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[二部九章]唐突な事件

起きる時は唐突に。


妖刀の件から、少しだけ時間が経った。

とはいっても、一か月とかそれくらいの、私の生きてきた年数からしたら大したことない時間だったけれど。

その時間で、私は図書館にも、学校にもなじむことができてきたと思う。

たまに文人に、


「葵、ちょっとその位置目立つからこっちおいでよ。」


とかって声かけられたりして、司書としての仕事?の時間中邪魔にならないようにしている。


けれど、ある日の事。

ある、買い物の帰り道の事。


「あれ、葵、あの子大丈夫かな」


ふと示された先の方を見ると、不思議な色の髪色をした少年がふらふらと歩いているのに気が付く。

緑のような、桜のような、けれど青空みたいでもあるような、そんな色。


『ちょっと、様子見ないと何とも。』


そう言いながら、その少年に近寄った。

忘れていたわけじゃなかった。

ただ、油断していただけだった。


『ねぇ、君大丈夫?』


そう言いながら、少年に近寄る。

手を肩にかけようとした瞬間、急に視界が真っ赤に染まった。


『あ、れ‥‥‥‥‥』


「葵!!」


真っ赤なのは自らの血だと気が付くのに一瞬遅れた。

多分、多分だけど。


(今、“何か”され———————)


意識は、そこで途切れた。





———————————————






『葵ちゃん?』


脳の片隅で、ピシリと、大切なものにひびが入るような感覚が走った。


ふと実験する手を止めて、宙を見る。何もない。


「どうした、未希。」


私を抱きしめて、いつもの体勢で私の実験を見つめていた要君が問いかけてきた。


『虫の知らせ?だとしたら、ちょっと嫌かも‥‥‥‥‥』


そう言った瞬間に、院内に緊急時を知らせるアラームが鳴り響いた。


「重症とみられる少女が運ばれたそうです!今日担当の方はすぐさま救急の方へきて下さい!大至急です!」


「なんだ、救急の患者か?でもお前今日は休———————」


『行かなきゃ』


「あ、おい。」


『行かないと!』


焦る私に、要君が驚いたように声をかけてくる。


『“葵ちゃんの気配がする”!』


そう言った瞬間、要君がすぅっと深く呼吸してから、ぽん、と頭に手を置かれる。


「分かった。行こう。」


何も聞かずに、ただ私のやることを肯定してくれた。

それが、私にとってどれだけ有り難い事なのか彼は分かっているのだろうか。


『うん!』


頷いて、そのまま駆け出す。要君も、ちゃんと後を追いかけてきてくれる。


「おい、今の急患俺達が診るから準備しろ。」


そう、通りすがりの看護師さんに指示を飛ばしてくれる。


「は、はい!」


焦りながらも、ちゃんと冷静に対応してくれる看護師さん。

そして、手術の準備をして運ばれた少女を確認する。


『、っ』


案の定というべきか、“何か”で傷つけられて重症の葵ちゃんが、そこにはいた。





———————————





葵が来てから、本棚の整頓をしてくれているのか、本を探すのに手間取らなくなった。

初めの頃のように、たっかい本棚の上で本を読むこともなくなったし、たまには買い出しに一緒に出掛けて、ちょっとしたデート(葵はそう思ってないだろうけど。)もできるようになった。


でもそんな帰り道、話をしながら辺りを軽く見渡すと、ふらふらと、まるで飢えてでもいるかのような足取りで道を歩く少年が目に入った。


『あれ、葵、あの子大丈夫かな。』


そう声をかけると、葵も気になったのかその少年の元へと駆け寄る。


事が起きたのは一瞬だった。


“一瞬、触手のようなものが見えた気がして”、次の瞬間、葵の小さな身体が傾いてぱたりと倒れた。


『え。』


咄嗟に何も反応できなかった。

倒れた葵の周りに、じわりじわりと深紅の血溜まりができてゆく。彼女の命が零れてゆく。

その深紅が目に焼き付いて離れなくて。


「あれ‥‥‥‥‥‥?」


少年から発せられた声はとてもぼんやりとしていて。

けれど、その声で一瞬で現実に引き戻された僕は、慌ててスマホで救急車を呼びながら葵に駆け寄る。


『葵、葵!意識ある!?』


そう問いかけながら、よく分からない傷口に触れてしまわないように、身体を抱き起す。


(軽、い)


元々小さな身体だし、何度か本棚の本を取るために抱えたことがあるから、重さは知っている筈だった。

元々軽いその身体は、まるで命そのものが失われてゆくように軽くて。


『葵、葵!!』


泣きそうになりながら名前を呼ぶ。


「‥‥‥‥‥‥ぁざ‥‥‥ぉ‥‥‥す、‥‥」


意識を失う直前、彼女が呟いた言葉の意味が一瞬理解できなかった。

けれど、その直後に思い出した。

あの、道化のようにふるまうちょっと腹立たしい葵の契約者とやらを名乗る黒い青年の言葉。


「葵の中にある魔王、その副王であるヨグソトースの力が君の中に宿ってる。だから君がいることできっと葵は多少安定できるはずだよ。」


彼が言っていた、魔王の名前。

“アザトース”。


(まさか)


そう思って辺りを見渡すと、先の少年はどこかへと消えていなくなってしまっていた。

喧騒の中で、血溜まりを見た誰かの悲鳴が上がった。


先に読んでおいた救急車が来るまでの間、僕はずっと葵の小さな身体を抱きしめたまま、何とか拙いやり方で魔力と呼ばれる力を彼女に注ぎ込み続けた。

それが何に繋がるかなんてわからなかった。けれど、本能的にそうするべきだと思ったんだ。


(お願いだから、目を開けて。)


切に願いながら、僕は救急車が到着するのを待ち続けていた。





三者の視点から同じ時間軸の事を書くのはあまりないので、ちょっと不思議な感じがしつつ書いてました。

さて、何が起きたのか、どうなるのか。今回の章でようやっと敵と呼ぶべき存在が出てくる、かも。

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