1575 ジュニアの冒険:いただきますをありがとう
こうして農場一の凶鳥ヨッシャモの試練もクリアした僕たち。
結局ノリトとは、その後『醤油かソースか?』の第二次目玉焼き戦争も繰り広げてまこと時間の空費だった。
「さあ、それでは次行きますよー」
すっかり司会進行役のベレナさん。
このまま最後までついてきそうな気さえしてきた。
そしてヨッシャモの方は今でも背後にうろついている。
鳥頭で僕らの存在はメモリー消去されているものの、少しでもまた意識に入れば、それこそ烈火のごとく猛追してくることだろう。
今、そこにいる恐怖の総和。
早いこと農場に送り帰してもらえんかな?
「えー、でも近づいたら怖いですし、あのままにしておきましょう?」
ベレナさんアナタまで!?
誰も近寄りたくない凶鳥。
だったらもう僕たちから離れていいくしかないか。
「次の相手は、ある意味ラスボスと言える存在です。ジュニアくんもノリトくんも、機をしっかり引き締めてくださいね」
ラスボスだって!?
まさか父さん!?
「え? もう?」
ノリトも意表を突かれて、僕もびっくらこいております。
いくらなんでも父さん出てくるのは早すぎない?
まだオークボさんもゴブ吉さんも出てきていないぞ?
父さんに至るまでの途中で、最低でもあの御二方は必ず出てくると思っていたんだけれど?
「え? 何言ってるんです? 聖者様のご登場はまだまだまだまだまだまだまだまだ先ですよ?」
「まーだまだまだ!?」
そんなに先!?
そっちも気になるけれどベレナさん、たしかに今『ラスボス』という語句を出しましたよね?
この天空オークボ城にてラスボス的存在といえば父さんしか思い当たる節がないのですが?
「それはもちろん、この天空オークボ城の最後の最後に待ち受けているのは聖者様ですよ? しかしその前段階……アニマルパートのラスボスこそが、次に待ちかまえるあの御方!」
アニマルパート!?
たしかにここまで動物たちのオンパレード……。
金剛カイコ、ポチたち、ヨッシャモ。バティさんとベレナさん……。
「ちょっと私たちまでアニマルカテゴリに入れないで?」
でもここまで登場した方たちですし。
たしかに言われてみれば、ここまで出てきた対戦者たちは皆、姿形も十人十色だから惹かれあうアニマルフレンズ。
さすがにこれだけ続けば怪しいなとは思ったが、ついにその流れの締め括りが来るというわけか。
そういう意味でのラスボス。
いわば、けものラスボス!
「一体誰が来るんだ? ウチに関わりのあるアニマルって何がいたっけ?」
ノリトも手に汗握りながら、これから現れようとしているモノへの警戒を高める。
一体何者か?
猫の博士か? しかしノーライフキングのあの人が来たらもう違う次元の戦いが発生してしまうぞ?
あるいはヴィール……ドラゴンもアニマルか? でも当人がそんな扱い受けたらまず間違いなくブチギレそうだなあ。
本当に誰が来るのか予想つかない!
「では登場してもらいましょう! 農場のけもの界トップを猪突猛進する、この方を!」
ドドドドドドドドドドドドド……!
なんだ、この足音は?
こっちへ近づいてくる?
ドドーンと!
壁をぶち破って何者かが現れた!?
扉が開いて、天井が開いて、挙句の果てに壁破壊!?
そんなデタラメな登場をしてくるのは……。
「角イノシシだぁああーッ!!」
イノシシ!
角が生えたイノシシ!
フンスフンスと鼻息荒く、前脚を掻いて突進の予備動作をしている!
今、突撃で壁を破ったばかりなのに!
さすが野生動物、闘争心が高い。
「角イノシシじゃないですよ、スクエアボアですよ」
と訂正してくるベレナさん。
えッ、でも……。
父さんはいつも角イノシシと……。
「聖者様はいついかなる時も、その呼び名を変えませんからね。でもスクエアボアなんです。正式名称はそっちなんです」
そうなんですか……。
角イノシシもといスクエアボアさんは、ご当人(?)も肯定するように頭を上下に振る。
「スクエアボア最大の特徴は、頭部に生えた二本の角。この二本の角と、口から生えた二本の牙、その頂点を繋ぐことで四角形ができあがることがスクエアボアの名前の由来です。他にも額に一本のみの角が生えたトライボアという亜種もいますが、強さや素材の良質さなどは圧倒的にスクエアボアの方が上とされています」
「角が多い方が上位種なのかー」
誇らしげにフンスと鼻を鳴らすスクエアボアさん。
……人語を理解なさっている?
「また角二本牙二本を結んで浮かび上がる四角形が、正方形に近ければ近いほど立派とされているんだそうです。求愛の際にも有利になるらしいですね」
動物雑学。
しかし、今はそんな話題で『へぇ~』と感嘆している時ではない。
僕らには、何よりまず指摘しなければならないことがある。
「食料じゃん!」
先にノリトのツッコミが入った。
さすが我が弟、類まれなるツッコミ力。
「農場の仲間っていうよりは、食料じゃん! いいのかメンツにカウントしてしまって!? 後々気まずくならない!?」
ノリトも指摘ももっともだ。
彼(?)スクエアボアの農場的認識は……食べ物。
野山(山ダンジョン)を元気に駆け回っているところを狩って、バラして、調理して……。
美味しくお腹に入れて栄養に変える。
農場住人にとっては貴重かつ重要なたんぱく源、それがスクエアボアだ。
彼らが山に生息しているお陰で、農場の人々は食料に困らず、お肉に困らず過ごしてきた。
父さんの作るスクエアボアのとんかつはサイコーだ。
僕やノリトがこんなに大きくなりましたのも、父さん母さんだけでなくスクエアボアさんたちのお陰であるともいえよう。
一体これまで何百……いや何千頭というスクエアボアが、僕らのためにお肉になってくれたのか。
その感謝を一日たりとも忘れてはならない。
それはそれとして、だ。
今まで食してきた対象がいきなり登場して来ても『逆襲か?』としか思えないんですが。
僕らは今まで、アナタの仲間たちを狩りまくってきたわけで。
その関係性を今さらどうしようというのですか!?
『……それはトンでもない勘違いですぞ』
えッ?
今の声は?
慌ててノリトの方を向くが、ヤツも驚愕の顔でこっちへ向き直し、かぶりを振った。
それは『翻訳機? 使ってないですよ?』の意味。
脳内に直接語り掛けてくる!?
『私は日々、感謝と喜びをもって皆様に捧げられておりますぞ。お陰様で、ポーク(僕)は霊的に進化を果たし、人々との意思疎通ができるまでにトンでおります』
食べ物と意思疎通するのしんどいんですが!?
「これが……この場にスクエアボアさんがいる理由です」
ベレナさんが知った風な感じで言う。
「生まれては食べられ、食べられては生まれ、それを無限に繰り返すことで輪廻転生した、彼らは既に、霊的に高位な存在なのですよ!」
そう説明されているうちに、なんかスクエアボアさんがペカーッて輝きだしてなんだか神々しい。
これがスクエアボアさんの真なる姿!?
神聖さが止まらないじゃないか!?






