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950 最強の神

 皆さんボンジュール、天界の一神ヘルメスです。


 ここ最近天界はいたって平和。

 何故かというといついかなる時もすべての元凶となりうる天界王ゼウスが幽閉されたので。


 あのクソ親父がいないと天界発の災いの実に八十パーセントが消えるんですよ。

 よってゼウス=禍根という説まである。

 いや説というか実際その通りなんだけども。


 そして残り二十パーセントの災いが天王妃というべきヘラ様から発している。

 あとアテナ。


 天母神ヘラ様も、夫たるゼウスが幽閉となった際には大いにゴネて戦争まで引き起こそうとしたが、ほとんど誰も賛同しなかったために結局勃発するよりも先に立ち消えになった。


 こういう時こそ人徳……いや神徳? がモノを言う。


 今現在、天空のクソ親父ことゼウスを解放しようなどという動きも一切なく、志破れたヘラ様も天界の隅で大人しくしている。


 さらにもう一人の天界トラブルメーカーである女神アテナことアテ姉も最近この世界から去ってしまわれた。

 ――『私を敬わない世界にいたってしょうがないわ』とか言って。


 トラブルの元が世界から去ってくれるのはいいことだが、その分余所の世界で迷惑を振り撒いていないかが心配だ。

 自分の目に届く範囲なら、何かよからぬ動きを見せたら事前に止められるんだがなあ。

 目の前に居られると当然不快だが、見えないところで何かやらかしていないかと思うとそれはそれで心配。

 ……私にも苦労性の気質があるのかな?


 最近そういう人たちが流行っているようだけど。


 とにかくやっと平穏が訪れたこの天界で、しかし小さな騒動までもが完全に消え去ることはそうそうないわけで。


 私は今回、造形神ヘパイストス兄さんの下へと尋ねている。


 なんか兄さんの様子がおかしいから探ってきてほしいと、同じく腹違いの兄弟であるアポロン兄さんとベラスアレス兄さんから頼まれたのであった。


 現在天界は、ゼウスのもっとも華麗な息子と言われるアポロン兄さんを天神王代理として、その補佐をベラスアレス兄さんが補佐する形で統治されている。

 アポロン兄さんはたしかに輝かしくカリスマ性はあるけど、芸術神も兼ねているせいかどこか抜けたところがあり、そこを軍神であるベラスアレス兄さんが補っているのだ。


 正直ベラスアレス兄さんが全部回しちゃえば? と思うこともあるけれど、兄さん自身が表舞台に立つ資質ではないと思っているようで輝かしいところは全部アポロン兄さんに譲っている。

 あの人、数少ないゼウスと正妻ヘラ様との間に生まれて、人類流に言えば嫡出子なのになあ。


 ゼウスの息子娘なんてほとんどが浮気相手との間に生まれた非嫡出子よ。

 ほんまクズやでアイツは。


 そして数少ない嫡出子のもう一人が、これから訪ねんとするヘパイストス兄さん。

 とはいえヘパイストス兄さんに関しては、その御母上であるヘラ様がゼウスとの間に設けたとも、一方でゼウスの浮気性に怒り心頭になったヘラ様が雄の精を受けることなく単独で生み出したとも言われる。


 そのせいもあって幽閉前のゼウスは、数十人はいるであろう自分の子どもの中でもとりわけヘパイストス兄さんを疎んじていて『托卵された子どもなんて絶対嫌なんだけど』と日々公言していた。

 そのたび『お前こそ托卵の常習犯だろ』と周囲から総ツッコミを食らっていたものだが。


 ……おっと話が逸れまくっているな。

 そんなヘパイストス兄さんの下を訪ねて様子を伺ってくることが今日の目的。


『様子がおかしい』とは言っていたが、具体的にどんな風におかしいものだろう?

 あの人をかき乱す毒親……ゼウスもヘラ様も、今はすっかり鳴りを潜めて平穏そのものだと思ったんだがな?


 そう思いつつ兄さんの神殿を訪ねる私ヘルメスであった。


『兄さんいるー? おにぎり持ってきたよコンビニで売ってるスパムおにぎり?』


 兄さんの好物を手土産に何とか侵入成功。


 しかし兄さんの神殿はいつもながら雑然としている。


 鍛冶の神であり、神界一の名工でもあるヘパイストス兄さんは当然ながら鍛冶工房を構えていて、それが自宅も兼ねているからな。

 居住性最優先の他の神々の神殿とはだいぶ趣が違う。


 そんなヘパイストス兄さんの神殿だが……。


 うおッ?

 入った途端その様子のおかしさに気づいた。


 めっちゃ雑然としているじゃないか?


 ヘパイストス兄さんは仕事人間……もとい仕事神なので職場は几帳面に整頓しておく質なのに。

『様子がおかしい』というベラスアレス兄さんたちの証言に真実味が帯びる。


『おおー? よ、よく来たんだな』


 よかったヘパイストス兄さんだ。

 いる。

 これで留守だったらどうしようかと思っていたところだ。


『お久しぶりです兄さん。これコンビニで買ったチャーハンおにぎりですけど……』

『きょ、今日はいいんだな……』


 ……。

 は!?


 ヘパイストス兄さんが、大好物のおにぎりを『いらない』って!?

 これは本格的に様子がおかしい。


 他の兄さんたちの危惧は本物だった。


 これは何としても、こんなにおかしくなった原因を究明しなければ!!


『に、兄さん? ところで今日は随分と散らかっていますね? いつもはよく掃除されているのに?』


 何故私がこんなに焦っているかというと、何より我らが神界におけるヘパイストス兄さんの重要性に他ならない。


 大袈裟でも何でもなく、我らが神界でもっとも重要な神はヘパイストス兄さんだ。

 それはここ天界に限らずハデス叔父さんが治める冥界、ポセイドス叔父さんが治める大海もすべてひっくるめての話。


 何故ってヘパイストス兄さんは神界一の名工であり、彼が作り出す神器聖具は美しいばかりでなく、使いようによっては世界をひっくり返すほどの性能をもたらすものばかり。


 異世界渡りの聖者に与えられたギフトはヘパイストス兄さんの作だが、そのギフトが猛威を振るった挙句に地上の騒乱を治め、神々の争いまで鎮圧してしまった。

 それがいいで例であろう。

 異世界から召喚される勇者にスキルを与えるのはアテ姉の務めであったが、たった一回ヘパイストス兄さんが代打でギフトを授けて、それでここまでの大変化が起こった。


 さらに言うと神々は最高級の調度品、あるいは装身具などが欲しくなったらヘパイストス兄さんに注文するのがもっとも安全確実だ。

 支払った報酬に確実に見合うだけの最優良品をヘパイストス兄さんは必ず拵えてくれる。

 むしろ『お値段以上』と評判だ。


 ヘパイストス兄さんへの注文は他世界からも送られてくるほどで、この世界の重要な外貨獲得手段。


 そして、そんなヘパイストス兄さんが気鬱でも患うものなら、すぐさま世界を滅ぼしてしまえるような超兵器をダースで開発できてしまう。

 あの聖者も件もさることながら、かつて一度地上を破滅に追い込んだ天使たちも『ゼウスが生み出した』などと言われているが実際にはヘパイストス兄さんの作だ。


 さらに言うと、前に一度ヘパイストス兄さんが何気ない口調で『ビッグバン再現装置を作るんだな』とか言い出したこともある。

 もちろん皆で必死に止めた。


 ゼウス神よりハデス神よりポセイドス神よりも、この造形神ヘパイストスこそがもっとも恐ろしい神なのだ。

 ヘパイストス神そのものが何もできないとしても、ヘパイストス神が作り出したものは何でもできる。

 世界を創り出すことも、壊すことも。


 というわけでヘパイストス兄さんのテンションには最大限の注意を払わないといけない。

 兄さんは芸術家肌なので、大きなテンションの昇降から作品が生み出されるのが多いから。


 で。


『こんな生活環境になる原因でもあるのかな? 悩みがあるなら聞くよ?』


 細心の注意を払いつつ聞く。

 ここからの私の一言一言に世界の命運がかかっているつもりで。


『……衝撃を受けたんだな』

『何?』

『最近思っていたんだな。自分の仕事に妥協しているんじゃないかと、もっと凄いものを作れるはずなのに手を抜いているのではないかと、そんな想いが心のどこかにあったんだな……!』


 うわー、ヘパイストス兄さんなのにけっこう流暢に喋るー。


 そんな自罰的なことを仰りますが、むしろ手抜きしてくれた方が助かるんですが。

 だってヘパイストス兄さんが全身全霊込めた作品なんて、高確率で世界に大きな影響を及ぼすんだもん。

 だからお願い、適度に手を抜いて。


『に、兄さんにそんな衝撃を与えるなんて凄い出来事があったんですねー。不思議だなー、なんかあったっけー?』


 ヘパイストス兄さんをここまで揺さぶる出来事だ。

 そりゃもう大事で、だったら私たち他の神々の耳目にだって届いていないとおかしい。


 しかしそんな大事が何かしら起こったなんて話を、私は何も聞かない。


 この『神の伝令役』とまで言われる知恵の神ヘルメスがだぞ!

 情報については私こそが一番に掴むべきものなのに!


 ……なんだか私もヒートアップしてきた


『で、何なのですかその出来事とは?』


 この頃には私ももう純粋な興味百パーセントだった。


 ヘパイストス兄さんは神妙な顔つきで答える。


『……巨大ロボ、なんだな』

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― 新着の感想 ―
[一言] さぁ破壊神ユニクロンを生み出すのだ!
[一言] 天元突破する全長3万パーセク位のロボット作りそう。
[一言] やっべ、農場案件じゃないですかヤダー
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