## 鈴のような声を、彼女は奏でた。キンキンと頭に響く声を、彼女は叫んだ。
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それは、いつもの放課後だった。
退屈な学校の授業が全て終わり、いつものように家にはまっすぐ帰らず公園に寄る。
その公園を見つけたのは小学二年生の初め頃だ。家に居場所がなくて、かといって学校に居場所があるわけでもなくて。いつからか一人を好むようになっていた頃に、ふらりと立ち寄ったのがこの公園だった。
公園の名前は「賤羅公園」といい、俺は勝手に賤公と略している。その名の通り、賤公に誰かが来たり近くに誰かが来たりは見たことがない。初めて見つけた時、どこか寂しさを抱えているように思えて、既視感を抱いてこの公園に寄ったのだ。
俺のことを赦してくれているような、ここにいてもいいよと言ってくれているような気がして、俺はそれからずっと毎日賤公に放課後通っている。
そして今日も今日とて冒頭で言ったように賤公に行く。公園に着いて、砂埃が視界の半分以上を占める殺風景をぼぅっと見つめる。
そこまでは、いつもの放課後だった。
しかし、そこからいつもの放課後とは違った。
「——え、……誰か、いる?」
「っ⁉」
鈴が転がるような、涼やかで澄んだ声が聞こえた。
……、は?
いや、公園に誰かが来るのは、別に珍しいことじゃない。賤公が例外なだけで、俺が見ていないだけで来ているかもしれない。でも、でも……、だ。
——この、声。聞いたことが……ある。
恐る恐るその声の主の方に向くと、……やはり。
この、人は……、同じクラスの、本多春耶さん、だ。
「あ……もしかして、橘山、くん?」
しゃらん、という鈴のような声を、本多さんはニコリと微笑みながら歌うように出す。彼女の声は特徴的で、あまりクラスの輪の中に入らない俺でもすぐに分かるほどの、澄んだ清らかな声だった。歌うような、声を奏でるような。
「……本多、さん……」
俺は、本多さんの名前しか口から出せない。あとは、呼吸だけ。
しかし、本多さんはニコリと明るい笑みを浮かべた。それは、俺には黄昏のように見えた。
「橘山くんも、ここ知ってたんだね。やっぱりここいいよねー」
「……、うん」
「橘山くんっていつからここいるの?」
ニコニコと笑いながら、本多さんが俺に聞く。
「……小二の、初め頃」
「えっ、早! わたし中一の時だよ」
終始笑顔を絶やさない彼女に、俺は一つの疑問を持った。……なぜ、そんなにも笑うのか。
「……なんでそんなに笑うの」
「え?」
「……ずっと笑ってるけど、さ」
ピキリと本多さんが笑みを凍り付かせる。……え、俺なんかしでかした?
「……俺まずいこと、言った?」
本多さんは凍り付いたまま何も言わず、俺は気まずくて呟く。
「……あ、大丈、夫……だよ。まずくない」
「……ねぇ、本多さん」
「、ん? どうしたの」
ふ、と少し嘆息し、本多さんはまたニコリと黄昏のような笑顔を見せる。それに少し眉をしかめながら、俺は言葉を続けた。
「……、本多さんって、さ。……俺と、同じで……家、まっすぐ帰りたくなくて、いつもこの公園来てる?」
「へっ」
本多さんはそう変な声を出し、ぽかんと口を開けた。
……当たり、かな。
「……え、俺と“同じ”でって……橘山くん、も?」
「……。そう、だよ」
「……あ……そう、なんだ……」
それっきり、俺たちは黙り込んでしまった。
「……あ、わたし、もう行かなきゃ……」
二人して黙り込んでから結構経った時、気まずそうに本多さんが声を奏でた。咄嗟にぱっと彼女を見る。するといつも浮かべている黄昏のような笑顔がなくて、少しだけ驚いた。……この人、笑顔じゃなくてもめっちゃ美少女、だな……。
「……そう。じゃあ、……また、会ったら」
俺の言葉に、本多さんはうん、と頷き、ぎこちない笑みを浮かべてから去った。
「——……そろそろ、帰らなきゃ……かな」
それから十分ほどぼーっとしてから、俺はおもむろに立ち上がり、ゆっくりと家への帰路を歩き出した。
「——……ただい、」
「死ねよ‼」
家の扉を開けると、キンキンと頭に響く、ヒステリックな叫び声が聞こえた。そっと見てみると、その声の主である俺の母親はきぃきぃと喚き散らしている。その横で、鬼の形相をした父親が見えた。
「うるせぇよ、お前の方が死ね‼ 何も仕事もせず、俺以外に男作りやがって! ふざけんのも大概にしろよ‼」
「はぁ⁉ あんたがそれだけの価値の男だっていうことでしょ⁉ こっちのせいにすんなよクソ野郎が‼」
「あぁ⁉ クソババアが、お前と結婚した前の俺を殴ってやりたいくらいお前にも価値ねぇよ‼ 自分の価値見誤ってんじゃねえよ‼」
「あたしもだよ! あんたなんかと結婚した前のあたしを蹴ってやりたいくらいあんたには価値ないわよ‼ 子供がいるっていうことも教えてくれなかったくせに‼ 子供がいるって知ってたら絶対結婚しなかったのに‼」
「は⁉ 俺は言ったぞ、子供がいるって‼ お前が聞いてなかっただけだろ⁉」
「チッ、うっさいのよ死ねよ‼ 言ってたかもしれないけど、あんたあんな子供だとは言ってなかったじゃない‼ お義母さんとお義父さんが言ってたわよ、『あの子は私たちの娘を殺した』って‼ 人殺しじゃない、なんでのうのうと暮らしてんのよ⁉」
「……っ、うっせぇんだよお前が死ね‼ あいつのことはいいんだよ‼」
すると、突然父親がこちらをばっと向いた。
そして俺の存在を認識すると、チッと舌打ちして
「お前は人殺しなんだからな‼ のうのうと生きてんじゃねぇよ、お前も死ね‼」
と叫んで俺を突き飛ばし、バン! と少しだけ開いていた部屋の扉を閉めた。
俺ははぁ、と溜め息を吐き、トントンと自室へと繋がる階段を登って行った。
ベッドに身を投げ、本棚から本を一つ決め取り出す。
俺は本が好きだ。……現実から、逃れられる気がするから。
ミステリー、青春、恋愛、SF、何でも読む。今日はミステリーものを読むことにした。
気づくと陽は海にとっぷり浸かっていて、空は墨汁を塗りたくったような重たい漆黒だった。
俺は小さな星も瞬かない射干玉の闇を見つめ、ふ、と息を吐いた。
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