[二部九章]容体と魔力と。
前回が割と唐突な展開だったので、ちゃんとした説明会その一になります。
『‥‥‥‥‥‥‥っ、』
守れなかった。
咄嗟の事だとは言え、守れなかった。危険かもしれない、得体のしれないものに近寄らせるべきじゃなかった。
何のために力を求めたのか。何のために妖刀を探し求めたのか、父さんに会いに行ったのか。
それらは全部、彼女の隣にいるための行動で、彼女を守るための行動だったはずだったのに。
まさかこんな昼中から、真正面から襲撃があるなんて思ってもみなかった。
彼女が傷を負うことがあるなんて、思ってもみなかった。
(葵は、どんな存在であってもちゃんと怪我をしたら痛いって言ってたのに。)
悔しくて、涙が零れそうになる。
今、僕は集中治療室の外で、従妹である要兄さんと、葵のお姉さんを名乗る人、未希さんが手術をしているのを待ち続けている。
もう、4時間は経つだろうか。
最悪の想定が頭をよぎる。
(考えるな、そんなことになりようがない、だってあの要兄と葵のお姉さんだぞ。何があっても大丈夫、大丈夫なはずだから。)
そう考える。最悪の事態なんて起こりえないと、必死に、浮かぶ悪い考えを消すかのように頭を振る。そして頬をパシン!と、大きな音がするくらい叩いて、意識をしっかりと保つ。
ちょっと痛かったけれど、少し冷静になった気がする。
『‥‥‥‥‥‥ふー、』
ゆっくりとため息をついて、扉を見つめる。
すると、見計らったかのように扉が開いて、葵のお姉さん、未希さんと要兄が姿を現した。
『あ、葵は!?』
慌てて立ち上がったせいで、一瞬くらりとめまいがしたけれど気にしない。
「えっと、初めまして、文人君。私は天音 未希。大丈夫、君のおかげで葵ちゃんは平気だよ。安心していいからね。」
そう言われて、ふっと力が抜ける。と、同時に疑問がわく。
「おい。文人のおかげってなんだ、コイツに医療の知識はほとんどないはずだぞ。」
そう言う要兄の言葉に、僕もこくこくと頷く。
すると、未希さんはにっこりと微笑んで、てをぎゅむっと握ってきた。
なんか要兄の視線が痛い気がするけれど気のせいだと思っておこう。
ふわりとしたいい匂いがする。
そう思っているうちに、何か暖かなものが流れる感覚が身体を巡った。
『‥‥‥‥魔力、ですか?』
無意識のうちにそう問いかけると、彼女はこくりと頷いて手を離した。
「葵ちゃんはいろんな生物の特性を持つから、その分人間としての性質がすごく曖昧でね。でもそれでもあの怪我は致命傷だった。けど、君がずっと葵ちゃんに魔力を流し込んでくれていたおかげで、葵ちゃんの命が延命できた。まぁ、輸血みたいなものだね。良く咄嗟にあんな繊細なコントロールできたものだよ。普段から練習してた?」
そう問われてこくりと頷く。
『簡単に、ですけど、何度か葵と手を繋いで、魔力を流してもらう感覚を掴む練習をしてました。‥‥‥‥‥‥土壇場でできるほどはやってなかったはずですけど。』
「そこは葵ちゃんの技量の問題。あの子の魔力操作は凄く繊細かつ緻密でね。魔力流されるとき、ずっと一定量流されてたでしょ?」
ちょっとだけ練習の時の感覚を思い出しながら、こくりと頷く。
確かに、彼女は戦闘時強大な力を使っているにもかかわらず、複数の事をいっぺんにやってのけていた。‥‥‥‥僕は彼女の事しか知らないけれど、同業者?からしたらすごい事なのかもしれない。
「不思議そうな顔してるね。いいよ、要君も知りたいだろうから、葵ちゃんを病室に移したら少し説明しようか。」
そう言われて要兄とともに頷く。
そして暫くして、広めの部屋ですやすやと眠る葵を見て、ぎゅっと心臓を掴まれるような気持ちが起きてきた。
(僕がしっかりしてなかったから、っ)
そう思いかけた瞬間に、ぱんぱん、という柏手のような音がして驚いてそちらを見る。
少々真面目な顔をした未希さんが、そこに立っていた。
「文人君。これは君のせいじゃない。むしろ葵ちゃんを助けてくれた君に、君自身を責める資格なんかないよ。」
『分かっては、いるけど』
「うん。悔しい。私もそう。だから、ちゃんと説明させてほしいの。その場の事も聞きたいけど、忘れないうちに応急措置については話しておかないとね。」
「んで未希、その応急措置ってなんだ。」
要兄が未希さんへ問いかけると、未希さんはどこからともなく水が今にも溢れかえりそうなくらいにぎりぎりまで詰められた水袋を取り出す。
「これが、葵ちゃんを構成する存在の総量、魔力の量と仮定するね。」
『‥‥‥‥‥つついたら溢れそう。』
ふと零れた言葉に、未希さんはふわりと微笑みかけてくる。
「うん、正解。でも葵ちゃんは、その魔力をコントロールして、ずっとバランスを保ってるの。すごいよね。‥‥‥‥‥‥‥で、これさ、針でつついたらどうなると思う?」
「勢いによって爆ぜるだろうな。それか勢いよくその針の部分から水が止めなく零れてくる。」
僕が言おうとしたことだけれど、流石というか、要兄も同じ結論に至ったみたいだ。
『でもそれが、どう魔力のコントロールに繋がるん、ですか。』
つい敬語になってしまって、未希さんがクスクスと笑う。
「敬語じゃなくっていいよ。じゃあ、ちょっとした授業といこうか。」
何で表現しようかと迷いましたが‥‥‥‥‥ビーカー程きっちりとした容量がある訳じゃ無いので水袋にしてみました。




