552 EXコース
さて、肝心のオークボ城本戦にも目を向けていこう。
今回も強者たちが奮って難攻不落のオークボ城に挑戦だ。
参加者に特別な資格はなく、健康面で問題さえなければ誰でも参加可能。
その中で有名人な参加者もおり、お馴染み魔王さん……今年こそ全関門制覇を成しえるか!?……を始めとして……。
今年初出場、魔王軍四天王からマモルさん。
エキシビションではサボっていたのでこちらに参加、また結婚おめでとうございますのS級冒険者ブラックキャット。
占領府の意地を懸けて、旧人間国の統治を務める魔王軍の大幹部マルバストスさんも初参加。
引退したから暇になってきた。前人魚王ナーガスさんも人化薬で尾ひれを二本の足に変え参戦だー。
あと俺。
……と、これだけでも錚々たる面子であることは充分に伝わってきているものと思う。
しかし、今までのオークボ城を楽しんできた人たちは思うことだろう。
――『なんか物足りなくね?』と。
去年まではさらに錚々たる面子が参戦して競技を賑わせてくれたはず。
地元領主で、前年前々年と天守閣到達を成し遂げたダルキッシュさん。
当時は王子として、人魚族代表で一発クリアを成し遂げた現人魚王アロワナさん。
やっぱり暇なの? 引退した先代魔王でもある大魔王バアルさん。
その他、人間国の各領主や魔王軍の重鎮たちも前年まで大挙して参加していたはずだというのに、それら歴戦の顔触れは今回はまったく姿が見えない。
どうして?
彼らはもう参加しないの?
と観客たちは寂しげに競技を見守っていたが……。
……フッフッフ心配することなかれ。
ちゃんと考えはまとまっている。
真の勝負は一般参加者の競技が終了したあとに始まるのだ!!
オークボ城も今年で三回目。
初回から参加している人たちは、もう各競技に馴れてきた頃だ。
どんな厳しい難関でも事前に予測できていれば対応しやすい。前もって対策を練ることもできるだろうし、そうなると連続参加者と初参加者との間で有利不利の格差ができてしまう。
オークボ城は皆で平等に楽しめるイベントにしたい。
では参加経験で格差ができないようにするにはどうしたらいいか?
アトラクションの内容を一新する?
しかし過去開催時には、惜しくも途中の関門で敗退した人たちがいて、その人たちは来年のリベンジを誓って練習してきたりもしているだろう。
自分が落とされた関門を研究し、対抗策を用意したりもしているに違いない。
そんな人たちにとって『去年と違いますよー』と言ったりするのは非情だ。
各人には運動神経の生まれ持った差もあったりするし、運動が苦手ながらも果敢にチャレンジしてくれた人たちの、一年越しの努力も無駄にしたくない。
ということで従来の関門の内容には手を付けずにおいた。
それではどんな方法で歴代参加者……特に全関門制覇を成し遂げた上級者と、それ以外のビギナーに差が出ないようにすべきか?
俺たちの出した結論はこれだ!
「EXコース! 上級者向け難易度MAXオークボ城!!」
手加減なし!
全力で侵入者を迎え撃ち、排除するオークボ城だ!!
仕掛けられた罠は、通常とは比較にならないキルマインドに溢れている。
まさに上級者向けの競技なのだ!
「このコースの関門は、手心をまったく加えずに全力の悪意でもって拵えられた! ハッキリ言おう! 我々は一人として天守閣に到達させるつもりはない!!」
「「「「「おおおおおおおおッッ!?」」」」」
俺のマイクパフォーマンスに大喜びで返される歓声。
観客たちも訓練が身に付き始めているな……!?
「そして皆さんが気になっていた過去競技の上位成績者たちは、この上級コースに参加することとなっている! 見るがいい! この錚々たる面子を!!」
地元領主ダルキッシュさんを先頭に、アロワナ王子、大魔王バアルさんなど、かつてオークボ城天守閣に到達した猛者たちが続々入場。
上級コースの参加資格は、基本的に去年までの大会でクリア経験のある方たち。
何回も参加して賞品を荒稼ぎされないためにも、以後クリア経験者は上級コースだけに参加できるとして通常コースへの挑戦を遠慮してもらうことになった。
その代わり、この上級コースを制覇したら更なる貴重な賞品を進呈する予定ですから、皆さん是非とも奮闘してください!!
「では競技スタートの前に、このEXコースを主導した人からの御挨拶をいただきましょう」
俺の紹介を受けて、会場に現れるのは……。
……オークボ……と。
もう一人、連れ添うように現れる妖艶の女性。
「わらわこそ城主夫人のゾス・サイラであるぞ」
人魚族のゾス・サイラさんであった。
薬を飲んで人間の姿になり、かつ着飾ってなるほど戦国時代の奥様みたいな風情がある。
……あの煌びやかな和服、バティに作らせたのかな?
「役です。あくまでそういう役です」
寄り添うオークボが冷や汗交じりに言う。
城主夫人(役)ゾス・サイラさんと連れ立つ城主(役)オークボ。
「我が夫の城を攻め落とそうなど思い上がった考えじゃ。……という体で、人魚界最高の頭脳を持ったわらわが全力で強化したEXオークボ城、落とせるものなら落としてみるがいい」
これまでもアトラクションの一部を管理運営していたゾス・サイラさんが、全体の監修を行って作り上げた。
いわば緊急イベント。
EX覇級・深淵の呼び声。
っていう感じだ。
「わらわとオークボは天守閣で待っているゆえ、奮って登ってくるがいい。どうせ誰も辿りつけぬことであろうがな!」
と悪役臭いセリフを吐きながら退場。
ゴール地点である天守閣へスタンバイされるのだろう。
オークボも、そのあとを追う。
今日は一日ホストとしてゾス・サイラさんにつきっきり。今回イベントがオークボの名を冠しておきながら本人あんまり出てこないのは、ゾス・サイラさんのもてなしで手が離せないからだった!!
「オークボさえあてがっておけば、大体機嫌いいからねー、あの女」
「うん……!」
いつの間にか俺の隣にいるプラティと並んでため息をつくのだった。
* * *
ってなわけで開催しちゃうよー。
経験者限定、オークボ城リミッター解放激ムズ鬼畜ナイトメア仕様。
実況、俺にてお送りさせていただきます。
挑むのはいずれも、通常コースをクリアした猛者たち。
地元領主のダルキッシュさんを先頭とし、量も質も充分な方々が勇ましく進み出る。
「どんな難関が用意されていても、領主として退くわけにはいかぬ!」
決意たからかに進んでいくダルキッシュさん。
それに続くアロワナさん、大魔王バアルさん、その他にも各地の猛者が並び立って、純粋な戦力として色んな勝負に勝てそう。
「まずは……、やはりこれか?」
猛者たちの行く手を遮る最初の障害は、地面を大きく隔てる空堀と、そこに渡された細い橋。
いや、あの細さはもはや橋とは呼び難い。
平均台だ。
これぞオークボ城を代表する第一関門、その名を『イライラ平均台』!
あの細い平均台をバランスを取りながら進み、堀を渡っていく競技だ。
「フン、今までとまったく同じではないか! 上級者向けと謳っておきながら何と肩透かしな!」
ダルキッシュさん、一見何の変哲もない平均台へ果敢に挑む。
「待て! どんな仕掛けがあるかわからぬ! 落ち着いて対処するのだダルキッシュ殿!!」
上級コース挑戦者で、もう一人の代表的存在アロワナさんが止めるものの、止まらないダルキッシュさん。
「心配ない! 必ずや今年も全関門クリアし、息子のプレゼントをゲットするのだー!」
俺同様、昨年初子を授かったばかりのダルキッシュさん。
子を想う心に感服するが、そんな優しいお父さんにもEXコースは容赦なく襲い掛かる!
「うわああああああああッ!?」
「ッ!? ダルキッシュ殿が落ちた!? ちゃんと平均台に乗ったはずなのに! 何故落ちた!?」
二年連続、全関門制覇したダルキッシュさんが真っ先に脱落。
この思いもしない展開に観客席からも動揺が上がる。
「よく見ろ! この平均台……次第に細くなって、途中でなくなっている!?」
「向こう岸につく前に!? 上手いこと遠近法っぽい感じになっていてパッと見ではわからないように!?」
「ダルキッシュ殿はこれに気づけず踏み外してしまったということか!?」
後続の参加者たち、一番乗りダルキッシュさんの犠牲を最大限に活用して状況を分析する。
「こんな悪辣な罠を用意しておくとは、上級コースやはり一筋縄ではいかんな……!?」
「まさに悪魔的……!!」
「しかし我々も、一度は天守閣に到達した猛者! 多少難易度が上がっても必ずや踏破し、再び天守閣に到達して見せようぞ!!」
これはいわば、全アトラクションを監修した魔女ゾス・サイラさんと、それに挑戦する猛者たちのガチファイト。
その勝敗はどうなる?