いいな」と思ったら、僕も「いいな」と思う。




