681 雪像転生
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ノーライフキングの先生、テンションたっかいなあ。
教え子のことになると冷静さを欠くノーライフキングになってしまわれた。
そもそも基本能力が常識を遥かに隔絶してしまっているので、自然やることなすことが常識外れになってしまうのは否めない。
だから先生に教え子が絡むと大抵常識はずれな結果になってしまうのだ。
こないだの卒業試験のように。
卒業試験でピラミッド築いたから、今度は万里の長城でも建てるのかな?
「でも、雪像を永久に残すなんてどうするんです?」
いくら先生でも、雪を永久に溶けなくするなんて可能なんだろうか?
可能そうだなあ。
でも雪像の問題点はそれだけじゃないぞ?
何しろ金属や材木と比べてあまりにも脆いから、ちょっとした衝撃で崩れてしまいかねないし、風化だって早い。
永遠どころか一年持たせるだけでも至難の技だと思えるんだが、先生はそこのところどうするつもりなのだろう?
『私は考えたのです。雪像自体は残らずとも、心をこもって作り上げた生徒たちの気持ち、魂がこもればいいのだと』
「ははあ?」
『雪は儚く溶け行くもの。それを無理に止めようというのも無粋でしょう。ゆえに雪にこもった形、気持ちを別のものに託し、移し替えるのです!』
なんだかよくわからない発言であった。
形を別のものに移し変える?
写真に撮ったりだろうか?
あれこそ思い出を形として残す最強ツールだろうからなあ。
前の世界ではそれこそスタンダードだったし、何でもかんでも写真に残そうとする者たちよ。
きっと本家本世界の雪まつりでも写真に残すことで雪像を破壊する心的負担を和らげるんだろうが、この世界に写真もカメラもないのは、わかりきったこと。
では先生はどうやって思いを未来に残そうというんだ?
『そのために、協力してくれる者を呼びましょう。まず彼女です!』
「よろしくまー!」
と言って出てきたのは……。
……コイツか。
ロイヤルハニービーの女王蜂。
ちょうど今年の冬が始まる直前に出会った新キャラで、クマくんが手土産代わりに持ってきたんだよなあ。
蜂の子ごはんにでもしようと思ったが成虫じゃ炊き込めないということに気づいて、以来そのままにしている。
ちなみに、姿形は蜂そのものではなく人間のような姿をした女王蜂。
半分人間で半分蜂。なんかのゲームで吸血鬼やサキュバスと殴り合いしてそうな外見をしていた。
女王蜂だから当然のように美しい女性の姿。
「冬真っ盛りのクソ寒い間だったが、元気にしてたのか?」
「モチよ! アナタの場所、他のどこより住みやすくて食べ物も多いしサイコーよ! あのクマに前の巣破壊されたことも今じゃラッキーと思えるわ!」
それはよかった。
俺にとっては別によくも悪くもなかったが。
「あのドラゴンさんが支配しているお山なら、冬でも花の咲いているところがあるから助かるわー! それでね、お世話になっているばかりじゃ申し訳ないから、そろそろ恩返ししようかと思って来たのよ!!」
「ハチミツなら必要ありませんよ?」
何しろうちにはメープルシロップさんがあるからな!!
「大丈夫よ! 私たちロイヤルハニービーにはハチミツの他にも役立つものがあると、前にも証明したじゃない!!」
役立つもの?
それはたしか……!?
「そして今回、そこを見込んでノーライフキング様に依頼を受けたのよ! ……アンデッドの王から頼まれて嫌とは言えないじゃない! 私も命が惜しいのよ!」
まあ……。
なんかすみません。
『……というわけで彼女の助けを借りて、生徒たちの心を込めて作られたモニュメントの永久保存を試みますぞ』
ああ、先生。
たしかにそういう話でしたね。
しかしこの蜂を利用して、一体どんな保存策を?
『まず、雪像に凍れる時の魔法をかけて、時間を止めます。これて叩こうが燃やそうが欠片も崩れませんぞ』
もうそれで完成なんじゃないですかね?
『時が止まっているうちに素早く仕上げますぞ! 女王蜂よ!』
「合点でい! 行きなさい我が眷属ども!」
女王蜂が号令かけて、呼応して働き蜂が無数に湧き出した。
どこにいたんだこんなに!?
ちなみに働き蜂は、普通に蜂の外見をしていた。
頭部、胸部、腹部の三ブロックに分かれた体から六本の脚、羽に触覚もついているアレ。
女王蜂は人型なのに働き蜂は完全虫形態だなんて。
身分の格差が現れている。
その働き蜂どもが数千匹と飛び出し、そして雪像へと群がる。
ヒィッ!? 雪像がくまなく無数の蜂に覆われて……熱殺蜂球!?
そしてしばらく経ち……蜂どもが離れていくと……!?
「うわーッ!?」
なんか雪像がドロドロしたもので覆われている!?
『これは蜜蝋ですぞ』
「みつろう!?」
そうか、蜂が巣を作るために分泌する蝋みたいなもの!?
それで雪像をすっかり覆ってしまうと……。
『固まったところを見計らって、切れ目を入れますぞ』
雪像を包んでグッチャグチャになった蜜蝋に、先生は指をスッと引く。
それだけで固まった蜜蝋に、超振動ブレードででも斬りつけたかのような、あまりに綺麗な切断線ができた。
「私たちロイヤルハニービーの分泌する蜜蝋って、固まったら鋼鉄並の硬さを誇るんだけど……?」
そうなの?
やっぱりモンスターって凄え。
まあそれを簡単に切断しちゃった先生がもっと凄いんですがね。
『そして切れ目からカパッと開くと……』
おおッ!?
内側に、くっきりと雪像をかたどった窪みが!?
まるで型取りのようだ。まるでというかそのものだが。
『切断面にもう一度蜜蝋を塗って接着し、そして小さな穴を開けますぞ。中の、雪像の型になっている空洞と繋がるように……』
これは……。
先生が何をしようとしているかわかってきた。
アレじゃない?
プラモデルの製造と同じような運びじゃない?
まず金型を作って、掘り削った窪みに溶かしたプラスチックを流し込む。
そして冷えたらプラモデルの完成! みたいな……!?
そうすることで、すぐに溶けるか崩れるかしてしまう雪に代わった強固な材質で、形だけを移し替えようってことか?
これが先生の言う、思い出の永久保存法か!?
蝋は、融点が低くて簡単に溶けたり固まったりするので、型取りには適した材質なのかも。
モンスター蜂の分泌した蜜蝋だから想像を超えて硬いようだし。
「でも……、ここからはどうするんですか!?」
蜜蝋を使って型ができたまではいい。
しかし、そこで終わりじゃない。まだ過程に過ぎないぞ。
ここから何かを型に注ぎ込んで、雪像そっくりの何か像が出来上がって初めて、思い出の移し変えは完了と言えるのだろう。
しかし何を材質に使う気だろう。
製造過程を考えれば、液状から個体へと変質するものでないとな。何しろ流し込むんだから。
そして一旦冷えて固まったら容易にまた溶けないし、砕けて欠けない強固なものがいい。
少なくとも雪よりは。
先生は、一体どんな素材を型に流し込むのかな?
『マナメタルですじゃ』
「出たああああああッッ!?」
いつでも頼れる万能金属!?
金属だから溶けるだろうし、そもそもマナメタルは先生のダンジョンから湧出しているのを貰い受けているんだから、先生が持ってたって少しも不思議じゃない!!
『これをワシの魔力で溶かして……、「究極焼界炎」!』
うわあああああッ!?
マナメタルが一瞬のうちに溶けてドロドロにいいいいッ!?
さすが先生、マナメタルを溶かしてしまうなんて!?
「マナメタルってこの世界で一番硬いオリハルコン的な金属なんでしょう!? 一体融点は何億度!?」
『いやいや、マナメタルは世界を循環する「気」が硬質化ものですからなあ。精神に感応して、けっこう融通が利くのですわ』
「なんと!?」
『だから加工する際はけっこう簡単に切れたり溶けたりするのです。しかし一旦道具としての役割を与えられたら砕けもしませんし、削れもしません』
そうなんだぁ。
道理で世界最強の金属とか言われてるのに、窯に入れて簡単に溶けるものだと思った!
そんなマナメタルに金属になるよう仕向けたら、そりゃ素直に銅像になってくれますよ。
いや、マナメタル素材なんだからマナメタル像か。
蜜蝋製の型、あけた穴から溶かしたマナメタルを流し込み……。
……融解金属の高温にも全然負けないロイヤルハニービーの蜜蝋凄いな……!?
……そして、冷えて固まっただろうという時間を見計らって。
『型を外す!』
先生が念じただけでロイヤルハニービーの蜜蝋は塵も残さず消滅した。
相変わらずこの人が一番凄まじい。
そして中から出てきたのは……!
雪像と寸分たがわぬ姿で、マナメタル製へと転生した。
「クリーチャーゼウス像!?」
なんで!?
なんでよりにもよってこれを!?