966 正七面体
クリスマスツリーの確保はできたぞ!
基礎は。
オーナメントとか飾りつけは追々やっていくとして、まだ桜、梅、ヤシの連中は諦めきれずに騒ぎ立てていたけれど。
とりあえずこれでクリスマスツリー問題は方針が固まったと言って過言ではない。
次なるクリスマス準備へと邁進していこう。
クリスマスケーキ、クリスマスツリーの他に必須な、クリスマス風物詩といえばなんじゃらだろうか?
脳内検索をかけること四日……。
一つ思い当たった。
鳥……!!
そうだ鶏肉! クリスマスと言えばケーキの他にいかにもご馳走然とした鶏肉料理を食すのがパターンではないか!
定番と言えばンンフッフーのフライドティキンであったが、困ったことに異世界にンンフッフーはない。
ンンフッフーならあるいは? と思ったがさすがにンンフッフーといえども異世界に支店を出すことは不可能らしい。
ンンフッフーの力に限界があるなんて……。
まあ、それならそれでフライドティキンを自作自演すればいいわけだが。
しかしちょっと待て?
何か大事なことを忘れている気がする。
そもそもクリスマスの本場、欧米ではフライドティキンは食されているのだろうか?
いや違う。
あくまで伝え聞こえるイメージではあるが、もっと別なものであった気がする。
……そうだ、七面鳥。
英語で言うとターキー。
クリスマスの真の風物鳥といえば七面鳥で、ソイツを丸焼きにして供するのが真のクリスマスあるあるではないか!?
日本でフライドティキンが食されるのは、あくまで七面鳥の代替品。
異なる流通形態で、七面鳥を入手するのに多大な労力料金がかかること。
さらには七面鳥の丸々一羽を消費しきれるだけのキャパが日本人にはないからこそ、もっとも手ごろで入手も容易いンンフッフーのフライドティキンに代打が回ってきたのであろう。
そもそも真パリピたるアメリカンにとってはクリスマスパーティでもご近所巻き込んで大規模で行われるようだから、ニワトリを遥かに超える巨鳥を丸々一羽でも余裕で消費しきれるんだろう。
日本では精々家族だけでパーティするぐらいの規模、やはりパーティバーレルが消費の限界である。
油料理だけあって残りは翌日……というわけにもいかんし。
しかし、我が農場にスポットを移せば、消費問題はあってなきがごとし。
そもそも参加予定人数が農場全体の人数だから、その規模はホームパーティですら軽く超えるものとなろう。
それにヤツらよく食うし。
見るからに食いまくりそうな巨漢のオークは無論、女性陣も野生を感じるくらいにガツガツ食う。
それを思えば七面鳥だって数羽は用意しないと不安になってしまうぐらいだ。
そこまで考えて『よし、決まりだ』と思った。
我が農場クリスマスパーティにも七面鳥の丸焼きを用意しよう!!
ますます本場のクリスマスみたいだぜ!!
では早速七面鳥を入手しようぞ!
……で。
その七面鳥はどこにおるん?
アメリカ?
またいつもの問題にブチ当たってしまった。
ここは異世界。
かつて俺の住んでいた世界の常識のすべてが通じるかどうかはまだ不明。
七面鳥という生き物だって、こっちの世界にいるかどうかから考えなくてはいけない。
いなかったら何か別の食材で代用しないとな。
そうやって試行錯誤を繰り返したのが果たして何度あったか。
今回はできるだけ簡単に済むようにお願いしたい。
だってクリスマスの準備は他にもまだたくさんあるし。
そこで俺は、まずヒトを頼ることにした。
「あー、オークくんたちちょっといい?」
農場に住むオークたちに聞き取りをする。
彼らに聞きたいのは、ダンジョン内にて活動しているモンスターについてだ。
概ね農場で消費される食材は、農場内で生産される農作物の他はほぼダンジョンで獲得されるモンスターの骨肉であるから。
農場メンバーの中でオークゴブリンなどが常態的にご近所ダンジョンに出入りしていて、入り浸っていればその分ダンジョンに詳しくもなる。
今となっては俺より詳しいんではなかろうか?
そんな彼らに、七面鳥によく似たモンスターはいないかと確認しに来た次第。
「……七面鳥、ですか?」
「そうそう、割と大きめの鳥なんだけど心当たりない?」
そういうのがダンジョンにうろついていたりしない?
これでオークたちに心当たりがなければ、次はダンジョンの主そのものであるヴィールか先生に伺いを立てるんだが……。
「……いますよ」
マジで!?
やったあ!
どうやら事態は、トントン拍子に進む模様。
「では早速これから狩りに行って来ましょう。我が君はいかがいたします?」
「もちろん行くともさ!!」
自分の言い出したことなんだから、キッチリつき合わないとな!
ではオークたちと言ってみましょう、ダンジョンへ!!
ワイルドなターキー(七面鳥)をゲットしに行こう!!
* * *
そしてやってきたダンジョンで出遭った。
異世界の七面鳥的な鳥形モンスターは……!?
「頭が七つあるぅうううーーーーーーーーーーーッッ!?」
七つの頭を持った鳥形モンスターだった。
六つでもなく八つでもなく七つの頭。
さながらヒュドラかっていう感じの多頭生物。いや基本生物は頭部が一つだけなもんだが……。
二つ以上なんていかにもファンタジーだよな……。
ではなく。
「まさかあれが!? あれが異世界の七面鳥モンスターってこと!?」
「はい、まさしく面が七つありますでしょう」
だから七面鳥だって?
そんなダジャレみたいなオチがあってたまるか!?
「いやあ、聞かれた時は『タイムリー』と思いました! アイツの頭は八つでも六つでもなく七つですからな!『こんな偶然が一致することある!?』ってなりました!」
だから意気揚々とここまで連れてきたってことか!?
ショウガが出てきた時のオヤジみたいな発想になりやがって、すぐさま『ショウガない』って言いたくなるんだろう!?
「では早速、あの七面鳥を仕留めますので少々お待ちくださいね」
七面鳥っていうより七頭鳥だけれどなッ!
そうして戦うこととなった七頭の鳥だが、これが案外強かった。
何しろ頭が七つもあるので、その全部が繰り出してくるクチバシによるつつきはまさに猛攻。
百裂拳並みの速さがある。
フツーに手数が多いから。
想定以上にワイルドなターキー(?)だ。
あんなの一般的な冒険者ならすぐさま押し切られてしまうんだろうなあと思ったが、そこは我が農場の優秀なオークたち。
盾で重厚なガードをしながら、隙を見て棍棒を振り上げ頭を叩き潰す、一つずつ確実に。
それはもう経験豊かな狩人そのものな動きで、本当なら死神のごとき相手であろう七面鳥(?)もすぐさま沈黙し、猟果となってしまうのだった。
「しかしこれが本当に美味しい丸焼きになるんだろうか?」
元々それが目的で七面鳥を探しに来たんだが、すっかりネタにされてしまった感がある。
この鳥モンスターも頭が七つあるというだけで、それだけが七面鳥との共通点……、いやそれ自体も共通点どころの話でもないんだが。
むしろコレと現世の七面鳥との共通点は鳥であることぐらいしかない。
仕方ないから、一応これで丸焼きでも拵えてみるか。
首と脚を落とし、内臓も取り出してから代わりに玉ねぎやジャガイモ、あとハーブの類などもぶち込んで腹を閉じる。
そしてオーブンにぶち込んで焼く……。
……ふむ。
これで出来上がった異世界七面鳥(?)の丸焼き。
またの名を異世界ローストターキー(?)。
なかばヤケクソ気味に作ってみたが、アレが本当にちゃんとした料理になるのだろうか?
もはや破れかぶれで口の中に運んでみる。
……。
うん、美味しい。
意外と普通に美味だった。
じゃあクリスマスのメインディッシュはこれで決まりだな。






