1556 ジュニアの冒険:オークボ城の現在(いま)
僕ジュニア!!
オークボ城……?
オークボ城だって!?
『さすがにそちらには心当たりがありましたか、フォフォフォフォフォ……』
心当たりなんてものじゃありません!
オークボ城と言えばかつて、農場の人たちが夢中になって取り組んだ一大イベント!
農場の重要メンバーであるオークボさんが建てた城に、有象無象が攻めかかるという設定で繰り広げられる攻防戦!
城に仕掛けられた罠を掻い潜り、城主オークボさんの待つ天守閣へとたどり着くことができるか!?
……という内容だったはず。
『いかにも。……あの頃は皆、情熱に漲っておりましたなあ。どうすれば最高に楽しめるイベントを作り出せるか、と知恵を出し合ったものです』
先生が当時を懐かしんで遠い目をした。
そんなオークボ城が開催される土地がここ、ワルキア辺境領……。
僕にも、幼き日のオークボ城の思い出は目を閉じるだけで、目蓋の裏に浮かんでくる。
飛び交う怒号、押し寄せる群衆、血走った必死の形相、次から次へと罠にハマって、上がる断末魔の声……。
見ろ! 人がゴミのようだ!
『誰一人としてゴールまでたどり着かせまい。しかし難しいだけでは楽しんでもらえない。ああでもな、こうでもない、と皆でウンウン唸っておりましたなあ』
先生も懐かしそうだ。
そういえば……、季節もそろそろ冬に入ろうとしている。
冬こそオークボ城の季節だ。
何しろ冬は農閑期。
作物が実らず、農家としては暇になることこの上ない時期に、暇潰しとして始まったのがオークボ城だったのだから。
それがいつの間にやら年に一度の情熱燃え上がるお祭りに……!?
『ジュニア殿はオークボ城についてのは、何かしら記憶に残っておりますかの?』
孫に聞くおじいちゃんのように聞いてくる先生。
……はい、おぼろげながら記憶に残っています。
直接参加したことはあったような、なかったような……?
しかしながら母に手を引かれて周辺の露店を巡ったり、観客席で父始め多くの参加者さんたちを応援した記憶は強く残っていた。
『そうですか、そうですか。楽しい思い出が残っているのはよいことですな』
しかし……。
……いつ頃からだろうか、農場の皆はオークボ城を執り行わなくなった。
冬はただひたすら農場国の拡大拡充に努め、オークボ城のことは話題に上ることもなくなっていったように思える。
『その通り、ジュニア殿の知っている通りですぞ。何故ならある時期をきっかけに農場の者どもは、オークボ城を手放したのですからな』
ええッ、手放した!?
オークボ城を!?
あんな楽しい催しごとを、一体何故!?
『きっかけは農場国ですぞ。聖者様が主導するあの国家が立ち上がり、その運営発展に注力するゆえに他に避ける余裕がなくなった……というのが一つ』
一つ!
それから?
『もう一つの理由としては、オークボ城が開催されるここワルキア辺境領が人間国、……というのが問題になりました。農場国とは他国という関係性になってしまいますからな』
そうか……そういう関係性になれば、いわば他国の行事に首を突っ込むのは、いわば部外者からの干渉だ。
部外者の干渉。問題しか起きなさそうな言葉の響き。
『そういうわけで農場は、オークボ城から撤退することになったのです。しかしだからといってオークボ城が廃止になったわけではありません。あとの運営を地元に託したのです』
地元?
地元というと……!?
『ここワルキア辺境領の領主殿ですな。聖者様とも昵懇の間柄で、オークボ城を託すにはうってつけの相手ですぞ』
なるほど。
そういえば幼き日の記憶にあるような。
『ではまず、そのワルキア辺境領の領主へ会いに行くとしましょう。さあ、こちらですぞー』
グイグイ進んでいく先生。
この人、ここ最近になって殊更に活動的になったような?
『さあさあ皆の者ー。ノーライフキングがやってきましたぞー』
そのセリフ、一般的には死と絶望なんですけれども。
しかしながら、ここの住民たちには慣れたものなのか、軽く挨拶を送られただけで混乱はないに等しかった。
* * *
そして僕たち一行。
領主の館と思しき場所へ到着。
『頼もう頼もう、ノーライフキングの訪問ですぞ』
先生。
ですからその宣言は、相手にとっては死の宣告に等しかったりするんですよ。
「はい、ようこそお越しくださいました。速やかにお入りください」
しかし相手の対応も思いっきり慣れたものだった。
このお屋敷の使用人と思しき人たちが門を開け、先生と僕を館内へと導いてくれる。
「本日はお日柄もよく……、お荷物をお預かりしましょうか、足元にお気を付けください」
人々の対応はいかにも丁寧で、ここまで丁重に扱われると自分が一門の者だと思い違ってしまいそうだ。
「旦那様、お客人が到着されました」
「うむ、そうだな」
さらに出迎えてくれたのは、……領主!!
……と一目見て確信できてしまうほど、長年男を磨き上げてきたようなダンディズムなおじさんだった。
「ようこそ我がワルキア辺境領へ! 先生! ご無沙汰しております!」
『ダルキッシュ殿こそ、すっかり貫禄が備わって。いまや誰が見ても疑いようのない名領主ですな』
出迎えに現れたダンディさんに、満足げな先生。
テリトリーダンディは領地のダンディである、とでも言わんばかりのダンディズムなおじさんに、僕は対面しただけで圧倒されていた。
『紹介しますぞダルキッシュ殿。この少年こそ、聖者様が息子にして長男のジュニア殿です』
「うおおおおおおおおッ! 彼が!? よくぞいらっしゃった領主のダルキッシュともうします!」
うおおおおおおッ!?
迫ってくるダンディ!?
気兼ねなく両肩を抱いてくるところも年長のおおらかさが出て大迫力!?
「懐かしいな! 聖者様に手を引かれてキョロキョロしていた男の子を覚えていますぞ!」
うーん、多分それ僕。
「アナタの御父上には大変お世話になりました! 聖者様こそ我が領の救世主! かつて僻地の片田舎でしかなかったワルキア辺境領が発展できたのも、聖者様のお導きあってこそなのです!」
ええッ、そうなんですか?
でも、そういう話ホントあちこちで聞いてばかりなんですが?
『この土地は、オークボ城で街おこしした地でもありますからな』
先生が補足的に言う。
「その通り! 正直私が継承したばかりのワルキア辺境領は、本当に何もない辺境でした。主力とするべき産業もなければ特産品もなく、誇れる名所もないし伝統もない。そんな田舎領に生まれて緩やかに死んでいくだけ……と思っていたところへ現れたのがオークボ城です!」
そんな伝説の魔獣みたいに言う。
城ってそんな襲来してくるような登場の仕方、する?
「オークボ城は、かつてない斬新な企画で参加者たちの心をわしづかみにし、その名は国境を越えて広まっていきました。境中の数えきれない人々がオークボ城を求めて、この領へと集まってきたものです」
『まさに雲霞のごとく、ですなあ』
「人が集まれば貨幣も集まるのが経済原理……というもの。オークボ城は財政的な潤いをも我が領に与えてくれました。オークボ城に参加する人、観戦する人。彼らが領に滞在するだけで食費宿泊費交通費お土産代、あらゆる費用が領に落ちていき、領の富と変わる……!」
『濡れ手に粟ですな』
テンポよく先生の相槌が入る。
「オークボ城一度の開催で、凄い時には料の収入数年分の儲けが出る時もありました。その利益が、我が領にどれだけの発展をもたらしたことか!」
『降ってわいた莫大な利益を、ちゃんと自領へ還元できたのはダルキッシュ殿の領主としての才覚ですぞ。大抵のものはいきなり巨万の富を手にしたら、どう扱っていいかわからずに困惑するばかり。酷ければ贅沢に溺れることだってあり得ますぞ』
「領の富は、領民全員の富。私個人が勝手に使っていい道理はありません」
領主として健全すぎる発言であった。
「それに私には賢い妻がおりますので、彼女の助言あってこそ資産の適切な運用ができようというものです」
『理想の夫婦ですのう』
カッカと笑い合う先生とダルキッシュさん。
僕の知らない一地方量の歴史が紐解かれる?






