526 闘者入場
新・龍帝城の正門前。
多くの観客が詰めかけたこの場所は、もう本当にイベント会場としか思えない。
これからどんな楽しいことが起きるのかな?
楽しいこと!?
「皆の者! 我が居城へとよくぞ参った!!」
芝居がかった声が放たれたのは、城門の上の縁の部分から。
そこに堂々とした振舞いの男性と、寄り添うように立っている麗しい美女がいる。
「我こそはアードヘッグ! この新たなる龍帝城の主にして全ドラゴンの王!』
語りながら変身し、みずからの姿を本来のドラゴンのものへと変える。
迫力たっぷりで、詰め掛けた観客たちを圧倒する。
また見事な効果だった。
『誇るがいい! 我が城の新築祝いに同席できる、その栄誉を! 我が城の素晴らしさを見届けられる幸運を! そして本日はお日柄もよく、えーと……!?』
早くも威圧的な文言のボキャブラリーが枯渇しかけているアードヘッグさん。
ボロが出ている。
「やっぱりアイツは高圧的な口調が不得意だなあ?」
「だったらやらせなきゃいいのに!?」
誰だよアードヘッグさんの苦手な方向性で挨拶させようとしたの!?
きっとヴィール辺りだ!
俺はアレキサンダーさんと並んで、もはやモゴモゴし通しの哀れなアードヘッグさんを見上げる。
『もう、何をしているの!? 情けないわね!』
そこに助け舟を出したのは、漆黒の翼を広げるもう一体の巨竜。
さっきまでアードヘッグさんの隣に寄り添っていた美女が変身したものだった。
『いいこと!? 偉大なるガイザードラゴンの直言を、アナタたち下等生物が耳にするなどあまりに恐れ多いわ!! 代わってこのわたくしが! アードヘッグに寄り添うもっとも忠実な竜、皇妃竜グィーンドラゴンたるこのブラッディマリーが宣じます!!』
アードヘッグさん以上の高圧さで言う漆黒竜。
『まず、我が夫アードヘッグ様に逆らう者は全員殺します!』
いきなりぶん投げた。
『我が夫は世界の支配者! 最強種族の頂点! 逆らう者は一人もあってはなりません! そして反逆者を殺すのに王者の手を煩わせる必要はありません! 我が夫の敵は妻たるわたくしの敵と心得なさい!』
『あの……マリー、もう少し友好的に……!?』
『ゆえにこの遊戯の場は、我が夫の力を知らしめるために用意してやったもの! 我が夫が治める新・龍帝城の大きさと恐ろしさを直に見て、その主たるアードヘッグの恐ろしさを思い知りなさい! 今日の催しは、そのためだけにあるのよ!!』
『もうちょっと歓迎の意を表しても!』
ガンガン暴走していくブラッディマリーさんにあたふたするアードヘッグさんをみて、観客席の誰もが『ああいう間柄なんだな』と思った。
「奥さんの愛が暴走しているなあ……」
「わかる、わかるわ。新婚の時って思いが行きすぎがちよね」
「竜の王妃様の愛が大きすぎる件について」
「苦労しているんだなあ竜の王様も……」
全種族からの皇帝竜への好感度が少し上がった。
『……と、いうわけで! 今日は皆思う存分に楽しんでいってくれ! それでは続いて本日の主役たちを紹介しよう!』
息を切らしたアードヘッグさん。
その宣言に合わせて、地上のステージ的なところに続々と入場してくる数人。
『彼らこそ、我が竜帝城を攻略するために名乗りを上げた各種族の猛者たちだ! 拍手をもって迎えてくれ!』
『身の程知らずが! 全員わたくしたちの愛の巣の餌食になるがいいわ!』
そうして現れた選手(?)たちは大きく二つの陣営に真っ二つに分かれているのがわかった。
一つは人族、一つは魔族。
それぞれに俺の見知った顔があった。
人族側の陣営で、俺の記憶の合致する顔は一つ。
シルバーウルフさんだ。
S級冒険者である彼は獣人でもあるがゆえに顔が狼のそれであり、一度見たらまあ忘れない。
しかもその周りにはこれまたバラエティに富んだ顔ぶれになっていた。
猫耳の女性やら、鼻がブニッと潰れてブタみたいな感じになった太い女性とか、恐ろしげな耳を伸ばすマント男や、あと普通の人。
それに対し魔族側はエーシュマやレヴィアーサや、それにベルフェガミリアさんと見知った顔ばかりだ。
一人だけ初めて見る顔もあるが……。
「っていうか……、魔族側のあの参加者たちは……!?」
「左様、我が自慢の最精鋭、魔王軍四天王だ」
と後ろから話しかけられて『うおッ!?』となる。
誰かと思えば魔王さんだった。
「魔王さんも観戦に来てたんですか!?」
「これほど大きなイベントだから、我も出席して盛り上げねばな。開催に尽力してくれた聖者殿やアードヘッグ殿への義理もあるからな」
俺は、知らないうちに話がこんなに大きくなってたんですが?
それよか、勝負の参加者に四天王が直接出てくるなんて。
魔王軍の頂点にいる人たちでしょう?
そんな人たちが出てくるってことは、全力を注いでるってことじゃないか?
「この勝負は、魔王軍の改革のために必要な措置。自分たちの仕事を代わって任せるに足る相手かどうか。冒険者たちの力量を示してもらわねばならん。だからこそ全力を尽くさねば、こちらから提案したことだし筋が通らぬであろう?」
相変わらず真面目な魔王さんだった。
それに対して人族側は……。
「参加者は全員S級冒険者だ」
説明してくれるのはアレキサンダーさんだった。
しかも何故か自慢げに。
「冒険者ギルドが誇る最高の手練れたちだ。ゴールデンバット、シルバーウルフ、ブラックキャット、ブラウン・カトウ、ピンクトントン。いずれも得意な分野を持つ第一級の冒険者。魔族最強を誇る四天王と言えど容易に勝てる相手ではないぞ?」
「伺っている。なんでも彼らの名声は、本国にてこの魔王をも上回るとか。むしろそこまでの最高戦力を出してくれたことを先方の敬意と受け取ろう」
くっくっく……、と不敵な笑みを漏らしながら視線を交わらせる魔王さんとアレキサンダーさん。
でもなんでアレキさんが人間側代表みたいな面しておるの?
もっと他にいるんじゃない?
冒険者ギルドのギルドマスターさん? 的な?
『よくぞ集まった、勇敢なる人類よ! お前たちが我が新・龍帝城の最初の客人にして、侵入者だ!』
『全員叩き潰してやるわ!!』
またドラゴン形態のアードヘッグさんが芝居がかって進行する。
もう完全にお祭りだな。
皆で楽しもう。
『お前たちにはこれから、我が龍帝城へと入り最深部を目指してもらう! 城の主たるおれが待つ最深部へとな!』
『当然わたくしも待っているわよ!』
『城内は、いくつも道が分かれ迷宮の体を成している。お前たちは好きな道を進み我が下を目指すがよかろう! 正しい道もあれば間違った道がある! どちらが正しいかを読み取り前進できる能力を持った者が勝者となれるわけだ!!』
『最終的にはわたくしが全員潰すわ!!』
……。
ブラッディマリーさんの愛がノイズ……!?
『お前たちが優劣を競いたいというなら、先におれの待つ最深部へとたどり着いた方が勝者ということでどうだ? ……しかし、城内にはお前たちを歓迎するために用意した罠で溢れかえっている。辿りつくこと自体果たしてできるかな?』
挑戦的な物言いのアードヘッグさん。
いや、正味の話あのダンジョン、ヴィールやらアレキサンダーさんやらブラッディマリーさんが勝手に手を加えたおかげでかなり凶悪なダンジョンと化している模様。
極悪なトラップが点在しているものと思われる。
『我らも途中から手伝わされましたぞ』
『猫の手を貸してやったにゃー!!』
ノーライフキングの先生と博士!?
お二人まで作成に参加して!?
益々凶悪になっておることが目に見えているじゃないですか!?
『おかげで今日のお祭りも見学できますし、賑やかなことはよいことですな。聖者様との付き合いが始まってワシも祭りが大好きになりました』
『祭りと猫は異世界の華にゃー!!』
先生が楽しんでいただけるのはけっこうですが……!?
「なんと!? ノーライフキングまで!?」
「新たなるガイザードラゴンは、同族だけでなく不死の王まで従わせているというのか!?」
「それほどの実力が!? やはり新帝に抗うのは無謀なのかも……!?」
と来賓席のドラゴンたちが勝手にビビっている。
このお祭りでアードヘッグさんの支配力が挙がれば一挙両得だな。
『さあ、これにて説明と宣言は終わった! あとは戦いを始めるのみ! さあ、城門を開け! 我がダンジョンに乗り込んでくるがいい!!』
アードヘッグさんの宣言によっていよいよゲームスタート。
これから魔王軍と冒険者のトップ同士による熾烈な競争が始まる……!
かと思いきや……!?
「ちょっと待ったー!!」
そこへ乱入する何者か。
「見過ごせないわね、こんな楽しいイベントを魔族と人族だけで楽しもうなんて。アタシたちを仲間外れになんてさせないわよ!」
その声は……、プラティ。
「人魚族もまた、このお祭りに加えていただこうじゃない。アタシたち六魔女、四天王もS級冒険者も蹴散らして人類最高ってことを証明してあげるわ!!」
 






