それは別の話だ
――帝国暦三二〇年・冬終盤 第七騎士団 本庁・執務室――昼前。
静かな時間。
「……クリスさん」
小さく呼ばれる。
クリスが顔をしかめる。
「……何だ」
嫌そうだった。
シエラが立っている。
「レオン団長のことを、少しお聞きしてもよろしいですか?」
クリスの手が止まる。
「……やめとけ」
返答が反射だった。
「なぜですか?」
素直に聞く。
「面倒だからだ」
短い答え。
シエラは少し考える。
「では」
自然に続ける。
「少し、お時間いただけますか?」
クリスの顔が歪む。
「は??」
「直接お聞きしたいので」
「やだ」
即答だった。
シエラが止まる。
視線が、ゆっくり落ちる。
「……そう、ですか」
小さく。
「やはり、私では……」
以前と同じ流れだった。
クリスが顔をしかめる。
「……おい」
シエラは何も言わない。
ただ、少しだけ俯いている。
クリスがため息をつく。
「……分かったよ」
低く言う。
「今回だけだぞ」
シエラが顔を上げる。
「ありがとうございます」
明るい、一瞬で笑顔に戻る。
場所を変える。
■廊下
二人で歩いている。
「で?」
クリスが言う。
「何が聞きたい」
「昨日の件についてです」
即答だった。
クリスが顔をしかめる。
「……あれか」
「団長は」
シエラが続ける。
「なぜあのような行動を?」
クリスは少しだけ考える。
そして。
「……あいつは」
言う。
「常識がねえ」
短く言う。
「剣しか知らねえんだよ」
続ける。
「だから」
「説明も足りねえ」
シエラが頷く。
「なるほど」
素直だった。
「では」
少しだけ考える。
「悪意はないと」
クリスが頷く。
「全くない」
即答する。
「むしろ」
「全部真面目だ」
一瞬の沈黙。
シエラが小さく息を吐く。
そして口を開く。
「安心しました」
柔らかく言う。
少しだけ、嬉しそうだった。
クリスが顔をしかめる。
「……何でお前が安心してんだ」
シエラは答えない。
ただ、少しだけ微笑んでいる。
その様子を。
遠くから見ている者たちがいた。
ミナ。
ダリオ。
「……まただな」
ダリオが呟く。
「そうね」
ミナが笑う。
「順調ね」
クリスは気づかない。
シエラも気づかない。
ただ、静かに確実に。
周囲だけが、固まっていくのを。




