勇者パーティー
私の記憶している『原作ゲーム』は三部構成となっていた。
第一部はヒロインが『聖女候補』に選ばれて、攻略対象と出会い、愛を育んでいく物語。
王太子ルートを選ぶと他の聖女候補(つまりは私)から虐められるのだけど、最後はヒロインが聖女に選ばれて第一部完。悪役令嬢は追放処分となる。
第二部は冒険編。『聖女』としての力に目覚めたヒロインが愛しの攻略対象と共に魔王討伐の旅に出るのだ。ここでいわゆる『お助けキャラ』として登場するのが勇者パーティーだ。
ちなみに第一部で誰も攻略しないと勇者ルートが解放される。
第三部は完結編。魔王を倒し、自らが魔王となってしまったヒロインの決断が描かれる。自ら命を絶って魔王の連鎖を止めるのか。あるいは攻略対象と共に別の選択肢を選ぶのか……。
勇者パーティーは第二部と第三部の物語に深く関わっている。
なぜ原作ゲームにおける重要キャラを思い出すのにこれほど時間が掛かってしまったかというと……何度も何度も、勇者が登場する前に処刑されたり殺されたりしたせいだ。
繰り返す死に戻りの中で、私が勇者登場まで生き残れたのは数回のみ。しかもその場合はヒロインと距離を取っていたので、勇者と関わったことはほとんどない。挨拶くらいはしたかしら? こんな状態なのだから勇者のことを忘れていても不思議じゃないわよね。
ともかく、勇者だ。
聖剣を振るい、魔王を討伐する者。原作ゲームではお話の都合でヒロインに魔王討伐の功績を譲ることになるけれど、勇者がいなければ魔王を倒せる可能性は激減することになる。
――つまり、今ここで『排除』してしまえばいい。
まだ鑑定していないので背中の大剣が聖剣かどうかは分からない。下手に鑑定すると魔法使いにバレる可能性があるし。
でも、たとえ聖剣であったとしても問題はない。
そもそも聖剣は魔王に対して特別な効果があるだけの、人間相手では切れ味鋭い剣でしかない。むしろ私が魔王になっていない今のうちに殺してしまった方がいいでしょう。
勇者を殺し、私が聖剣を獲得して魔王を倒す。ここで勇者と出会えたことは『運命』と言えるでしょう。
繰り返す人生の中でもう何百人殺したのか分からないのが私だ。冒険者として。傭兵として。剣の道を究めようとした者として。罪人から無実の人まで数多く殺戮してきた。今さら少年少女を殺したところで地獄行きは変わらない。
あるいは、この繰り返しの中こそが地獄なのか。
どちらにせよ、やるべきことは決まっている。
決断した私が空間収納からロングソードを取り出そうとしたところで――
「――お嬢様。そして皆様方。あまり死体の近くにおりますと、あらぬ疑いが掛けられてしまうかもしれません」
セバスがそんな進言をしてきた。私たちが殺したと勘違いされると言いたいのでしょう。
……そうだ、セバスだ。
今はセバスがいるのだ。
追っ手である騎士共を殺すならともかく、なにもしていない少年少女たちを後ろから斬り捨てるような真似をしたら……。セバスは批難してくるはずだ。
もしかしたらリリーも……。
――やめだ。
何の罪もない勇者を殺すことは躊躇わない私でも、セバスやリリーから嫌われることは避けたい。これは人間に対する優先度の問題となる。私にとっては勇者たちの命よりも、親しい人からの好感度の方が大切なのだ。
――それに、勇者がこの程度の腕前ならいつでも殺せるし。
「あ、あの……?」
じっと凝視している私が不気味だったのか、勇者が戸惑いがちに声を掛けてきた。ここは上手いこと誤魔化さないとね。
「……驚いたわ。こんなところで首無しの騎士を見つけるだなんて」
「ぼ、僕たちがやったんじゃありません!」
「分かっているわよ。首がどこにもないものね」
「そ、それもそうですね……」
どことなく居心地が悪そうな彼らを安心させるため、私は冒険者証を提示した。
「こんにちは。私はシア。Aランク冒険者をやっているわ」
冒険者証の魔石に魔力を通し、登録された顔写真を表示する。セバスに見せるため髪色を変えていたからちょうど良かったわ。
途端に目を輝かせる勇者君。
「Aランク冒険者!? すごい! 本物だ!」
うぉおぉおお……。すごくキラキラした目。悪役としては目が潰れそう。
そんな勇者君の服を聖職者ちゃんが軽く引っ張った。
「驚く前に自己紹介しませんと」
「あ、そ、そうだったね……初めまして。駆け出し冒険者のロイです」
「魔法使いのシーナです」
「回復役のセイラと申します」
「はい、よろしくね。……遺体の埋葬をしているみたいだけど、その騎士はあなたたちの知り合いかしら?」
「い、いえ、騎士に知り合いはいませんけど……放っておくのも可哀想ですし……」
「優しいのね」
微笑みかけるとロイ君の顔が一瞬で真っ赤になった。チョロい。
そんなロイ君の脇腹に肘打ちするシーナちゃんとセイラちゃんだった。
これはロイ君を惚れさせれば将来的な身の安全を確保できるのでは? ……他の二人から目の敵にされるからダメか。でもそれはそれで勇者パーティーが崩壊しそうでいい感じかも?
ま、それはともかく。ここは『美人で頼りになるお姉さん』としての地位を確立しておきましょうか。
意味深な目で穴の中の死体を見つめる私。我ながら綺麗な首落としだ。
「騎士が一人で行動するとは考えがたいから……どこかから逃げてきたのかしら?」
「逃げて、ですか?」
素直な目で見つめてくるロイ君に小さく頷いてみせる。
「この国の騎士は基本的に騎士団単位で行動するし、単独行動のときでも従士くらいはいるはず。なのに騎士しかいないのだから……どこかで戦いに負けたのじゃないかしら? 落とされた首も見当たらないし」
「な、なるほど……よく考えてみれば、それもそうですね」
感心したような声を上げるロイ君だった。
もちろん。この騎士の首や他の騎士の死体は土魔法を使って埋めてある。つまりは証拠無し。これで私が疑われることはないでしょう。
ちなみに。リリーの様子を横前で確認すると『コイツ、面の皮厚いな』みたいな顔をしていた。失礼な。真顔で嘘をついてみせるのは公爵令嬢の必須スキルでしょうに。
この慇懃無礼メイドめ、と半眼を向けていたら、魔法使いのシーナちゃんが小さく手を上げた。
「し、シアさん。戦いとはなんでしょうか?」
キョロキョロと周囲を見渡すシーナちゃん。その『戦い』に巻き込まれるのを恐れているのでしょう。
「そうねぇ。近くに戦場はなかったはずだから……騎士が派遣されるレベルの魔物とか、盗賊団とか?」
「魔物……盗賊団……騎士様が負けちゃうほどの……」
ガクブルと震えるシーナちゃんだった。冒険者としてやっていくならもう少し考えを表に出さない訓練をした方がいいかもね。
…………。
いやいや、なぜ勇者パーティーメンバーに対してそんな助言を考えているのか私。
自分に対して呆れていると、今度は聖職者のセイラちゃんが小さく手を上げた。
「あの、不躾な質問かもしれませんが――後ろの方々は? どうやら執事とメイドのようですが」
疑問に思うのも当然か。いくらランクA冒険者でも執事とメイドを引き連れているはずがないのだから。貴族令嬢ならとにかく。いや貴族でも連れて行くのはメイド一人か。
さてどう説明したものかと悩んでいると、慇懃無礼メイドのリリーさんが一歩前に出た。
「無論、シア様にお仕えしているからです」
「つ、仕えているのですか?」
「えぇ。しかも『シア様』と名前呼びを許された仲です。つまりはメイドを超えたメイドと言えるでしょう」
あまりにも堂々と妄言を口にするリリーにセイラちゃんもタジタジだ。
「あ、そ、そうですか……冒険者なのに執事とメイドを連れ歩くとは、凄いのですね……」
「えぇ。シア様は凄く、素晴らしいお方なのです」
「そ、そうなのですね……」
明らかにドン引きしているセイラちゃんだった。なんかごめんなさいね?




