1548 ジュニアの冒険:逆転の発想
うおおおおおおおッ!? これはッ!?
凄い!?
凄すぎる!?
想像以上に一方的な展開だった!
アレキサンダーさんは、自分の力を開放するだけだ!
それなのにただひたすら追い詰められていく!?
『痩せ我慢はお勧めできませんぞ。アレキサンダー様に抗しうる者など誰もいないのですからな』
アレキサンダーさんに従う忠臣……ノーライフキングの家令さんが淡々と話していくのだった。
たしかに、ここまで一方的だとは思わなかった。
アレキサンダーさんは僕に対して、蹴ろうだとか殴ろうだとか、敵対行動を一切取っていない。
ただ自分の力を数千万倍、数億倍と増やしていっているだけだ。
自分の力を、耐えられるだけ倍加させる竜魔法。
それがアレキサンダーさん唯一にして最強の能力。
その力の限界は、億どころか兆どころか京すらも軽く飛び越え、もはや人間の想像力も遠く及ばない。
さすれば、どういうことが起こりうるか?
アレキサンダーさんは、ただ力を開放するだけで、蹴ったり殴ったりもせずブレスを吹きかけたりもせず、まして策を弄することも必要なく……。
ただ純粋な力の開放だけで、こちらを追い詰めることができるんだッ。
事実、アレキサンダーさんの放たれた力が生み出すプレッシャーだけで、こっちは近づくことすらできないし。
この世界自体も、大きすぎる力の偏重に軋み始めて、このままでは最悪、世界の崩壊に巻き込まれて僕自身も消えそうだ。
本当に、戦いのために別の宇宙に連れてこられてよかったと思う。
ここまでの開放を、元の世界で行われたらと想像するだけで背筋がゾッとする。
『六億倍……十五億倍……二十三億倍……』
そんな中でもアレキサンダーさんは、黙々と己のパワーを上げ続けている。
その行為自体が、こちらを気が狂わんばかりに追い詰めつつある。
アレでまだ限界値の一億分の一にも満たないというのだから絶望しかない。
術や技……戦術や戦略。
そういったものを一切使用せず、正真正銘ただの力だけで相手を蹂躙する。
これが真なる王者……いや、真なる強者の戦い方なのか!?
『そろそろ精神に限界がき始めているのでは? 常人ではとっくに気が触れているところですが、S級冒険者に匹敵する者なら大体、精神力も並大抵ではありませんからな。このくらいまでは耐えられます』
また家令さんが淡々と詰めてくる。
この人の解説も精神的にアレなんだよな。
たしかに精神を押し込まれる圧迫感に、今にも叫び声を上げたくなってくる。
限界を遥かに超えて放出されるアレキサンダーさんのパワーに、世界自体が許容範囲を越えて圧迫され続けている。
その圧迫感が僕にまで影響を及ぼしつつあるんだッ。
この世界に一分の隙間もなく、アレキサンダーさんパワーが充満して一部の隙間もない。
それどころかこの宇宙の体積そのものが、アレキサンダーさんの力を収めるにはもはや足りず圧力を高めつつある。
それこそ、空気を入れすぎた風船が膨張していくかのように。
気圧ならぬ力圧。
その圧力に僕も押されて窮屈な感覚が物凄い。呼吸もままならず、汗がとめどなく流れ出る。
本来、宇宙という何もない空間で、ここまで息苦しい感覚を味わうことになろうとは。
すべてはあらゆる想像力も及ばない、アレキサンダーさんの桁外れのパワーゆえだった。
『百三十億倍……二百六十億倍……、まだ耐えるか? そろそろS級冒険者でも我慢できなくなってくる頃あいだが……?』
アレキサンダーさんが気遣わしげに言ってくる。
『できるだけ早く降参してくれよ。精神的な破損もそうだが、このまま行くとは物質的にも無事ではいられなくなるのでな』
『ええ、案外人間の体は、耐えられなくなった瞬間“プチッ”と行きますのでな』
なんか怖いこと言ってるッ!?
しかし彼らの言う通り、力の圧だけで僕はもう陥落寸前なまでに追い詰められている。
宇宙に充満するパワーでもう身動きが取れなくなって、呼吸も浅くなっている。
宇宙で呼吸というのも妙な話だが……この空間に僕らを移動させた家令さんが何らかの補助をしてくれているようだが、それすら拷問のように思えてくる。
いっそ呼吸もできずに窒息できたらどれほど楽か……と。
それほどに純粋な力の圧が耐えがたいほどの段階まで来ているッ!?
『ううむ……、思ったより耐えるな。カトウくん辺りはもっと前の段階で音を上げていたように思うが』
『危機管理の高さでは、彼は卓越していましたからね。別に長く耐えられればえらいわけではありません。むしろ自分の限界を見極められずにやせ我慢する方こそ冒険者としては未熟でしょう』
くっそう……好き放題言いやがって……!?
しかしこのままでは本当に、痩せ我慢の末に何もできず……手も足も出ないまま終わる未来しかない。
それはあまりに受け入れがたい。
せっかく挑戦したというのに、何もできないままで終わるのは格好がつかなすぎる。
せめてなにか、一矢報いることはできないか……?
僕にだって何の手立てもないわけではない。
これまでも敗北必至のピンチは何度だってあったが、それを紙一重で切り抜けてこれたのは、この手に宿った頼れる力『究極の担い手』があったからだ。
触れたものの潜在能力を限界以上まで引き出すこの能力のお陰で、僕はここまでどうにかこうにかやってこれた。
この絶望以外に何もない状況でも『究極の担い手』さえあればなんとかなる。
そんな淡い期待が、僕を突き動かす。
しかし、どうやって『究極の担い手』を逆転の糸口にする?
『究極の担い手』には、作用させる対象が必要不可欠だ。
しだがこのアレキサンダーさんとの勝負のために用意された空間には見事なまでに何もない。
アレキサンダーさんの力が強すぎて、何もかも吹き飛ばしたって問題ないようにした空間なんだからさもありなんだが。
これでは逆転のきっかけすら掴めない。
むしろ、この世界に充満するアレキサンダーさんの力の圧……、いや力の圧なんてどうやって触れればいいんだと思う。
『究極の担い手』は、手で触れられるものにしか発動しないんだ。
力の圧なんて概念みたいなもの。手で触れられようがない。
そしてそれ以外は何もない世界……。
万策尽きたではないか。
本当に何もないのか? この手に触れてポテンシャルを引き出せるものが?
『まだ痩せ我慢を続けますかジュニアくん。不可能なことに拘り続けても意味はありませんぞ』
くっそ、家令さんめ、なんであの人が勝ち誇ったように迫ってくるんだ?
……いいや?
待て?
あったかもしれない、逆転へと続く一本道が。
そうなったら迷っている暇など一瞬たりともない。気づいたからには突き進め。
うりゃあああああああッッ!!
『うおおおッ? 何事です!?』
自分自身に迫ってくるとは思わなかったようで困惑する家令さん。
しかし反応が遅い。
彼の腕を掴んだことでこちらの条件を満たした。
『究極の担い手』は発動する。
『うおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!?』
そう、家令さんは、アレキサンダーさんの部下としてアレキサンダーさんの力を分け与えられているという。
だからこそ『自分は三賢に遥か遠く及ばない』と謙遜しながらその実、先生、博士、老師の三大ノーライフキングに限りなく近い強さを誇っている。
ならば……その『アレキサンダーさんの力を分け与えられた』という家令さんの特性を、『究極の担い手』でジャックできれば。
最強の力を持つアレキサンダーさんに、まったく同じ最強の力で対抗できるかもしれない!
『ぐおおおおおおッ!? そんなッ! 私を利用してアレキサンダー様に歯向かうなど!』
すみません家令さん! この勝負が終わるまで利用せてください!
ちょっとくすぐったいぞ!!
『究極の担い手』に主導権を奪われて、家令さんの白骨の体がフレキシブルに変動する。
『こ、これはぁあああああッ!?』
家令さんが変形した。
白骨の全身が並び変わって棒状に。
いや、これは剣だ。
剣と化した家令さん……。家令ブレイドフォームだ!!
この家令ブレイドに、主従関係から接続されたアレキサンダーさんのパワーを引き出す。
ふぉぉおおおおおおおおおおッッ!!
刀身から噴き出す凄まじきエネルギーッ!
『ぬおッ!? こんな形で我が力を自分のモノにするとは……!?』
アレキサンダーさんも驚きのご様子。
見たか! これこそが人間の力だ!!
この勢いのまま逆転勝利を収めてやる!
家令ブレイドを真っ向から斬り下ろして!
縦一文字……!!
……プチッ。
あれッ。






