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[二部九章]除去、痛み、それから

前回の続きです。痛いの痛いのとんでけ(魔術)



笑い事じゃない。

笑い事じゃないくらい痛い。

痛いけど、痛すぎて笑えてきてしまう。


『内亜、位置のマーキング、お願い、あはは』


「もー、痛すぎてハイになってるじゃんか‥‥‥‥うっわ、思ってたより深ッ!?いやぁ葵、本気?これガチ痛すぎてやばいと思うよ、語彙力無くなるくらいにはー」


『そんなこと言われたって仕方ないじゃん、取らないとここにいますよー、攫いに来てねーって言ってるようなもんじゃん、あっはっはっは、ごめん文人、割と本気で痛いから手握って、ぎゅっと。』


「言われなくっても握ってるけどまさか感覚失ってない!?大丈夫なんだよね!?」


焦る文人の顔が面白くって笑えちゃう。

いや、笑っちゃいけないくらい真剣なのは痛いほどに、あ、ギャグじゃないけど。本当に痛いくらいに伝わってくる。


「ごめん、葵、本当にごめん‥‥‥‥」


『だから、私自身が油断してたせい、文人は悪くないってば。もう、ごめんね‥‥‥心配かけて‥‥‥』


本当に、我ながら馬鹿だと思う。

正直甘えていた。彼の優しさに。

甘く溶かしてくれるくらいに暖かで心地良い彼の想いに甘えて、自分の事をしっかりと見ることができていなかった。自分が何者かきちんと理解できていなかった。

多分、今抱えているこの感情は怒りと、ちょっとの‥‥‥ふふ、なんだろう。これは初めてだから分からないけど。怒りの方は、うん。分かりやすく自分自身に、そして文人を巻き込んだ、刺客となった少年を巻き込んだ黒幕に対しての怒り。

でもこれらは、私自身がちゃんとしていれば起きなかったはずの出来事。

だから。


『内亜、マーキング終わったら出ていいよ、私一人でやるからー。』


「はぁ!?正気の沙汰じゃないけどそれ本気!?俺にもちょっとくらい背負わせ」

『正気だから、ほいさ。』


そう言って、ぽいっと内亜を放り出す。案の定というか、マーキングは澄んでいて、除去すべきところはちゃんと分かるようになっていた。


『あっはっはっは、お見事としか言いようがないや、これ。内臓の一部に擬態させてあるんだもん。やぁ、文人、暴れるかもしれないけど嫌いにならないでね?』


「なるもんか。‥‥‥‥‥葵、終わったら僕大分怒らないといけないと思うところがあるんだけど。」


『やだ、そっちのが怖い‥‥‥‥んじゃ、えいやっと、っ』


するりと、自分の体の中に意識を飛ばして、マーキングされた痕跡へとたどり着く。

なんともまぁ、マーキングした当人の執着心を現すかのように癒着させられていたそれは、まろやかに言って大分気持ちが悪かった。

それに触れるだけで激痛が走る。

けれど、それだけだ。激痛だけで、私がお前たちなんかに見つかることをあきらめるとでも思ったんだろうか。だって、私にはまだ“やらないといけないこと”が残ってる。


『っぐ、ぅぅ‥‥‥‥ッ!!』


思わず自らの手を噛んで、痛みを殺そうとする。すると、すっとその手をどけられて、別の手が差し出される。


(え。)


何かを思う隙もなかった。余裕もなかった。だから、私は差し出されたものに噛みついて、必死に痛みを堪えながら、その邪魔なものを壊す。

壊す最中も、痛みで気が狂うかと思ったけれど。

なんだか温かいもののおかげで、自分を保っていられた。

それの為に頑張ろうって、思うことができた。

そして。


『っは、ぁ‥‥‥‥‥‥う、うぅぅ‥‥‥‥っ、』


壊し終わって、意識を元に戻した時に、気が付いた。

差し出されて、途中から必死に噛んでいたのは文人の手だった。


『わ、わわわっ!?!!?み、未希姉!未希姉!!!』


そう言って未希姉を呼ぼうとすると、そっと口を塞がれて、にっこりと微笑まれた。


「気にしなくってもいいよ。でも葵。大丈夫、って言いながらも大丈夫じゃないじゃん。もっと素直に辛いとか、痛いとか言ってよ。じゃないと僕も内亜も力になりづらいじゃん‥‥‥‥突っぱねないで。僕らはいつもそばにいるからさ。」


そう言って口を塞いだ手をそっと放して、私を膝の上にのせてぎゅっと抱きしめる文人。


『‥‥‥‥‥‥‥ん。』


色々と言いたいことはあるはずなのに、言葉が出てこなくって結局一声だけ答えて、私は大人しくする。

なんだろうか。心の中がほわほわとするような、でもこう、内亜達に対しての信用とか、未希姉に対しての親愛とか、そういうのとはこれはちょっと違う気がする。

でも。


(悪くは、ない。)


そっと目を閉じると、背後から文人の鼓動が聞こえる。

ぴったりとくっついているからか、余計に強く感じるその鼓動は、なんでだか私よりちょっとゆっくりな気がした。‥‥‥‥‥それとも、私の鼓動が早いだけなんだろうか。

文人は、色々と初めてのものをくれる。

それは体温だったり、言葉だったり、行動だったり。

あるいは、感情だったり。


「さて、終わったんなら心配してる内亜達のところに戻らないと、ね。」


そう言って頭を撫でる文人。

こくりと頷くも、文人は一向にドアを開けようとしない。


『?』


小首をかしげて見上げると、困ったような顔をして私を見下ろす文人。

視線の先を追うと、文人のコートの裾を、私の小さな手がつかんでいた。


「葵、それされると、ちょっと開けにくいかも。」


そう苦笑する文人。つい、顔が熱くなって、咄嗟に手を放す。


『ご、ごめん!!』


そう言って顔を逸らすけれど、やっぱり、顔が熱い。


(なんだろうこれ、なんなんだろう、これ‥‥‥‥‥)


でも自然と、誰にも相談したくないと思った。

だから、その熱が冷めるまで待ってから、部屋を出る。

部屋を出た瞬間に未希姉が突撃してきたので、微かに残った熱は誰にも見られずに済んだみたいだけど、こう、


『苦しい。』


‥‥‥‥‥‥いろいろな意味で。

まだ、なんでこんな感覚に陥るのかは分からないけれど。

悪くない、それだけ分かっていれば、今はいい気がした。





皆さんの初恋はいつでしょうか。

水紫は‥‥‥あ、内緒です。獅噛に聞いても知らんって言われるんだろうなぁ。

とりあえず今日の更新はもう一話あります。ではでは一時間後に。

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