727 戦いの祭典
そして日々は過ぎ……。
当日となった。
『ゴッド・フィギュア』によるバトル大会『ゴッド・ファイト・オリュンピア』の。
会場には、既に人でごった返している。
我こそは最強の『ゴッド・フィギュア』の使い手であると自負する者。
そんな彼らの戦いを一目見ようとする観客。
それら合わせて、もう数万人はごった返しているんじゃあるまいか?
「また、一つの一大興業と化しておるなあ」
そんな会場に、俺もいます。
参加者の一人として。
先日告げられた非常なる事実。
『魔力のない俺にはフィギュアを動かせないよ』。
その現実を跳ねのけ、俺たちが挑戦を続行するたった一つの冴えた方法は……!
「今日は一緒にがんばろうねベレナ!」
「なんで私がぁああああ~ッ!?」
そう、操縦者としてベレナに参加してもらうということだった!
魔力がないためにフィギュア操作不可能ということなら、魔力が使える人に代行してもらえばいい!
自分一人ではできないことも、仲間と協力すれば必ず成し遂げられる!
そうやって人は今日まで生き抜いてきた!!
我ながら、何とも素敵なアイデアだね!
ジュニアやノリトにも見せてあげたい!
「だからって、なんで私なんですかああああッ!? 魔力を使えるならバティとか、それに先生だっているじゃないですかあああッ!?」
何が嫌なのか出場辞退しようとするベレナ。
しかしノーライフキングの先生を、こんな趣味のイベントへご足労いただくわけにもいかんし、キミの相棒のバティは服飾の作業で忙しい。
消去法的にもベレナ、キミに出てもらうのが一番なのだよ。
「それに知っているよ? 魔法石でフィギュアを操作する方を開発したのはキミなんだって?」
「どっきんこ!」
露骨に反応してみせるベレナ。
「ななななな、何故それを……?」
「聖者たる俺を舐めてはいかんね。まあパイオニアたるキミなんだから当然参加するべきなんじゃないのかな? 一緒に、この文化の発展向上を目指そうじゃないか!」
大丈夫、俺もメカニック兼サポートとして参加するから。
すべてをキミに丸投げしないよ。
キミと俺の力で、絶対優勝しようぜ!
そして、この『スサノオ零式』も!
「いや無理ですよ……! 見てくださいよこの参加人数……! こんな数を相手に最後まで勝ち残るなんて無茶ですよぉ……!」
「言われればたしかに」
主催者側の発表があったが、今日の『ゴッド・フィギュア』バトル大会、参加者は四千名を越えたとのこと。
そんなにフィギュア愛好者が!? と驚愕であった。大流行りしとるやんけ、この文化。
やはりカッコいいロボットへ向けられる憧憬は、異世界だろうと変わらないものなのか。
神はロボットじゃないけれども。
「発売開始からまだそんなに経っていないというのに、何と言う広がりでしょう? やはり神への信仰は尊いものなのですね……!」
信仰由来かなあ、この盛り上がり。
とにかくブーム最高潮のこのお祭り、なんかあっちこっちでそれっぽい声も上がっている。
「み、見ろ! 魔都南西地区でチャンプになったエルゴ・ゴルゴンゾーラがいるぞ!」
「ヤツの『ローリング・ハデス』には誰も太刀打ちできないってウワサだからな……! 当然だけど出てきたか……!?」
「向こうには東地区を代表する『ファイヤー・ハデス』の使い手、ジョリジョリーンだ!」
「北北西地区で覇権を競い合う『エンペラー・ハデス』のシショ・ゴウと『スーパーキング・ハデス』のサキシマまで!?」
「まさにオールスターじゃねえか……!? 荒れるぜ、この大会……!?」
何もうそんな強豪が出てくるようになっているの。
でもまあ、前評判で名が挙がってくる人たちって大体序盤で粉砕されるんだよね。
知ってるよ、俺。
「さあベレナよ! 評判などに惑わされず俺たちは実力を出し切って優勝を目指そう!」
「ダメですうううッ! 即刻粉砕されて世界の厚さを思い知らされますぅうううううッッ!?」
久々にベレナが弱気モードに入ってしまっている?
仕方ないなあ、何とかして自信を取りも出させてやらねば……!?
『皆様ご注目ください』
お、なんだ?
唐突にアナウンス的なものが?
『開催に先立ちまして、主催者よりお言葉がございます。参加者の方々への激励と称賛の意味もございます。ご清聴お願いいたします』
ほう、主催者?
パターンから言えば悪の黒幕がやるポジションだが、このケースではいかに?
『それでは主催者、大魔王バアル様のご登壇です』
「ヤツかぁ!?」
ここで主催者黒幕説はハッキリと否定されました!!
そうだな、あの大魔王バアルさんならこの手の催しに関わってこないはずがない!
まさかこんな形で出てこようとは。
また魔国宰相のルキフ・フォカレさんに余計な苦労を掛けていないだろうな?
それだけが心配だ!!
「あーあー、うんうん」
皆のしらけた視線を一身に浴びて、バアルさんまったく動じない。
さすがのクソ度胸。
そして誰からも求められてないのにひとりでに語り出す。
「文化は宝である。人類にとってもっとも大切なものであり、人の精神をより高みへと導くのが文化だ」
はいはい。
「そして昨今大流行している『ゴッド・フィギュア』とそれを取り巻く環境に、ワシは文化の芽吹きを見た。新しい文化を保護することこそ大魔王たる我が務め。ということで国庫より予算を捻出し、本大会を企画した経緯である」
それちゃんと現魔王の許可とってる?
苦労性の魔国宰相さんの許可とってる!?
「新しき文化を担う諸君らの知恵と発想と情熱を総動員し、大会を白熱させてほしい。戦って、戦って、戦い抜いて! 最後まで勝ち残った者に最強の『ゴッド・フィギュア』の称号を与えるであろう! 皆の健闘を祈る!」
おおおおおおおおおおおおおッッ!
と、一応は盛り上がりを見せた。
「それでは『ゴッド・ファイト・オリュンピア』! レディゴー!」
ようし始まっちゃうよー。
そんな感じで始まった大会なれど、参加者数千人もいることからまともにやっていたらいつまで経っても終わらない。
まずは予選を行い、いくつか試合を同時進行してガンガン篩かけていくようだ。
「よしベレナ! サクサク勝利しようぜ!」
「サクサク蹴散らされてしまいますぅうううううッ!!」
ベレナはまだまだ弱気モードであった。
しかし戦う順番は容赦なく巡ってくる。
予選一回戦の俺たちの対戦相手は……。
「エルゴ・ゴルゴンゾーラ! 使用機体は『ローリング・ハデス』!」
おお、なんかいかにも強豪そうな人が来た。
「対戦者はベレナ! 使用機体『スサノオ零式』!!」
半泣きでリングに上がるベレナ。
そこに観客たちの視線が集まる。
「ほう、あの『ゴッド・フィギュア』、素体はベラスアレスだな? ハデス以外を選ぶとはなかなかシブい……!?」
「しかし、どう言ったコンセプトでの改造なんだ? ただ見た目を変えただけで、能力強化っぽい痕跡は見受けられないが……!?」
「ふん、どうせ見栄えをよくしただけの張りぼて改造さ。覚えたての初心者にはよくある」
なんかもう既に玄人気取りなコメントもちらほら。
しかしテメーら少しはフィギュアだけじゃなくてベレナにも注目してやれよ。
美人さんなんだぞ。
「試合開始!」
「一回戦でこのオレの『ローリン・ハデス』に当たるとは不幸な姉ちゃんだな。しかし手加減はしない!」
対戦相手の何とかさん。
いかにも初戦の対戦者らしい傲慢ぶりだ。
「回転力こそ戦闘力! この『ローリング・ハデス』の竜巻タックルを食らうがいい!」
そういう設計思想らしい、改造されたハデスさんのフィギュアの腰から上が大回転。モーターでも仕込んでるのか、ってぐらいの勢いだ。
たしかにあれは直撃すると痛そう。
「ベレナ! こっちも反撃だ! クサナギブレードだ!!」
「は、はいぃいいいッ!!」
あの『スサノオ零式』には、俺の粋を込めた改造が施してある。
そのギミックの一つクサナギブレードは『スサノオ零式』の主兵装。
振り上げた剣から光の筋が噴き上がり、さながら巨大なる光剣となって敵へと立ちはだかる。
「うえええええッ!?」
「一刀両断斬り!!」
ベレナの操作によって情け容赦なく振り下ろされる光剣。
巨大なる光の奔流に回転するだけのハデスフィギュアは飲み込まれて消えるのだった。
これぞ古事記に書かれる、スサノオが海を割って民を向こう岸まで導いたというエピソードにちなんだ一刀両断斬り。
俺の『スサノオ零式』は、充分に優勝を狙えるスペックなのだ!!






