979 原因があって結果
さて、春になって報告すべきことがまだある。
主に朗報ではあるが……。
ではプラティさん、よろしくお願いいたします。
「第三子、懐妊よ!!」
ということです。
非常にめでたい!
ジュニア、ノリトに続き、新たな命がプラティに宿った!
新たに生まれ、育まれていく命は世の理。
そういう意味では、この農場でも命の循環は正常に行われているということ!
俺個人も、新たな家族が増えることに大喜びだ!!
「たけきもの、ついには滅びるー」
「かなしいけどこれ、せんそうなのよねー」
ジュニアやノリトも兄として純粋な喜びを上げる。
とにかくも春から嬉しい話であった。
一年の始まりからこんなに幸先がいいなんて……。
しかし、んむ?
待てよ? 春になって幸先のいい話?
春になって懐妊が判明したということは……。
実際にそういう行為が行われたタイミングは、その二、三ヶ月前ということに……?
その頃に何があったかと言うと……!?
「あああああああああああああああッッ!?」
クリスマス!?
クリスマスの時に授かったお子ってこと!?
たしかに……授かるようなことをした覚えがある!
ジュニアらの枕元にプレゼントを置いて、この上ない達成感からいい気分になって、子どもも眠ったことだから今度は夫婦の時間を持とうと思って……!
あの、その……。
って言うことはこのプラティのお腹に宿っている第三子は……。
俗に言うクリスマスベイビーってこと!?
十二月に命が宿って十月に生まれるアレッてこと!?
なんということだ……誰よりもリア充を嫌悪する、孤高の戦士であるこの俺が、その実もっともリア充っぽいことをしていたってことか!?
「どうしたの旦那様?」
俺の様子がおかしいことに気づいたのか、プラティが不安げに俺の顔を覗き込む。
「もしかして、嬉しくなかった? そうよね、もう三人目だし今さら感慨も湧かないわよね……」
「ちゃうちゃうちゃうちゃうちゃうちゃうちゃうッッ!!」
違うけれども!
新たな命の誕生に嬉しくないわけもないだろう!!
なんとマズいことに、俺が孤高戦士としての悔恨に打ちのめされているのがプラティを不安にしてしまったようだ。
夫として父として情けない。
自分の拘りよりも、家族の祝いを喜ぶことの方が大事だろうが!!
「嬉しい! すっごく嬉しい! 農場がますます賑やかになるなあ! はっはっはっはっはっはぁーんッッ!!」
そう、嬉しいのは心のそこから嬉しい。
それを個人的な拘りでケチをつけるなど愚かの極み。
俺はこだわりを捨てる!
そして、純心まっさらな気持ちから子どもの誕生を祝おう!!
と思っていたら、来客があった。
人魚王アロワナさんだ。
ご用向きは一体何?
「ウチの妃が身籠りましてなあ!」
ブフゥーーーーーーーーーーーーッッ!?
それってもしや、やはりきっかけはクリスマス!?
「今は大事をとって、息子と共に人魚国に留まっておりますが、聖者様にはまず報告いたしたいとい思いてな! 何しろ次の子を授かったのは聖者様のお陰と言っても過言ではありませんので!」
それってどういうこと!?
しかし返答が予想できているだけに怖くて聞きたくない!
アロワナさんは声を潜めて、俺だけに聞こえるように言った。
「あのクリスマスは、夫婦仲を深めるのにもってこいのイベントでしたな。ムードは盛り上がって、実に自然な成り行きでしたぞ?」
何が!?
自然な成り行きって何が!?
「実を申さば、ヘンドラーとランプアイ夫婦のところにも天使が舞い降りましてな。あの真面目な夫婦もクリスマスの雰囲気には抗いがたかったようですな」
ヘンドラーくぅんたちまで!?
クリスマスの魔力高すぎませんか!?
「あそこの舅は、古風ながら跡取りの男子を求めておりましてな。今度こそは男子と一家総ぐるみで大賑わいです」
また古ぼけた考えだなあ。
別にヘンドラーくぅん夫妻には長女のハーフムーンちゃんがいるんだから、跡取りとかどうでもいいだろうが。
女の子の何が悪いんですか。
「そもそもヘンドラーは嫡男ではないゆえに、男子が何人生まれてもベタ家の存続には二義的なものなのですがな……。それもこれもヘンドラーの兄……現嫡男であるベタ・ワイルドが子どもはおろか結婚自体していないというのが、ヘンドラー夫妻に期待が集まる最大の問題で……」
「そ、そうなんすか……!?」
まあ、いつ結婚は各人の問題と判断なので……。
外野があれこれ口出しするのも……。
「そこで聖者様にご相談があるのですが……」
「な、何です?」
「来年のクリスマスですが、是非ともワイルドのヤツをご招待いただけませんでしょうか? 朴念仁のあやつもクリスマスのムードに当てられればきっと結婚、子作りに至ってくれると思うのです……!」
クリスマスを何だと思っているの!?
アロワナさん!!
クリスマスに万能性を見出し過ぎですよ!
いかにクリスマスといえども、元からいない彼氏彼女を生産するほどの機能は持ち合わせていないのです!!
だからこそ一人者は、クリスマスの聖夜に特攻ダメージを追うことになるんでしょうがッ!
わかってるんですかアロワナさん!!
サンタクロースは、彼氏や彼女を靴下に入れてくれたりはしないんですよ!!
「ふーむ、そうか。ではやはり相手そのものはこちらから人魚王権限で見合いを強制するしかないのでしょうな」
そうですね、そうしてください。
そうして晴れて彼女さんができた上で、クリスマスのフィールド効果が必要な際は来年お越しください。
だからクリスマスはそういうのじゃねえんだって!!
「では身重の妻が心配ですので、この辺で……。あ、そうだ最後にもう一つお伝えしなければ」
ん?
何です?
「ウチの母も何やら身籠ったそうで。祝いの便りを出すようにプラティに言っておいてください」
「はいッッ!?」
アロワナさんのお母さんって!?
前人魚王妃のシーラさんのこと!?
それってプラティのお母さんってことでもあるじゃないですか!?
その報せを聞いたプラティは……。
「ママとパパって! 孫が生まれてもまだ励んでるってこと!? バカなの!? 嫌よ我が子より年下の弟or妹なんて!!」
個人としては実に真っ当な意見を言っておられた。
ジュニアやノリトに、年下の叔父さんもしくは叔母さんが生まれるってことか。
これもクリスマス効果か……。
いや違う! クリスマスにそんな効果はない!!
それはクリスマスに暗黒面に堕ちた者たちの暗黒面のフォースは素晴らしいぞ!!
誰か、誰かこの流れを否定してくれ!
と思っていたら今度は魔王さんが訪問してきた。
「聖者殿のお陰で、新しい家族が増えますぞ!」
こっちもかーーい!!
「アスタレスとグラシャラが二人同時に! 嫡子ゴティアが立派に育っているとはいえ、王族は多いければそれだけ後継も確かになるゆえ家臣らも大喜びよ!!」
魔王さんは故あって奥さんを二人娶っているが、同時にご懐妊なんてありえるの!?
まさか……いや明言するまい。
「しかも四天王のマモルのところもついに初子が宿ったそうでな! さらにはオルバのところに嫁いだバティも!! 魔国はこれからも安泰だ! すべては聖者殿のクリスマスのお陰よ!! なんとお礼を言っていいものか!!」
だからクリスマスはそういう行事じゃないんですってば!?
どういうことだ! クリスマス効果が相まっているのか異世界まさかのベビーラッシュ!?
それもこれもクリスマスのお陰!?
クリスマスが少子化問題を解消し世界を救う!?
この異世界、別に少子化問題ないけれどな!!