245 成敗締め
こうして公開型、風雲オークボ城・春の陣は大盛況で進行していった。
参加者たちは死力を奮って難関に挑戦し、手に汗握る展開に観客も大興奮。
脱落者たちにはお疲れ様賞の豚汁が振る舞われて、和気藹々とした雰囲気のまま終了まで完走することができた。
最終的に天守閣オークボの下までたどり着けたのは二十三人。
全参加者数三千人を考えれば、この二十三人は相当な猛者と言えるだろう。
ちなみに俺はその中に含まれていなかった。
あえなく第二関門で岩に潰されて脱落したからだ。
転がる大岩が何もないところで突如軌道を変えて、こっちに来るってズルくない?
ユーザーとしての苦情は置くとして。
領主のダルキッシュさんは、今回も見事天守閣まで到達して領主としての面目を保った。
天守閣到達者には、観客全員からの惜しみない拍手が送られてイベントは大成功。
……のうちに幕を下ろせるかと思った、その間際だった……。
* * *
天守閣到達者への授賞式も終わり、あとは閉会宣言ばかりとなったところに、いきなり集団が雪崩れ込んできた。
全身、小奇麗な鎧を着こんだ、兵士の集団だ。
「な、何事だ!?」
領主のダルキッシュさんまで、この不測の事態に動揺するばかり。
つまりこの兵士たちは、ダルキッシュさん配下の領兵ではないということ?
兜の隙間より見える兵士の肌は、魔族であることを示す濃い褐色だった。
「魔族兵? 占領府か?」
「全員動くな。この場は我々が制圧した」
兵士たちの中にいる一人が言った。
顔つきがネズミによく似た、いかにも小狡い人相だった。
「この集会は、我ら魔族への反抗準備の疑いがある。よって取り締まる」
「バカな!!」
領主夫人となったヴァーリーナさんが進み出る。
「この催しは、あくまでレクリエーションで、住民たちで遊び楽しむことを目的にしたものだと占領府に届け出たはずです。許可もたしかに得ました!」
「お偉い人たちに話を通しても、実際に取り締まるのはオレたち兵士だからなあ。不穏な集まりを放置して、あとで怒られたくないしな?」
屁理屈めいたネズミ顔の言葉に、周囲の兵士もニヤニヤ同調するばかり。
全員グルということか。
今まで出会ってきた魔王軍の人々は、位が高く、品格を持った者たちばかりであったが、さすがに一人の例外もなく全員がそうと言うわけではない。
末端になればなるほど、指導者の目が行き届きにくくなって、不正なる者も交じってくる。
「この集会に関わるものはすべて没収する。徴収した参加料も、物販の売り上げも、賞品として用意された珍品もすべて。あの城もな」
……それが目的か。
違法集会と難癖をつけて、イベントで出た利益を統べて掻っ攫っていこうと。
「いい加減にしろ……! 魔族兵士と言えども、貴様らは数十人程度の小勢。我が領地守備軍とまともにぶつかって勝負になると思うのか?」
「その時はお前ら全員反乱軍だぜえ? 何せ魔王軍の兵士に手を出すんだからなあ? 立派な敵対行為だなあ?」
小狡いヤツだ。
アイツ自身がどんなに薄汚い小悪党でも、敗北した人間国と勝利した魔国との力関係とは別問題。
占領中の人族は、どんな些細なことでも反抗の素振りを見せることはできない。
その不自由を突いて……。
「一月と経たないうちに魔王軍本隊がやってきて、こんな小領瞬く間に更地よ。それが嫌ならオレたちに分け前をよこすんだなあ? えぇ?」
「この魔族の恥さらし!」
今や領主夫人となったヴァーリーナさんも食って掛かる。
「占領府の魔族たちが今、必死に人族との融和を目指して働いているのに、お前のような小悪党がそれをブチ壊しにしようと言うの!? それこそ魔国への、魔王様への反逆よ!」
「ハッ! 魔王が何だってんだよ! あんな無能に従う方がバカなんだよ!!」
不良兵士、自分こそ首が刎ねられそうなことを言う。
そもそも、肌の色からヴァーリーナさんが魔族だと気づくこともできないのか。
元・監察官の彼女の立場を使えば、容易に占領府上層部に知られるというのに、その程度の予想もできないというのか。
いや、その方法で行くとしても、とりあえずこの場は凌がなければならない。
不良兵士たちに騒ぎを起こさせないため、一度は折れなくてはならない。
要求を呑んで、賞品やお金を差し出す?
それは悔しいことだ。
「こんな遠い僻地によ! 魔王様の目が届くわけがねえだろ! 占領府のお偉いバカどもだって、オレらのような下っ端までいちいち意識は回らねえ! 好きにやらないでどうするんだよ!」
この時点で俺は、周囲にいる農場の仲間に指示を出して、兵士を蹴散らすこともできた。
しかししなかった。
この場において、もっとも制裁の拳を振るうべき人が、既に動き出していたからだ。
「勝った魔族が、負けた人族を虐げて何が悪いってんだよ? そんな簡単なこともわからず真面目に働いてるヤツはバカだぜ! 魔王もバカだ! だからオレらが美味しいところを貰ってやるんだよ!」
「魔王の目が届かぬか、魔王はバカか……!?」
背後から、不良兵士の頭がむんずと掴まれ、一八〇度回される。
首が捩じ切れてもかまわんと言うぐらいの勢いで。
「ぐえッ!? 誰だ、魔王軍の兵士に歯向かうのは!? 牢屋にぶち込むぞ……、えッ!?」
「拘束してみるか? この魔王を?」
魔王ゼダンさん登場。
参加賞バッジ(第一関門までたどり着いたしるしの星一つ付き)を胸に着けていた。
「まッ、魔王様……ッ!? 何故こんなところに!?」
「貴様ごとき下級兵でも我の顔は見忘れなかったようだな。ならば我に逆らうことの恐ろしさも共に忘れなければよかったものを……!」
魔王さんから頭頂を鷲掴みにされた魔族兵士は、足の裏が地面から離れていた。
頭蓋骨がひび割れるギシギシとした音が鳴る。
「魔都から遠く離れた旧人間国なら、我が目も届かぬと思ったか……! なんと愚かしい。貴様のしていることは、立場の弱い人族を虐げ、占領府の魔族たちを侮辱する大悪だ……!」
「魔王様……! これは違います! 誤解なのです……!!」
「貴様は罪を犯した! この魔王に背いた! 他に何がある!!」
魔王さん、魔族兵士の頭を鷲掴みにしたまま地面に叩きつける。
土の中に頭がめり込んで、体はピクピクと痙攣するだけだった。
「他の兵士ども! お前たちも同罪だ! この愚物一人に罪を擦り付けられると思うなよ!! 一人一人しっかりと追及して然るべき処分を与える!!」
他の兵士たちも次々武器を捨て、力なく崩れ落ちていくのだった。
* * *
「つい最近アロワナ王子を煩わせたばかりだというのに……。制度の長い継続が、避けられぬ腐敗を呼び込んでしまっていたか。それが人魔戦争の終結と共に、勝者の驕りとなって表面化してきた……!」
不良兵士たちは、逆にダルキッシュさんのところの領兵によって拘束され、数珠繋ぎにされていた。
そして魔王さんは、ダルキッシュさんに謝罪をする。
そこに支配者の傲慢さは欠片もなかった。
「これからコイツらを引き連れて占領府へ乗り込み、総督を叱り飛ばすつもりだ。末端とはいえ部下の不正を許す管理の甘さ。そのままにはしておかぬ」
占領府をまとめる総督さんは、魔王さんが直に任命して信頼厚い人材らしいけれど、これは怒られるしかないから大変だなあ……。
「その対処に免じて、今しばらく魔族の振る舞いを見守っていてほしい。けっして人族を虐げる無道の支配者にならぬつもりだ」
しかしダルキッシュさんの方は、いきなり魔王さんが登場した事実を受け止めきれず、何かの間違いじゃないかと疑っていた。
「ヴァーリーナ」
「はひッ!?」
いきなり名前を呼ばれてガッチガチに緊張する女魔族さん。
「アスタレスから伝え聞いている。監察官として旧人間国に赴任しながら、領主と縁を結んだと」
「恐縮です! けっして愛欲に走ったとかそういうわけではなく……!」
「お前たち夫婦は、これより魔族人族融和の先駆けとして、好ましき一例となっていくことだろう。夫婦力を合わせて、領土の繁栄に力を注いでくれ」
「はいぃ……!?」
今まであえて触れてこなかったけど、監視対象と結婚しちゃうなんて職務規定上どうなのと思わないでもないが、お墨付きを貰えてよかったね。
不正や私腹のためにやったことじゃないから好ましいのか。
「……休息を楽しみに来た現場で、まさかこのような魔族の醜態を目撃することになろうとはな。我もまだまだ、のんびり休んではいられぬようだ」
そう言って魔王さんは、罪人を引き連れ会場から去っていった。
まずは旧人間国の占領府へ乗り込んで、腐敗を一掃なされるのだろう。
こうして第一回、風雲オークボ城・春の陣は、魔王登場からの名捌きという超展開によって締めくくられたのだった。
* * *
こうして、オークの城を巡る様々なアレやこれらは一端の終息を得た。
イベントは、予想外のポジティブ効果をもたらした。
人族にとって虎よりも恐ろしい魔族の不正官吏を、魔王みずから糾弾して成敗する場面を多くの人々が目撃したのだから。
魔王は不正を許さない、魔族人族に関わりなく弱き民草の味方であるという認識が世界中に広まった。
これによって支配された人族たちの不満も緩和され、世界は平穏へと向かっていくことだろう。
………。
オークボたちが建てた城を巡って世界がよい方向に行くなんて……。
なんでそうスケールが盛大になっていくの?
ともかく、イベントで得た利益はダルキッシュさんとヴァーリーナさんの領を大いに潤し、麓の村は村おこしに成功して賑わうことになった。
これに触発されて旧人間国全体の人の流れに火がついて、全体的に豊かになっていったらとてもいいことだ。
ちなみに、現地の皆様からはまたやってほしいと言われたので、また来年に春の陣を執り行おうと思う。
今度こそ俺も天守閣まで到達するぞ!!
……いや。
まずは第二関門突破を目標にして……!







