第1章エピローグ
急に出現した魔族の気配。
領都から廃砦へと戻ため、転移魔法を発動しようとしていると。
「――ん?」
「おや?」
私とリリーはほぼ同時に顔を上げたのだった。
「魔族の反応が消えたわね?」
「転移魔法を使ったにしては『ブツ切り』すぎますね……。おそらく死亡したのかと」
そこまで分かるのか。吸血鬼、すごい。
「ロイ君かしらね? ともかく、転移してみましょうか」
「ご随意に」
◇
砦の門前へと転移する私とリリー。いきなり内部に移動してもよかったのだけど、それだとロイ君たちを驚かせてしまうからね。戦闘直後なら尚更気をつけないと。
「あら」
砦の門を守っているはずのゴーレムが破壊されているわね。何か強い力で殴られた感じかしら?
ゴーレムなら何度でも直せるので慌てる必要はない。
それはそれとして、やはり自分の生み出したものが壊されたとなると不愉快になるのだった。
直してあげましょうかとゴーレムに近づくと、
『――セバス、危険』
残された力を振り絞るかのようにして、腕で砦の中を指し示すゴーレム。
命なきゴーレムと、老い先短いセバスでは――セバスを優先するべきか。
「……あとで直してあげるわ。少し待っていなさい」
『御意』
ゴーレムの返答に頷いてから、破壊された門を通って砦の中へ。
「――――」
血のニオイ。
壁にもたれ掛かるかのように倒れていたのはセバス。
血の気はない。
脇腹もない。
まるで巨大な肉食獣に噛み千切られたかのように、右脇腹が消滅していたのだ。
明らかに致命傷。
……いいや、致命傷だった。
なぜならすでに、セバスは事切れていたのだから。
……悲しむ必要はない。
なぜならば、私には何とかできるからだ。
「――死者蘇生」
おそらくは百人単位。同時に死者蘇生をしてみせた私なら、一人であれば短縮呪文で十分だ。
まるで時間を巻き戻しているかのように。理屈で言えば事実時間を巻き戻しながら。セバスの致命傷は完治して、魂も戻ってきた。
「……うっ、わたしは……?」
まだ事態を理解できていないのか、周囲を見渡したり消えた傷に驚いていたりするセバス。
まぁ、彼への説明は後回しでいいでしょう。ロイ君たちのことも気になるしね。
探知魔法を発動すると、どうやらロイ君たちは中庭にいるみたいだった。この砦、訓練場を兼ねた中庭があるのよね。
というわけで中庭へ。
「……セバスは休んでいていいのよ?」
当然のようにあとをついてくるセバスを気遣う私だった。
「いえ、事の顛末が気になりますので」
「……まぁ、それもそうよね」
なにせ一度殺されたのだ。気になるのが当然でしょう。
リリーが側で支えてくれているし、無茶をしなければ平気かしら。
「みんな、無事?」
中庭に足を踏み入れつつ声を掛ける――と、思わず動きを止めてしまう私だった。
首を落とされた筋骨隆々の魔族。これは特段驚くものでもない。たぶん魔力が『ブツ切り』になった魔族でしょう。切断面が雑なので、おそらくロイ君が大剣で首を刎ねたのだ。
予想外だったのは、もう一人の魔族。
土下座していた。
ロイ君たちに囲まれながら、土下座していた。
魔族ってプライドが高く、人間相手に頭を下げることなんてまずないと聞いていたのだけど……。
ロイ君たちも困った様子なので、私が介入する。聖属性の拘束魔法で土下座していた魔族を拘束、呪文を唱えられないよう口も覆ってしまう。魔族にとって聖魔法は苦手属性なのでこれで抵抗はできないでしょう。
「殺しますか?」
指をパキリと鳴らしたリリーの肩に手を置く私。
「ちょっと待ってね。――セバス。あなたを殺したのはどちらの魔族かしら?」
「は、は……、やはり私は死んで……いえ、そこで首を刎ねられた魔族に殺されました。破壊音がしたので様子を見に行ったところ――」
「そう」
じゃあ、報復しましょうか。
死んだらそれで終わり。そんなことは私が許さない。
「――死者蘇生」
蘇生魔法を使うと、魔族の首と胴体が繋がった。
「はっ!? なんだ、俺は死んだはず――がはっ!?」
騒ぎ出した魔族の頬を叩き、こちらに意識を向けさせる。
「さて、質問しましょうか。あなたの名前は? 目的は? 見たところ魔族だけど、『魔王』と関係はあるのかしら?」
「……へ、嬢ちゃん。口の利き方に気をつけな」
ニヤリと笑った魔族が魔力を操作し始めたので――容赦なく、その腹を剣で切り裂いた。
「ぐっ!? がぁあああ!?」
鮮血がまき散らされ、臓腑が地面に垂れ下がる。
「うるさいわね」
でろんと伸びた内臓を踏みつけると、魔族はさらに大きな叫び声を上げたのだった。内臓には痛覚がないとは聞くけど、踏みつけると痛いものなのかしらね?
「シア様。この魔族は軟弱なようです。痛みでこれ以上の証言は無理でしょう」
リリーからの助言を受け、小さく頷く私。
「では、リセットしましょうか」
魔族の首を刎ねると、数分もしないうちに魔族は絶命した。
もちろん、これで終わりではない。
「――死者蘇生」
再び首と胴体がくっつき、割いた腹も元通りになった。
「……は? え……?」
「さて、質問しましょうか。あなたの名前は? 目的は? 見たところ魔族だけど――」
「な、何だお前!? 何をした!?」
錯乱状態にある魔族からは証言を得られそうにないわね。
しょうがないのでもう一度首刎ね。あと五回くらい繰り返せば落ち着くんじゃない?
というわけで、連続死者蘇生チャレンジ。私は一度に百人以上を死者蘇生したからね。まだまだ余裕があるわよ?
そうして出血大サービスで10回ほど殺し続け、魔族の男が知的生命体としての言語を喋れなくなってきた頃。
「シア様。もう一人魔族はいるのですから、無理に聞き出さなくてもよろしいかと」
「よく考えたら、それもそうね?」
リリーからの進言に頷きつつ、今度は魔族の心臓に剣を突き立てる私だった。
いやねぇ? だってねぇ? 証言は必要なくなっても、この男がセバスを殺した事実は消えないじゃない?
「さすがの『闇堕ち』でございます」
なぜか満足そうに頷くリリーだった。
◇
ごくごく平和な虐殺&死者蘇生の繰り返しが終わったあと。
「さ、さすがシアさんです」
ロイ君がガクガクと震え、
「シアさんが敵じゃなくて良かったです」
シーナちゃんが安心したようにため息をつき、
「魔族に対しての容赦なき殺戮。さすがは神……」
なぜだかセイラちゃんからの好感度が上昇していた。ほんとになんで?
「ま、まぁいいわ。とりあえず、もう一人の魔族から話を聞きましょうか」
私が拘束を解除すると、魔族の男(細い方)は再び土下座したのだった。
「せ、聖女様に大変なご無礼を!」
うん? 聖女様?
魔族にとって聖女って敵よね? 相性が悪すぎるし。なのになんで様付け?
私が首をかしげていると、魔族は次々に説明をしてくれた。ここまで来た理由とか、魔王の目的とか、殺戮した魔族が実は四天王だったとか。
え?
あの雑魚、魔王軍四天王なの? あの実力で?
……あぁ、でもそうか。
ようやく納得する私。
原作ゲームの流れとして。すでに私が追放された以上、ロイ君たちは『勇者パーティー』としてヒロインたちを教え導く立場で登場しなければならないのだ。
でも、ロイ君たちは駆け出しの冒険者でしかなくて。とてもではないけれど他者を教え導くことなんてできない実力だったのだ。
でも、魔王軍四天王を倒し、一気にレベルアップしたのなら納得できる。たぶん原作ゲームに出てこない裏設定で、このようにロイ君と四天王が戦い勝利するというストーリーがあったのだ。
とはいえ。原作ゲームでの強さは不明だけど、私の知っているロイ君は四天王を倒せるほどの実力じゃなかったはず。
どういうことだろうとロイ君に戦いの詳細を尋ねると、彼女は目を輝かせながら説明してくれた。
「シアさんのおかげです!」
「私の?」
「はい! さすがシアさんです! 魔族との戦いを予見して、僕たちに魔族流の戦い方を示してくれたんですよね!? 大剣を素手で受け止めたり! 味方を投げて目くらまししたり!」
いえノリと勢いです。
魔族の中でもそんな戦い方をするのなんて、あの四天王だけじゃない?
と、バカ正直に答えるのは闇堕ち令嬢ではないわね。
「ふっ、いいえ。凄いのは私ではなく、たった一度で対応してみせたロイ君よ」
「シアさん……っ!」
「でも、四天王が倒されたとなれば魔族も戦い方を変えてくるでしょう。こんな戦いはこの一度だけだと考えるべきね。――相手がどんな手を使ってでも対処できる実力を付けないとね」
「はい! 頑張ります!」
キラッキラとした目を向けられてちょっと罪悪感が。ぐぅ、ロイ君に嘘をつくと良心の呵責がぁ。
「シア様に『良心』などというものが存在するのですか?」
いい加減拳骨落とすわよ慇懃無礼メイド。
=============
コンテストの規定文字数行ったので、ここで更新一回止めます。




