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551 ゴブリン空を飛ぶ

 さあ、オークボ城の本格開催だ!


 多くの参加者たちが天守閣を目指し、橋を渡り、坂を上り、城内へと侵入する!

 それを応援する観戦者たち! シルバーウルフさんたちのデモンストレーションで大盛り上がりになっているから歓声も張りが違うぜ!


 そんな観客たちに振舞われる露店の料理!

 既にお馴染みとなったヴィールのラーメン屋やレタスレート&ホルコスフォンの豆屋(納豆もこちらで販売しております)。

 さらに今年はバッカスのおでん屋も出張して好評を博しております。

 あらかじめ『こっちで酒を振舞うのは禁止だぞ』と通達しておいたがね。


 さらに目新しい露店といえば……タコ焼きを振舞っているお店があった。

 なんとプラティが運営していた。


「何やってるのプラティ!?」


 キミ二人目がお腹の中にいるんだから、あんまり派手に動いてほしくないんだけど?

 ジュニアまで背中におんぶして。熱いタコ焼き器を目の前にして怖い!?


「ヴィールのヤツがラーメンで人気をとっているから、いずれ何かで対抗してやりたいと思っていたのよ!」

「謎の対抗心!?」

「幸いクラーケンのクラちゃんがたくさんタコ足を分けてくれたから、それでジャンジャンタコ焼きを作るのよー! いらはいいらはい! 美人人妻が作った美味しいタコ焼きよー!!」


 とりあえずジュニアが退屈そうにしていたので俺の方で預かっておいた。


 こんな風に露店サイドも大賑わい。


 肝心のオークボ城本戦の参加者も去年より増えて歴代最高を記録した。

 好評で大変よろしいことだ。


 あえて問題があるとしたら、参加者が多すぎて捌ききれなくなっていること。

『これまともに回してたら全員挑戦するまでに日が暮れる!』というレベルで、それこそまともにやってたら全部のお客さんにアトラクションを楽しんでもらえなくなる。


 折角遠くから来てくれたのに、それじゃ申し訳ないということでいろいろ工夫してみた。


 実行した案としては、今回攻略コースを複数に分ける。

 城攻めにも様々な方面から進んでいけるように、オークボ城にも数種類の侵入コースを用意して、参加者たちに選んでもらえるようにした。


 さすれば分散し、多くのお客さんに短い時間で楽しんでもらうことができる。


 遠くから来ているお客さんもいることだし、複数日開催にしても泊まるところがなければ不便だろう。

 ということで複数日開催は来年以降の課題として……。


 今年は一日以内で楽しんでもらえるように新規格の開催だ。


 名付けて『空から攻略オークボ城・空中攻略コース』!


 開発自体は昨年にされたもので、大きなカタパルトで人間丸ごと射出。装着していたパラシュートで落下を軽減して空中遊泳を楽しむという仕掛けた。


 昨年は、その仕組みを利用して反乱制圧にも活用された。


 あれから一年かけて改良を重ね、安全性を徹底検証した上でついにオークボ城アトラクションとして正式採用を迎えた。


 まずは人間射出用の大型カタパルトを用意し、それでもってアトラクション参加者とインストラクターを一緒に打ち上げる。

 充分な高度まで上昇したらグライダーを展開して風を受け、飛ぶ。

 そして天守閣に設けられた着陸エリアへ上手く着地できたらクリアという仕組みだ。


 改良点としてはグライダーを開発したことで割と自由に飛べるようになったこと。

 昨年も余興として人間射出体験会みたいなのがあったが、あれはただ単に飛ばして落ちるだけのシロモノだった。


 それが今回グライダーを採用したことで、空中でできることが格段に幅広がりゲーム性も増した。

 グライダーが風を掴むことで右へ旋回、左へ旋回、高度を変えることも可能でユーザーの思う通りにできる。


 もちろん安全面にも充分考慮し、グライダー飛行時には必ずインストラクターが同乗することになっている。

 やはり飛ぶのは素人だからな。

 急な横風だったり、高いところが怖くなって操縦を誤ったり、……ということになればすぐさまインストラクターが操縦を代わって安定させる仕組み。


 インストラクターを務めるのはゴブリンたち。


 小柄で体重の軽い彼らならば同乗しても、そう深刻なウェイトにもなるまい、ということだが、そもそもこの空中遊泳企画自体ゴブリンたちの発案、進行のプロジェクト。

 この一年、研究に研究を重ね、安全性を徹底追及し、試行錯誤の末に今の形を完成させたのはゴブリンたちの手柄だ。


 いわば今回のアトラクションは、彼らの努力が実った発表の場。

 一層気合も入ろうというものだ。


 ゴブリンたちの入魂企画は、無論安全性を極めているだけでなくゲーム性も優れている。


 基本の流れはカタパルトから射出され、そのまま天守閣まで飛んでいくことだが、その間にいくつものチェックポイントが存在し、そこを通過していくことで加点される方式。


 具体的には空中に気球を浮かべ、その下に垂らされた目印に触れると得点というルールだ。

 目印へきちんと接触したかどうかの判断は、同乗するゴブリンが行う。

 得点計算もゴブリンが行っており、安全対策だけでなく審判や得点係も兼ねているということ。


 万が一墜落ということになってもウチのゴブリンならお客さんを助けつつ無傷で脱出ということも容易い。

 万全の布陣だった。


 そして一定数の得点を稼ぎつつ、無事天守閣の所定地点へ着陸できた人に賞品を贈呈。


 あくまで本戦の混雑を緩和するためのサブ企画として実施されたが、想像以上に参加希望者が押し寄せててんてこ舞いであった。

 仕舞いにはゴブリンだけで手が足りなくなり、留学生の比較的手慣れた者がヘルプに入って何とか回るようになった。


 やはり人にとって『空を自由に飛びたいな』ということは大きな夢の一つであるのだろう。


 まだまだ単純な構造で飛行時間も短くもあるが、人の夢を叶えてくれるアトラクションに人々は殺到した。

 操縦に馴れず、ロクに得点もできないまま着陸しても『あー楽しかった!!』と喜んで帰られるお客さん続出であった。


 幸い事故らしい事故も起きず、この時点で企画の大成功は決まった。


 ただ一点、変わったことがあったとしたら……。


    *    *    *


 オークボ城全体を見回っていた俺、何やら揉めている場面に遭遇した。


 揉めていると言ってもケンカとか言い争いとか、そういう剣呑とした雰囲気ではない。

 何やら執拗に頼み込まれ、困っているという風であった。


 困っているのはウチの農場ゴブリンたち。

 お陰で彼らが運営している空中遊泳が滞っているじゃないか?


「何々? どうかしたの?」

「あッ、我が君……!?」


 俺も最高責任者として何があったのかと話に加わる。

 押し問答していたのは、参加受付を担当するゴブリンと、四十半ば辺りの人族の男性だった。

 中年男性は品のいい身なりで、どこぞの貴族か何かのように思える。


「こちらのお客様が、息子さんをグライダーに乗せてあげたいと……」

「? 乗せてあげればいいんじゃない?」

「それが問題がありまして……」


 聞くところによると、その貴族の息子さんは先年足を怪我して、自分一人では歩けない状態らしい。

 かなりの大怪我だったそうで、全快しても元通りに歩けるようになるかわからぬ、と医者に宣告されたとのこと。


「それ以来気落ちした息子を何とか元気づけたいと思って連れてきたのです……! 空を飛ぶなどと、今まで体験したこともないことができれば、きっと喜んでくれると思うのです。どうか、どうか……!」


 と頼み込んでくる中年男性改め怪我した少年のお父さん。


 うわ、これは気持ちがわかる。俺も父親として子を心配する心に同情、胸が痛い。


 しかし同時にゴブリンたちの困る気持ちもわかる。

 この企画、発案時から一貫してもっとも気遣ってきたのは安全性だ。

 何しろ空を飛ぶのだから。


 絶対落ちないように、万が一落ちたとしても怪我のないようにと安全を追求して今日の形に整えてきた。

 そうして『絶対安全』との自負はできたが、それはあくまで参加者自身に健康的問題がないことを前提にしている。


 参加前にヒアリングを行い健康面に不安がないかをチェック、飲酒でもしていようものなら徹底して参加をお断りする決まりになっている。


 受付担当のゴブリンも、それを知っているから安易に許可することできず、かといって非情に拒否することもできずで困り果てているのだろう。


 ならばここは全体責任者である俺の判断するところだな。


「ゴブ吉を呼んでくれ」

「我が君!?」


 ゴブリンチームを統括する最強ゴブリンの彼なら、力も術もあるしきっと上手くやってくれるだろう。


「本当なら健康に不安のある方はお断りさせていただくルールですが、お子さんが元気になってくれることを願って内緒で飛ばさせていただきます。お父さんもどうかご内密に」

「おおッ! ありがとうございますッ!」


 ルールより情けが勝ってしまうダメな俺だった。


 呼ばれてきたゴブ吉は、さすがの技で怪我した少年と同乗しながらグライダーで滑空。

 得点を得るよりも純粋な空中遊泳を楽しんで、最後に大旋回までしながら無事地上へと帰ってきた。


 塞ぎ込んでいた少年も、余程空を飛ぶことが楽しかったのか、着陸後はすっかり目を輝かせて気分も高まっていたようだった。


 あれだけ元気を取り戻せば怪我の治りも早まりまた駆け回れるようになるだろう。

 お父さんから何度も礼を言われて俺まで泣きそうになるのだった。


 ファンタジー異世界であったとしても。

 やはり大空は人に勇気を与えるものらしい。

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― 新着の感想 ―
[一言] 本来、感動的な話になる…筈だったのに、銀狼と桃猫の話が尾を引いて、全然心に届いてくれない…(笑)
[良い点] 少年はこの思い出を忘れず将来飛行できる機器の発明で名をなすのであった
[気になる点] 例のエリクサー納豆食べさせたら即完治したりして…
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