[二部九章]救われた者達
幕間みたいな本編みたいなものです。
沢山の物をもらった。
記憶も、感情も、大事なものはたくさんもらった。
けれど、私は彼女に何も返せていない。
ちゃんと、返したいのに。
彼女の姉に聞いた。
何か手伝うことはあるか、と。
「特に今は何もないかな。」
そう、言われた。
彼女の姉の番にあたる人間のところへ行くのは、行こうとして、止めておいた。
なんかちょっと嫌な予感がしたから。
彼女の従者の片方、優し気な方に聞いてみた。
「何もございませんよ。今は、平和ですから。」
そう言われた。
ならばと、内亜に聞いてみた。
「ないよ、やること、やらないといけないことなんか。何も強制されることは無い。」
そう言われて、困った。
自分は、誰かに、何かに教えてもらわないと、何にもできない。
なのに、誰に聞いても、どう聞いても、やらないといけない事なんか無い、の解答だけ。
私は、彼女たちの役に立ちたいのに。
じゃなかったら、色々なものをくれた彼女に何も返せないじゃないか。
そう思って、私はどうしたらいいのか分からなくなった。
たくさんもらった記憶の中に、頼りになりそうなものは無かった。だって、とても平穏な記憶ばかりだったから。
たくさんもらった感情の中で、私はこの感情が虚しさだと知った。
あぁ。いろいろと、返したいのに。
何もかも、本当は返したいのに。
けれど、最後にくれた感情が言っている。
「何にも返さなくって良い。」
‥‥‥‥‥‥‥惨いなぁ、と思った。
私はこんなにも役に立ちたくて、がむしゃらにやることを探しているのに。
今は、何にもできない。
そう思ってふらふらと今日も屋敷をさまよっていると、わんこのような少年に出会った。
宇宙からの色のような、綺麗な色をした少年。
‥‥‥‥彼は、どんな色に落ち着くのだろうか。そう思ってじっと見つめていると、向こうからも見つめられていることに気が付いた。
「あおい?」
ロシア語で問われた。
その問いは、すごく私の胸の深いところに刺さって。
『ちがう。ティナ。』
そう答えると、一瞬戸惑ったような様子を見せてから、彼はそっと手を差し伸べてきた。
「てぃな。だいじょうぶ?」
そう言われて、一瞬反応が遅れた。
何が、大丈夫なんだろうか。
『えっと?』
小首をかしげる。
すると、彼はおずおずと手を差し伸べてきて、私の目元に触れた。
「痛い?」
そう言われて、離れてゆく指先を見て、初めて、自分が泣いていることに気が付いた。
『‥‥‥‥‥‥‥分からない。痛くない、とは思う。』
そう答えると、ぽんぽん、と自分の隣を示す少年。
「お話、する?」
そう言われて、一瞬戸惑ったけれど、大人しく隣に座った。
「葵に、助けられたの?」
そう言われて、驚いた。
すると、少年は少し考えるようなそぶりを見せてから、言った。
「葵は、たくさんを救うから。てぃなも、そうかなって思った。」
‥‥‥‥‥‥驚いた。彼も、彼女に救われた存在だったんだ。
「僕、イヴァン。葵を、いっぱい傷だらけにしちゃったのに、助けてもらった。ティナは?」
そう問われて、驚く。
全く。彼女の事を心配する人はこんなにもたくさんいるのに、彼女は救ってばっかりじゃないか。
けれど、瞳を閉じて、彼女の事を思い出す。
‥‥‥‥‥彼女なら、いつでもそうしそうだな、と思った。
『私は、あの子を殺すために創られた。でも、あの子に助けられた。いっぱいの物をもらって。』
そう言うと、イヴァンはふわりと微笑む。
「おなじ、だね。」
『うん。‥‥‥‥あの子は、きっといつも同じだと思う。』
「そうだね。」
静かな時間が流れる。
けれど、その静寂は決して居心地の悪いものではなくって。
『葵に、何かしてあげたいな。』
そう言うと、イヴァンは頷く。
「ぼくも、何かしたい。」
そう言ってから、ちょっと考えるようなしぐさを見せてから、イヴァンは私を見て言った。
「一緒に、なにかしよう。」
『‥‥‥‥‥いいの?』
そう問いかけてみると、こくりと頷くイヴァン。
「助けられた、のは一緒だから。一緒に、やってみよう。」
‥‥‥‥‥‥。私は、静かに頷いた。
『そうだね。何がいいかな。』
「ティナも、それを探してたの?」
そう言われて驚く。
まさか、彼も同じことを考えていたとは。
‥‥‥‥でも、きっとそれは彼女に救われた人、人じゃない存在、全員が同じことを言うんだと思う。
だから。
『うん。何かないかなぁ、って。』
「‥‥‥‥ティナ、葵に似てる。何か好きなもの、分からない?」
そう言われて、記憶を探ってみる。
‥‥‥‥‥
『あ。』
一つ。閃いたことがある。
『お菓子、好きだ。葵。』
「おかし。‥‥‥‥‥‥?」
なんという事だろうか。多分イヴァン、お菓子を知らない。
『‥‥‥‥‥‥‥‥‥ちょうどいいかな、じゃあ、いっしょにおいで。』
そう言って、イヴァンに手を差し出す。
「うん。おかし、分からないけど頑張る。」
『そうだね、手さぐりになって変なのできたらいけないから、ノワールさんに聞いてみながら、一緒に作ろう。』
こくり、と頷くイヴァンと共に。
救われた私達は、救ってくれたあの人へのお返しを画策する。
救われた者達にとってはとても大きなもの。
でも、救った当人はあんまり気にしてないっていうのがポイントですね。




