なんかおかしい
――帝国暦三二一年・夏終わり前 東ロンバルディア帝国騎士団領 第七騎士団 本庁――
「……絶対おかしい!」
クリスは真顔だった。
エリシアは書類から視線を上げる。
「何がですか」
「団長、レオンが」
即答だった。
直ぐ様、エリシアが止まる。
クリスは続ける。
「最近ぼーっとしてるし」
「反応遅いし」
「昨日なんか窓見ながら五分くらい止まってたぞ」
エリシアは少し黙る。
心当たりは、あった。
「……疲労では」
「いや」
クリスは首を振る。
「あの団長、疲れてても動く時は動くんだよ」
「でも今は」
「なんか、考えてる」
珍しく鋭かった。
エリシアは静かに視線を落とす。
帝都とイリス。
最近の会話。
そして窓の外を見るレオンの姿。
嫌な予感は、少しずつ形になり始めていた。
「……聞いてみますか?」
「聞けるなら苦労しねぇよ」
クリスは頭を掻く。
「レオン、ああいう話になると急に閉じるし」
「なるほど」
別の声がした。
二人が止まる。
そこには、シエラがいた。
いつからいたのか分からない。
怖かった。
「……シエラ」
「上級調査員殿です」
即訂正だった。
クリスは顔をしかめる。
「なんでいるんだよ……」
「恋人ですので」
「覆面ですが」
エリシアが少しだけ視線を逸らす。
まだ慣れていなかった。
シエラは静かに歩み寄る。
「つまり」
「レオン団長に精神的変化が見られる」
「原因候補はイリス皇女」
「帝都」
「環境変化への意識」
「興味深いですね」
完全に調査員だった。
クリスは嫌そうな顔をする。
「お前、絶対面白がってるだろ……」
「調査です」
「上級調査員殿です」
また一瞬で訂正された。
シエラは静かに続ける。
「もしレオン団長が帝都へ行けば」
「騎士団領の運用は大きく崩れますね」
空気が少し止まる。
クリスは黙る。
エリシアも否定できなかった。
「……やめろよ、そういうの」
クリスが小さく言う。
シエラは静かに瞬きをした。
「事実です」
怖かった。
クリスは空を見る。
もう駄目だった。
■第七騎士団 本庁・廊下
一方、少し離れた場所。
リリアは、その様子を見て小さく笑っていた。
「ふふ、仲良しですね」
楽しそうだった。
その背後から。
「リリアさん……」
フィアナだった。
「少しだけ、補給してもいいですか……?」
「ほ、補給?」
意味が分からないまま。
ぎゅっと抱きつかれる。
リリアの顔が赤くなる。
「ふ、フィアナさん……」
「癒やされます……」
幸せそうだった。
その光景を親衛隊達が見ていた。
「今日も姫様がお優しい……」
「素晴らしい……」
「浄化される……」
かなり幸せそうだった。
一方、少し離れた場所で。
レオンは窓の外を見ていた。
帝都のある方向だった。
……それを見ていたエリシアだけが。
少しだけ、笑えなかった。




