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393 博覧会の来客その一

 私の名はヴィクトリン。

 魔族の魔法技術者だ。


 どういう職業を魔法技術者というかというと、形ある物品を魔法によって調整し、品質を向上させたり修復したりする者のことだな。


 そして今、私が魔法技術者として調整真っ最中の対象が何かと言うと……。


 モンスターだ。


 ダンジョンより産出されるモンスターの一部は、使役が可能。

 人族との戦争中は、多くの使役可能な擬人モンスターが前線へと投入された。


 しかし人魔戦争も終結し、擬人モンスター市場は急速に縮小している。

 需要が落ちているのだ。


「何とかならないか?」


 というクライアントの要望で、私がモンスターを改造することになった。


 より強く、より獰猛に。

 従来より遥かに強化された改造モンスターを目の当たりにすれば、魔王軍のお偉い方も、それを使って戦争したいという欲を刺激されることだろう。


「いや、平和利用向けに細かい動作ができるよう調整してほしかったんだけど……!?」


 皆まで言わないでくださいクライアント!

 この天才魔法技術者ヴィクトリン! すべて把握しておりますぞ!


むしろ魔王の力すら超える最強最悪モンスターを製造してみせますぁー!


    *    *    *


 ……ということがあったのが人魔戦争終結直後。


 あれから一年以上の時間を要してしまったが、その甲斐あって納得いく出来になった。

 完成したぞ。


 私作、究極パワーを持った改造モンスター。


 名付けてカスタムオーク・デストロイヤー!


 改造素体としてオークを使ったのは、それが一番手頃だったからだ。

 擬人モンスターとして基礎戦闘力が一番高いのは巨人鬼オーガであるが、強い分貴重だし、あと元々クソ強いのを改造してさらに強くしてもインパクトにいささか欠ける。

 かと言ってゴブリンは小柄で機能追加しにくいし、スケルトンとか骨だけだからさらにどうしようもない。


 ということで色んな意味で一番中間にいるオークを素体に決めた。

 改造の成果は凄いぞ!


 魔法によって従来の筋力を一.七倍にまでアップ! 腕力だけでなく俊敏さもアップし、運用試験で従来のオークがスケルトンを倒すのにかかった時間を十七%短縮した!


 成果は上々。

 自分的にはオークの突然変異種であるというウォリアーオークに迫る性能だと認識している。

 自画自賛ですまないが、どうせそのうちすぐさま自画自賛ではなくなるのさ。


 魔王様を含めた多くの者たちが、我がカスタムオークの性能を目の当たりにするのだから。


 聞けば、完成したばかりの我が傑作に相応しいお目見えの場があるようだ。


 博覧会が開催されているようだな!

 随分久々な開催な気もするが重要なのはそこではなく、なんでも今度の博覧会にはオークが展示されているらしい。


 何やら特別なオークだということだ。


 我が傑作オークを差し置いて生意気な。

 早速博覧会に乗り込み、その生意気なオークを私のオークで粉砕してみせようではないか。


 博覧会ということで見物客も多いことだろう。注目が集まり、我が成果を宣伝するにもってこいの場!


 ゆくぞ我が傑作カスタムオーク・デストロイヤー!

 お前のデビューを飾る舞台が決まったぞ!


    *    *    *


 そして実際に博覧会へと乗り込み……。

 我が傑作オークのデビュー戦は一瞬もたずに終わった。

 見事なまでの瞬殺によって。


「ほはああああああああんッッ!?」


 これは信じがたい事実を目の当たりにした私の悲鳴。

 瞬殺されたのは私の改造オーク。


 相手側の指一本で全身吹っ飛ばされた。


「あまり気分のいいものではないな……」


 相手側のオークが言う。

 ……言う!?


「物品のように改造された同族というのは。まるで我々が物扱いのようではないか」


 オークが一個の人格を持つかのように喋るだと?

 擬人モンスターには自意識を持つどころか、言葉を駆使するだけの知恵もないというのに!?


「あまり趣味のいい行いとは言えませんな。挑まれたゆえに受けて立ったが、このような悪趣味な対戦はこれを限りとしていただきたい」


 と紳士的な口調で諭してくるオーク。


 一体何なのだ、このオークはぁ!?

 我が最高傑作を指一本で吹き飛ばしただけでなく、流暢に言語を操り、論理的に相手を批判する知恵良識を持ち合わせている!?


「いや! これは何かの間違いだ! 私が心血注いで改良したオークが負けるはずはない! 今度はコイツと勝負しろ、カスタムオーク・デストロイヤー三号!」

「まだいるのですか……?」

「三号は、完成水準に達したカスタムオークの中でも一番調整がいい感じだ! きっと今やられたカスタムオークは調整が上手く行かなかった失敗作だったのだ! 従来の性能をまったく出せなかったに違いない!」

「好ましからざるや……」


 ん?

 相手のオークの様子が……?


「自分の部下を物扱いし、まして信頼すらできないとは……? ならば見せつけてやるしかないな。いかなる曲解もできない絶対的決定的な敗北を」


 それから一瞬もかからなかった。

 大本命の三号どころか、一緒に引き連れてきた二号、四号、五号~八号に至るまで、全員が一瞬にして吹き飛ばされて敗北した。


 私の開発したカスタムオークが束になっても敵わなかった……!?


「オークボ殿ー、やりすぎですぞー?」


 傍から声をかけてくる……、ゴブリン!?

 ゴブリンも人語を解する性能あったっけ!?


「その程度の通常オークに毛が生えた程度の付け焼刃、アナタが本気になれば一瞬ももたぬでしょう。観客もいるのですからもう少し盛り上げないと」

「だからだ、多くの人々がいるからこそ、その目に、モンスター改造など何の益もないと知らしめたかったのだ。ゴブ吉殿も同じ気持ちだろう?」

「まあ、そりゃそうですが……」


 オークだけでなくゴブリンまでただ者でない雰囲気!?

 コイツらはもしや……、変異種。


「ウォリアーオーク? スパルタンゴブリン?」


 オークやゴブリンの中には、極稀に変異化して通常の数十倍の能力を持つ個体が現れるという。

 そんな変異個体が戦場に出れば、挙がる戦果も数十倍。


 私のオーク改造作業も、変異種のウォリアーオークを目標にしたものだ。

 しかし今、実際にウォリアーオークがいる!?


「いや、違いますが」

「ええッ!?」


 これだけ凄いオークがウォリアーオークじゃないなら何なのさ!?


「ウォリアーオークがさらに変異化し、二段変異するとレガトゥスオークになる」

「は!?」

「それがさらに変異して、三段変異化のユリウス・カエサル・オークになる。それが私だ」

「三段変異いいいいいいッ!?」


 聞いたことない!?

 そんなことがあり得るのか!? たった一回の変異だけでも数万分の一ぐらいの確率だぞ!?

 その変異化が同個体に三回連続で起こる可能性は数万分の一の数万分の一の数万分の一!?

 気が遠くなる……!?


「ちなみにあっちにいるゴブ吉殿も三段変異している」

「タケハヤ・スサノオ・ゴブリンです」


 ……。

 ……いかん、ショックで意識が遠のいた!?


 そんな兆とか京とかの確率になりそうな三段変異化が二個体も揃って!?

 そんなのと比べたら……、私の改造オークなんてそれこそ子どもの手遊び……!?


「おーい、あ、いたいた……」


 そこへやってくる新たな何者か!?

 今度は何だとビクリとしたが、ホッとするほど普通だった。


「なんかトラブルがあったらしいね。心配で見に来ちゃったよ。この時間はオークボとゴブ吉のエキシビジョンマッチイベントじゃないの?」

「その予定だったのですが、この客人が自分のオークを引き連れて挑戦してきまして……。我が君の予定通りにことが運べず申し訳ありません」


 我が君!?

 あのダイヤモンドのような三段変異体があのフツ―男をそう呼んだ!?


 つまりあの男こそが変異体のオーナー!?

 そして製作者!?


「教えて! 教えてください!」

「うおッ、なんだ!?」


 男に縋りつく私。


「三段変異までした高性能モンスターを作り出す極意を! アナタの卓越した技術に感服しました!」

「何を言ってるのかわかりませんがオークボやゴブ吉たちがここまで育ったのは俺の手柄じゃありません。彼らが自分で成長したんです」


 そんな……!?

 まるでオークゴブリンを一個の人格があるかのように……!?


「強いて言うなら、愛情ですかね」

「愛情!?」

「愛情をかけた分だけ彼らは強くなるんですよ」


 そうか!!

 私に足りなかったのは愛情! オークたちを物品とみなすばかりだから、そこから先へ進むことがなかった!


「わかりました……! 目から鱗が落ちました……!」

「? そうですか……?」

「私もこれから、自分のオークたちに愛情をもって接します! 彼らが奇跡を起こして成長すると信じます!」


 愛は奇跡を信じる力なのだから!

 私のオークたちも、私のできうる限りの愛情で高みに育て上げてみせる!


「一体何なんだ……!?」

「ああいう没頭したいお年頃なのでしょう」

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