949 青田買い
はい、俺です。
一時はどうなるだろうと思ったオークボ城本戦。
しかし何とか大盛り上がりで終幕した。
この日のために急遽呼んだリテセウスくんが第一関門でのまさかの脱落となった時はヤベェとなったものだが。
その穴を埋めるかのごとく一般枠から突出した出場者のなんと果敢な活躍か。
あの若者の名は何と言うんだっけ?
ネヨーテくんか。
とにかくそのネヨーテくんが明らかに人並みの体力しか持ってないにもかかわらず頑張るから、皆がその姿に勝手に感動して声援を送る。
おかげさまで会場は一体感に包まれるのだった。
ネヨーテくんがゴール直前でスパートしてくる姿には、脳内でサライが流されるほどだった。
多分感動は皆同じ。
よってネヨーテくんゴールの際には大盛り上がり。
企画の成功も、この時確定したようなものであった。
しかし話はそれで終わらない。
なんとリテセウスくんが現れて、ゴールしたばかりのネヨーテくんの肩に手を回しておるではないか馴れ馴れしく。
何してんの?
……え? 勧誘!?
「今、人間共和国の首脳部は深刻な人材不足ですからね。……いや、人がいることにはいるんです。しかし現状雁首揃えている人たちは頭の固いジジババといいますか……旧人間国時代からの仕えていた人たちで、何度言ってもその頃の考え方が抜けきらないんですよね……!」
前にもそんなことを聞いたような気がする。
このめんどくささを聞いて『俺、為政者側に回らなくて本当によかったなあ』と思ったのを覚えている。
「新しい人間国を確立するためには人材の刷新は必要不可欠! というわけで今は若くて才能に溢れる人材を国中から探しているところだったのです。そして今日、若さ才能思いやり、すべてにヒットした最高の人材を見つけました。それがネヨーテくん、キミだ!!」
「えええええええええええええええええッッ!?」
衝撃を受けて絶叫するネヨーテくん。
それはそうだろう、要するにこれはヘッドハンティングだ。
しかもこの国の最重要人物から。紛うことなき急展開に戸惑わない人間はいないだろう。
「まままま、待ってください! 僕はしがない村人で、国王の助けなんかとても……!」
「もちろん今すぐに充分な働きは期待していない。これからたくさんのことを勉強し、国を支えていける人材に育っていってくれたらいい。……あと言っておくけれど僕は王様ではなく大統領だ。そこを間違えないでよろしく」
「はいぃ!?」
そこに拘るリテセウスくんの瞳に何か殺伐とした輝きが灯っていた。
何か嫌なことでもあったのかな?
「とにかくネヨーテくんには早速次代の官僚となるためのエリート教育を受けてもらいたい。その上で人間共和国の首脳部に入って、いずれは国を背負って立つ人材になってもらいたい。すえは博士か大臣か、楽しみだねえ」
「ちょっと待ってください! それって僕今住んでる村から離れなきゃいけないんでしょうか? 僕が今抜けたら村の備蓄管理が……!?」
そんな重要なことこんな若い子にさせてるの?
ここから既に苦労人の気配が……!?
「管理官を派遣して指導させよう。さらには補助金も出そう。それで村の人々は満足してくれる。今は中央に優秀な人材を集めることが急務なんだ!!」
なんだかリテセウスくん、農場で学んでいた頃には想像もつかないゴリ押しな性格になってしまっているなあ。
これも人間大統領に就任してしまったから?
立場が人を変えるってことなのか?
「さらに重大なことだがネヨーテくん。新たに発足した人間共和国の首長は大統領だ。大統領は国王とは大きく違う。何が違うかわかるか?」
「わかりません……!?」
「大統領は選挙によって選出される、つまりキミにも大統領となれる可能性があるってことだ!!」
「ええええええええええええええッッ!?」
「官僚として勉強を重ねた結果、キミ自身が未来の国家元首になれるかもしれないってことだ! これが民主主義ってことだ!」
これから十年後、ネヨーテくんは第二代人間大統領となる……。
雰囲気に圧されてウソナレ入れてみた。
しかしリテセウスくんの剣幕からして、本当にそうなりそうな迫力がにじみ出ている。
人間国を旧来の腐敗した王政へと戻さない、新しいシステムを定着させるという意気込みが窺えた。
「何か有用な人材を見つけられないものかとオークボ城に参加したのは正解だった。まさかここまで有望株が見つかるなんて。わざと脱落までした甲斐があったな」
え?
そのセリフに引っかかる俺。
まさか……リテセウスくん自身が第一関門を凡ミスで脱落したのは……計算のうちだったってこと!?
このオークボ城本戦、リテセウスくんが主役となって大活躍し、話題を総ざらいしてしまったら他の参加者がかすんでしまう。
そこでわざと早々に脱落することで、人材を見出す機会を設けたってこと!?
……という設定で、マジしくじりをなかったことにしようとかしてない!?
「事実、僕が失格になったことでプロ出場者との確執が不利になり、どうにかしようと奮い立ったことでネヨーテくんが僕の目に留まったんですからね。思惑通りですよ、ホントですよ」
結果よければ……ってことじゃないの!?
「ネヨーテくんにとって直接関係あることでもないのに、全体的な流れを察して必死に巻き返そうとしてくれる。その姿に苦労人の資質を感じた! 是非とも、その苦労人力を人間国のために役立ててほしい!……あ、そうだ」
なんか思い出したように言うリテセウスくん。
「今回オークボ城の問題になったプロ出場者たちですけれど。全員人間共和国の兵士として召し抱えるというのはどうでしょう?」
「「「「なにぃいいいいッッ!?」」」」
それを聞いて飛びあがったのは当のプロ出場者たち。
観客席の方で唖然と事態を見守っていたが、急遽名前を呼ばれたことで彼ら自身が緊急事態。
「この険しいオークボ城を安定してクリアできるということで身体能力は高いのでしょう。そこを見込んで人間共和国が編成を進めている政府直営軍隊に加入してもらおう。これ決定事項」
「ななな、なにを勝手にそんなことを!?」
「今まで人族軍は、各領主が率いてくる領兵と金で雇われた傭兵。あと異世界から召喚される勇者ぐらいで構成されていたから。各領に負担を懸けないためにも政府の判断で迅速に動かせる戦力が……必要最低限あった方がいいなと思っていた。それをキミらに任せたい!」
「嫌だよ! オレたちには毎年オークボ城に出場するという仕事があるんだ!」
だからそれ仕事じゃないって。
それに比べれば、天下の人間共和国政府に雇われて兵士をやる方が、社会的にも生活的にも安定していいんでは?
「大丈夫キミたちに拒否権はないから。大統領権限でもって強制的に参加してもらう。これに逆らった場合キミたちは反逆者として追われることになる」
「ヒィッ!?」
「よい国を作り上げるための権力行使とはこうやってするものだよ」
大丈夫ですかリテセウスくん?
キミのやってること民主主義とは対極的なところにない?
「これで彼らは真っ当な職に就き、オークボ城は問題のある出場者に悩まされずに済む。皆が幸せになれるいい手段じゃないですか。そして僕は引き続きオークボ城でフレッシュな人材を探すことができる。まずはネヨーテくん! 共に理想的な人間共和国を築き上げようじゃないか!」
「ちょっと待ったー!!」
そこへ割って入る新たな勢力。
それは銀色の体毛を靡かせるオオカミの頭。
「あ、シルバーウルフさんお久しぶりです」
「人間大統領となったリテセウスくんに、冒険者ギルドマスターとして物申す! ネヨーテくんはかねてから冒険者としてスカウトしようと考えていた! 急な横入はやめてもらおう!」
ええー?
シルバーウルフさんまでネヨーテくんに一目置いていたの?
いつの間に!?
「ちょっと待ったーッ!!」
さらなるちょっと待ったコールが!?
次に現れたのは魔王軍四天王のマモルさん!?
「ならば我ら魔王軍もネヨーテくん獲得に名乗りを上げよう! 戦争が終わり人魔の融和も進んだ今、魔王軍に人族をスカウトしたって何の問題もないはず! 魔国宰相ルキフ・フォカレ様からもくれぐれもよろしくと言付かったのだ!」
一体何事!?
ネヨーテくん、色んな勢力から引っ張りだこじゃない!
一体何の因果でこんな紛糾ドラフト会議みたいになっておる!?
「それは……、奇しき苦労人の因果があるからじゃ」
さらになんか現れた!?
アナタはゾス・サイラ!? 人魚族の重鎮までもが現れて、本当にもう何事!?
「あのネヨーテくんと出会ったのは二年前。ここオークボ城でであった。あの時はクローニンズが集結しておってのう。世界最高の苦労人ルキフ・フォカレ殿も居合わせておったから、そりゃ盛り上がったものじゃ」
ああ……。
各国の苦労人たちが集った悲しいチーム、クローニンズか。
そういえばシルバーウルフさん、マモルさん、ゾス・サイラ……全員クローニンズのメンバーではないか。
「あの時運命のいたずらか、それとも苦労人同士は惹かれ合うのか。我らがチームに合流したのがネヨーテくんじゃった……! わらわらは一目でわかった、彼も若くして苦労人の星の下に生まれてきたと。宿命背負いし者であるとな!!」
苦労人の宿命……。
やな宿命だけどいかにもありそうだな。
「同じ苦労人として彼を少しでも苦労から解放しようと。それぞれの陣営にスカウトしようというわけじゃ。わらわもその点抜かりはないぞい! 人魚国初の他種族スカウトを既に国王から許可されてるんじゃならなぁ! さあネヨーテくんよ! わらわと一緒に海底へ行こうぞ!」
ゾス・サイラまで参戦!?
まさかのネヨーテくん、全勢力からのドラフト一位指名!?
「ちょ、ちょっと待ってください!? 僕には村での仕事がっていうか……うわああああああああああああッッ!?」
こうやって奪い合いされている時点で彼は苦労の真っただ中ではないのかと思うが……。
とにかく今年もオークボ城も無事に終了し、ついでにプロ出場者という兼ねてからの問題も解決することができた。
これでよかった……んだよな?
主にネヨーテくん以外に。






