728 ハデス百相
俺の『スサノオ零式』は無事予選一回戦を突破した。
しかも勝ちっぷりが豪快だったためか周囲の注目を集めたぜ。
「な、なんだあの攻撃は?」
「魔法? 魔法なのか?」
「大会のレギュレーションには抵触しないのか? どう見ても軍事的な技術流用しているだろう?」
と大絶賛。
やったなベレナ、会場の視線はお前が独り占めだぞ!!
「違いますよ! 皆が注目しているのは聖者様が作り出したこの超兵器です!!」
「そんなに褒められるとテレるぜ!」
何しろ自信作だからね。
しかしそんな俺の全力を込めた逸品も、ベレナが操作してくれなかったら大会に出場できなかったし、こうして日の目を見ることもなかったであろう。
すべてはベレナに感謝だ。
「感謝いただけても、この居心地の悪さはいかんともしがたいですぅ~!?」
「大丈夫、優勝さえすれば実家のごとき居心地になるさ!」
なのでサクサクと勝ち進んでいこう。
予選一回戦は俺たちの勝利で終わったので、次は二回戦だ。
対戦者は『ジャンピング・ハデス』。
製作者兼操縦者の選手は……。
「跳躍力は戦闘力! 脚部に追加パーツで爆発的なジャンプ力を得たオレの『ゴッド・フィギュア』は無敵よ!」
……とのこと。
自慢の改造を施されたハデス像は、もんのごつい太さと長さの太ももになっている。
さながらカエル。
その異形の脚から発揮されるジャンプはたしかに強力で、フィギュアの身長の四倍程度をゆうに飛び越え容易に頭をとられてしまった。
「制空権をとった者が勝つのが戦いの法則! 誰にとっても死角である頭上からの連続攻撃を食らうがいい!」
「クサナギブレード!!」
「あれぇええええええッ!?」
剣から放たれる光線が、はるか上空にいるカエル型ハデスさんにも容易に届いて貫いた。
たしかに上を取るのは戦法として有効だが、それで確実に勝ちが決まるわけではない。
少なくとも相手が飛び道具をもっているかどうかの確認は必要だったろうに。
能力モノでは上空はけっして安全圏ではないのだ。
二回戦も勝って三回戦。
次の対戦者は『アームストロング・ハデス』。
どういう機体なのかと率直に説明するならば、腕が長い。
アームがスッとロングだ。
恐らくは他フィギュアの腕パーツを流用し、それを何個も繋げることでヘビのように長大な両腕を実現している。
製作者兼操縦者のコメント。
「遠距離攻撃こそ必勝法! 一定距離を保ってのこの長い腕から一方的に攻められるがいい!」
……とのこと。
勝つために色々考えているんだなあ。
「急速に距離を詰めて懐に入ろうとしても無駄だぞ! この戦法を完璧にするために仕事もせずに練習を重ね、フットワークは完璧に極めた! いかなる動きにも対応し、こちらから一方的に攻められる適切な距離を保てる! この必勝法で優勝はいただきだ!!」
豪語するだけあって、操作される『ゴッド・フィギュア』の足取りは蝶が舞うようであり、一瞬でも油断したら蜂のように刺してきそうだった。
あれじゃあクサナギブレードで遠距離から撃ち抜く隙もない。
「ふぉっふぉふぉふぉふぉふぉ! 食らって沈め! 伸びーるパンチ!」
しかし、この程度で勝った気になっては困るな!
この俺が作成した『スサノオ零式』にだってまだまだ隠された機能がある!
「ベレナ! ステージツーだ!」
「了解です!」
俺の指示に応え、操作役のベレナが魔力を発する。
そして『スサノオ零式』のさらなる機能を展開する。
『スサノオ零式』の額部分が開き、その下から現れる丸くて透明な部位。
それが一瞬カッと光ると、その間近にいた相手フィギュアの長い腕が吹っ飛ばされた!
「何ぃ!? 一体何だこの仕掛けは!?」
フハハハハハハ見たか!
これこそ『スサノオ零式』に搭載された『第三の眼』!
その光で直近のものに衝撃を与えて吹き飛ばす!
古事記に載っている、スサノオは第三の眼で睨んだモノをすべて焼き尽くすというエピソードを元ネタに開発した!
構造上そこまで高い威力を搭載できなかったが、その分速射性も高く、両手が塞がるクサナギブレードの補完としてもってこいだ。
長い腕を蹴散らしながら懐へ飛び込め!
「うわわわわわわ……!?」
一気に形成が傾いて、対戦相手は戸惑うのみ。
長腕という切り札は強力なものの、それを攻略されたら奥の手は残ってなかったらしい。
そうすれば根性論でもない限り逆転の目はない。
一気に肉薄されて一刀両断。
三回戦も無事勝ち進むことができました。
まだまだ続くよ予選。
今度は四回戦。
ひとまずここまでの戦いを振り返ってみますと、すべての対戦者が素体としてハデスのキットを使用していた。
さすがダブリ率最高と言ったところで、しかも一応魔族にとっての主神でもあるんだからコスパもいいし親しみもいいんだろうな。
だからと言って腰から大回転させたり、カエル怪人みたいにしたり、腕をビローンと長くしたり、ああいう変体のさせ方は大丈夫なのだろうか?
そろそろ神の怒りを買わない?
……と思ったところで今度の試合、ある意味で極めつけが出てきた。
「行け! 我が魂『アンビバレンツ・ハデス』!」
四回戦で当たったハデスは……。
なんと言うか……。
上下がなかった……ッ!?
何を言っているかわからない?
そうだな、普通人体を模しているとしたら、上が上半身でしたが下半身でしょう?
上半身は胴体に手と頭で、下半身は主に足。
そんなの当たり前だろ? と言われるかもしれない。
しかし、四回戦で当たったハデスさんにはその常識が通用しなかった。
言うなれば、両方上半身だった。
腰から上が上半身で、腰から下も上半身。
二つの上半身が腰から繋がっているデザインだったのだ!
トランプの絵札みたいな感じっていうかな?
何を思って、こんなデザインにしちゃったの!?
製作者の弁。
「頭が二つ! 腕ももう二つ! そうすることによって死角がなくなりより完璧な戦いとなる! それこそオレが編み出した究極の戦闘法だ!!」
とのこと。
色々無理がなくない?
大体、上半身をもう一揃えつけるために両足をオミットしたんじゃ、どうやって移動すればいいのか?
移動できた。
四つの腕を使ってシャカシャカ動き回っている。
そのムーブがアレすぎる!?
「どうだ! 上半身をもう一つ付けたことで移動力もアップ! 我が『アンビバレンツ・ハデス』に弱点はない! オレの優勝伝説の一幕となるがいい!」
シャカシャカと縦横無尽に動き回るトランプ絵札ハデスには、案外にすばしっこすぎてクサナギブレードも第三の眼の衝撃も当たらない。
見るからにキワモノみたいな外見ではあれども、四回戦まで勝ち上がってきた実力はたしかということか。
それならこちらも出し惜しみはしない!
「ベレナ、ステージスリーだ!!」
「はいぃいいいッッ!?」
ベレナの魔力に反応し『スサノオ零式』の全身が黄金に輝く。
これこそ古事記にあるスサノオの進化形態! 黄金の戦士となったスサノオは、全能力を飛躍的にアップさせてスピードもパワーも段違いのスーパースサノオになるのだ!
「うわああああッ!? 速いぃいいいいッ!?」
いかにシャカシャカと素早く動き回るといえども、スーパーなモードになった『スサノオ零式』からは逃げきれない。
よし捉えた!
今だスサノオ満月斬り!!
「やっぱり足も付けておくべきだったぁあああッ!?」
四つの腕が移動のために費やされたせいでロクに反撃もできなかったからな。
やっぱり下半身には両足がついているべきだったんだよ。
予選第四回戦も何とか俺たちの勝利に終わった。
しかしたった四試合しただけで、あまりにもバラエティに富んだ顔ぶれと対戦したものよな。
あまりに多彩すぎてカンブリア紀の生物を見ている気分だった。
無秩序に多様な生物が現れて、そこから淘汰が始まっていく。
この大会もそのように、勝ち進むごとに様相が収斂していけばいいんだが。







