967 クリスマスを司る神
こうして俺が、クリスマスの準備に一心不乱となっている時候。
来客が来た。
こんなに俺が一生懸命になっているというのに、水を差しに来たのは誰だ!?
『私だが?』
まーた来たよ神様が!!
人間が必死に働いているところに、いらん横槍を入れる存在こそ神様以外にない!!
おのれ神が! 人の運命を弄びやがって!!
して、神様といっても今日日神様はいっぱいいるので、一言で言ってもどこの神様かはハッキリ言うまでわからない。
では発表しましょう。
本日お越しになった神様は……。
古代に封印されてた旧主神のクロノスさんです!!
「先生も気軽に召喚しないでくださいよ」
『神界から召喚願いが届くとどうにも断れませんでのう』
基本神様たちはノーライフキングの先生に召喚してもらわない限り下界に来ることはできない。
遥か昔、人間世界へ必要以上に干渉しないようにと決められて、神はみずからの意思で下界へ来られなくなったからなんだとか。
それ以来、神々の伝令役であるヘルメス神を除いて自力で下界へ来れる神はいなくなった。
しかしそのルールが、前世代の神であるクロノス神にまで適用されるとは。
『まあティターン神族である私がオリュンポスの連中に合わせる義理はないんだがな。世界が安定するためにもルールは守った方がいいと思って……』
なんと気配りの行き届いた神であろうか……!?
ゼウス神に代替わりなんてしなかった方が世界平和だったんじゃね?
「しかしいきなり押しかけて来たのはいただけませんがな」
話を戻す。
このクリスマスの準備で忙しないところにアポなしで押し掛けて来てなんですか?
いくら封印から解放されたからと言って、フッ軽すぎやしませんか、この神?
『何を言う、そなたが私を呼んだのではないか』
「は?」
『だから求めに応じて降臨してやったというのに、大層な対応よな。ぞんざいに扱われて神は悲しいぞ?』
いやいや、ちょっと待って?
なんで俺が神を呼んだことに?
俺はそんなことをした覚えミリもありませんが、何かの手違いでは?
ちゃんと住所確認しました?
『いやいや間違いないって。私を讃える祭りをしてくれるんだろう?』
何を押しつけがましいことを!?
アナタを讃える祭りなんてする予定はありませんが!?
来るなり何を仰ってるんですか?
俺は今クリスマスの準備に真っ盛りでアナタを讃えることなんか一ミリも考えて……。
……。
待て?
クリスマス?
俺は知っていた。かつてのクリスマスの原初的な意味を。
クリスマスは例のあの信仰に組み込まれる以前、もっと素朴で、生活に密着したお祭りだった。
農耕のサイクルに寄り添い、今年の収穫に感謝し、来年の豊作を願うために、それを司る神を讃え祀る儀式。
そのお祭りは、信仰対象となる神の名をとってこう呼ばれたという。
サトゥルヌス祭。
『サトゥルヌスは私の別名でもあるからな』
「神様ぁああああああッ!?」
俺、ようやく得心がいった。
クロノス=サトゥルヌス。
そしてクリスマスの旧名がサトゥルヌス祭。
クリスマスは、クロノス神を讃えるお祭りだった!?
人間がまったく意図していないところに神様が反応して寄ってきてくださったということか?
コックリさんじゃないんだから!
「あ、あの不勉強ですみませぬ……! クリスマスの起源も深く考えず、ただ騒ぎたい一心でアナタのお祭りを強行いたしまして……!」
典型的な日本人気質。
意味も知らずに騒ぐことも、すぐ謝ることも。
『む、そういうことなら致し方ない。こちらもちゃんとした確認もせずに押しかけてしまいすまなかった』
そして理解ある旧主神。
本当になんでこんな御方にゼウス神なんかが取って代わっちゃったのか。
『そっかー、今の人々も私のことを信仰してくれるんだなって思ってけっこう嬉しかったんだけれど、そうかなんだ、違うのかー。なんだか浮かれていた自分が恥ずかしいなー』
ああッ、そんな悲しそうな顔しないで!!
そうクリスマスが古代の農耕神を讃えるお祭りだとするならば、世界中でクリスマスやられている今のご時世、アナタ世界中から信仰されてるってことになりますよ!!
凄いじゃないですか!!
ある意味、今現在をもってギリシャ神話でもっとも信仰されているのがアナタと言ってもいいぐらい!!
『でも、そこまで深く知っててクリスマスしてる人なんてそうそういないんでしょう?』
「そ、それでも皆無ではないですから!」
きっと世界全体の三割……いや二割? きっと一割は割らない程度はいると思えますから!!
……はッ!?
ちょっと待て俺、今物凄いことに気づいたかもしれない!
サンタクロースっているじゃん? クリスマスの主役みたいな白ヒゲジジィよ。
白ヒゲっていうとエド○ード・ニュー○ートさんみたいだが、よく考えてみると他にも共通点多いな。
子ども好きなところとか面倒見がいいところとか。
白ヒゲはサンタクロースだった?
いや違う。
話すべきところはそこじゃない。
今の問題はクロノス神で、クロノス神=サトゥルヌス。
サトゥルヌス。
サンタクロース。
なんか語感が似てない?
サトゥルヌス→サントロヌス→サンタクロース?
サンタクロースはクロノス神だった!?
『いや、それはまた別の由来があるらしいぞ』
「違うの!?」
しかもそれを当のクロノス神から指摘された!?
物凄いハシゴを外された感じ!!
『……まあ、私の勘違いであるってことが判明したんなら大人しく帰りますかね。盛り上がりの邪魔をしたら悪いし』
ああッ!
ちょっと待ってください!
せっかく楽しみに来ていただいたのに、失意のまま帰らせるなんて心苦しくてできない!
それがハデス神なりポセイドス神なら『さっさと帰れ』と塩をまくところだが、そうもできないのがクロノス神の不思議なところ!
「宗教上の問題もあって本格的なお祭りはできませんけれど、当日は是非クロノスさんもいらして楽しまれてください! 何かリクエストがあれば用意しますし!」
さすがに『サバトを開け』とか『いけにえを捧げよ』とか言うのは困るが……。
クロノス神、少し考える素振りをして……。
『……そうだな、クリスマスは、我がサトゥルヌス祭と関係がある一方で、冬至を祝う祭りとも密接なかかわりがある』
「とうじ?」
湯治……、いや違う。
『地軸の傾きによって、昼がもっとも短くなる日のことだな。それ以降は春から夏に向けて段々と昼間が長くなる。つまり冬の厳しさが底をつき、暖か豊かへと上向いていく。春へ向けた一番最初のスタートの日が冬至でもある。それは農耕神である私にとっても関係が深い』
そうですよね。
俺たち農業者にとって春の訪れは何より大事ですよね。
その先駆けとなる冬至は、まさに祝うべき事柄。
『その冬至にちなんで、私は……』
はいはい?
『……かぼちゃの煮物が食べたい』
それ日本の行事じゃねーか。
冬至にかぼちゃを食うのは日本の風習だよ!!
世界観が取りとめもない!!
しかしせっかくクロノス神がリクエストしてくれるのを無下にもできず、クリスマス当日にはパーティの食卓にかぼちゃも並ぶことになった。
またクリスマスらしいご馳走のレパートリーが増えたな?
せっかくだから当日はゆず湯も入れるか。







