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394 博覧会の来客その二

 オイラは魔族のベベギット。

 毎日泣いてます。


 思った通りの皿が作れなくて。


 皿を焼き続けて五十余年。魔国にオイラ以上の皿焼き職人はいないだろうと自負していたのも過去の話。


 あの日あの時あの場所で、大魔王のヤツから見せられた奇抜極まる皿。

 あれの存在を知ったあとじゃあ、もう二度と『魔国一の陶芸家』とは名乗れねえ。


 これまでの皿づくりの常識を超えた色、形。

 あれを超える皿を作ろうと土をこねてはみたが、まったく作れない。超えるどころか真似すら、あの素晴らしい皿に近づくこともできない。


 色鮮やかな着色をしようとしても、どんな塗料を使っていいのかもわからないし。

 奇抜な形にしようとして安易に形を歪めたら強度が落ちて、最悪窯で焼いてる時に割れてしまう。


 何度も何度も失敗を繰り返しても、取っ掛かりすらつかめない。


 始めた当初は、困難だけれどもなんとかなるさと楽観していた。

 オイラが魔国一の陶芸職人だと自負していたからだ。これまでの仕事で培ってきた技術とノウハウがあればやってやれないこともない。

 そんな風に思っていたのに、五十余年分の積み重ねてきた自信が一気に崩された気分だ。


 もうジジイだというのに心が折れそう……!

 晩年に差し掛かって心が折れる事態に遭遇しようとは……!


 オイラのこれまでの職人人生は何だったんだ……ッ!?


「一人でショック受けてないで仕事してくださいよ師匠」


 なんだ弟子!?

 仕事ならしているだろうが! こちとらもう四七〇連勤で皿焼いてるんだぜ!?


「普通の皿を焼いてくださいて言ってるんですよ。変な形だったり変な色だったり売り物にならない皿焼いて。ほぼ趣味じゃないですか。そんな皿焼く四七〇連勤なんてただの四七〇連休ですよ」


 うるせえ! この皿の超絶な価値がわからないからお前はいつまで経っても半人前なんだ!

 何の面白みもない白くて丸い皿でも焼いてろ!


「……(イラッ)」


 すみません!

 でもオイラは新しい皿作りはやめない! いいだろオイラはもう隠居みたいな年代だし、お前らだけで充分仕事回るじゃん!!


「一応師匠の焼く皿ってんでブランド力があるんですがねー。本当大魔王様は余計なことばっかり師匠に吹き込む……」


 オイラもそう思う!


「仕方ない、じゃあ出掛けますか」


 え? 何処に?


「今博覧会やってるって、やっぱり知らなかったんですね。師匠御執心のファーム製の変な皿が出展されているらしいですよ」


 何ぃッ!? ファームの新作!?

 時価にして金貨数十枚。モノによっては金貨数百枚にもなるというファームの変わり皿の新作が出展されていると。


「新作どころか、作った当人が来ているみたいですよ。珍しいっすね今まで名前すら出てこなかったのに」


 なんだってーーーーーーーーーッッ!?


 オイラが会いたくて会いたくて堪らなかったファームの変わり皿の作者がいるうううッ!?

 一目会ってお話したいとあらゆる伝手に働きかけてまったく効果なく、今日まで試行錯誤するしかなかったのに!


「こうしちゃいられねえ! 早速その博覧会とやらに行くぞ!! 直接会って教えを乞う!!」

「そう言うと思いましたよ。あー、これで何かしら見切りをつけるきっかけになってくれればなー」


    *    *    *


 そうしてやってきた博覧会場。

 まさか魔都の外にあるとは。

 移動手段も空飛ぶ謎の馬が引く超巨大な馬車とかありえねーぜ。到着前から度肝を抜かれた。


 なんかお目付け役という意図を隠しもせず同行してきた弟子。


「お目当ての人とモノは、『陶芸館』というところにあるそうですね。陶器製の皿や器が展示してあるそうです。……あ、そこ行く前に『納豆館』に寄っていきます?」


 行かねーよ!

 何処にも寄らねーよ、まっすぐ行く!


 夢にまで見た変わり皿の、その作者との邂逅だぞ! 脇目もふらなくて当然果然!!


 そして肝心の現場に到着してたら日がよかったのか、ドワーフとの技比べとかしていた。


「すげええええええええええええッッ!?」


 あの職工技術では世界一と謳われるドワーフと張り合えるなんて、やっぱりファームの職人さんは天元突破だったんじゃああああッ!?


「オイラは弟子入りする、この名器を作り出した名工に弟子入りするううううッ!!」

「そんなことできるわけないじゃないですか!!」


 弟子に窘められつつも、結局オイラは閉会までその場から離れなかった。


 ドワーフとマイ心の師匠の対決会場を何回も循環し、投票札を貰っては心の師匠に投票した(一枚目以降はすべて無効票)。


 呆れかえった弟子はオイラを放置して、他のパビリオンを満喫したようだが……。


「師匠ずっとここにいたんすか? 天ぷらうどんと焼きそばピザめっちゃ美味しかったっすよ?」


 超満喫しておる!?

 そして離散集合を果たして営業終了後、ついに念願の対面が叶った……!!


    *    *    *


「……まさか心から信愛する名匠がエルフであったとは……!!」


 しかし納得だ。

 魔族職人として五十年培ってきたオイラのノウハウが足元にも及ばず、世界最高のドワーフ職人と張り合えるのは、たしかにエルフぐらいしかいない。


「弟子にしてください!!」

「いきなり五体投地!?」


 エルフ師匠は大層驚いていた。

 まだ若い娘のようなエルフだが、培う技に年齢は関係ない!


「このベベギット、こんなシワシワのジジイになりながらアナタの半分の技感性も修められぬ非才ではありますが、アナタの教えを乞いもっと腕を磨きたい……!! 死ぬまで精進したいのです!!」

「うむ、よい心掛けだ! 私に教えられることなら何でも聞くがいい!!」


 なんと気風のいい!?

 さすがあれほどの名品を生み出す名工! 心の広さも段違い!


「いや、だからダメだって言ってるでしょう」


 弟子ぃ!?


「窯主のアナタが他流に弟子入りしたなんて知れたら、ウチの窯の名声は地に落ちます。勤務職人数十人の生活のために軽はずみなことはしないでください」

「バカヤロウ! 職人は立場を守ることより腕を磨くことだ! そんな保身に阿る性根が技を腐らせるんだ!!」

「くっそ、何だか正論ぽいところが始末に悪い……!?」


 職人たるもの死ぬまで見習いよ!


「いや、待ってください」


 そこに話へ割って入ったのは、我が心の師匠エルロン殿とは別のエルフ。恐らくはエルロン殿の工房に所属する一人?


「おッ、なんだエルトリガー?」

「この際だから言わせてもらいますが、我々もエルロン班長が変な皿作るのに困ってるんですが」

「変な皿!?」


 いきなり反逆!?


「エルロン班長の作る皿に芸術性があるのは認めますが、そればかりだと扱いづらくて普段使いできないでしょう? 最近じゃあ聖者様から私たちの方へ直接『フツーの皿作って』という注文が来るんですよ」

「マジで!?」


 エルロン師匠が驚愕している!?

 知らされていなかった!?


「そんなバカな……!? 聖者はてっきり私の作った芸術食器で日々の食事を愉快なものにしているとばかり……!?」

「最初はそうだったでしょうけれど最近はとみに芸術性優先が甚だしいですから。さすがに扱いづらくなってきたようですね」


 淡々と述べるエルフ。

 あッ、もしかしてこの人、副班長?


「いい機会ですから原点に立ち返って、もっと使いやすいフツーな食器に回帰してください」

「嫌だ! 聖者はともかく全国で私のアカデミックでキュビズムな器を心待ちにしているファンがいるんだ! 今さら路線を変えられない!!」


 わかります!

 オイラもそのファンの一人です!


「大体、私の作った器こそが商会を通じて一番売れてるんだぞ! 最高値も付けてる! エルフの森復旧事業の資金集めのためにも必要じゃないか!?」

「そうかもしれませんが、我々が最優先すべきは聖者様の注文でしょうに……」

「やだやだー! 歪んだ器焼きたいー!」


 わかります心の師匠!


「職人たるもの自身の表現欲に従うことこそ真の職人気質ですよね!」

「いや、クライアントの要求にこたえることじゃないかと……!」

「オイラはアナタに賛同します! いつまでも、いつまでも歪み切った皿を作り続けてください!!」


 オイラと心の師匠はわかり合うのだった。


 その横で、オイラの弟子とエルロン殿のところの副班長がため息交じりに歩み寄り、ガッシリ握手していた。


 なんだ? その困った上司を持つ者同士の親近感みたいな?

 しかもそれに、ドワーフ族のこれまた内弟子っぽいヤツが寄ってきて三人で手を重ね合った!?


『厄介な頭領を抑え合おう同盟』が結成された!?

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― 新着の感想 ―
我々が最優先すべきは聖者様の注文。 まさにそれよ。 他のエルフが作る納品や農場で使う品を、トップも含めて作成しないなら、トップは農場追い出すよとでも言えば良い。
[一言] 自分も困った上司の気まぐれで涙、涙
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